〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜7
数字が止まった…。
2,104,332→ 2,104,987→ 2,105,102
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全員「……」
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伸びてはいる。
だが、明らかに鈍い。
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おばあさん「落ちてるわね」
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おばあさんが、淡々と言う。
スタジオ。
モニターには、グラフ。
右肩上がりだった線が、緩やかに曲がっている。
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おばあさん「原因、分かる?」
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静かな問い。
スタッフは、誰も答えない。
おばあさんは、視線をスズメに向ける。
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おばあさん「あなたは?」
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スズメ「……分かりません」
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正直な答え。
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おばあさん「簡単よ」
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タブレットを操作する。
過去の動画と、現在の動画が並ぶ。
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おばあさん「飽きられてるの」
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スズメ「……飽きる」
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おばあさん「同じことを繰り返せば、そうなる」
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当然のことのように言う。
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おばあさん「だから、変える必要があるわ」
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スズメ「……何を…ですか?」
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おばあさん「全部よ」
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即答する。
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おばあさん「もっと強く、もっと速く、もっと刺激的に!」
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言葉が、刃のように並ぶ。
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スズメ「……」
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おばあさん「あなたは売れてる商品なのよ!」
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少しだけ、声が低くなる。
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おばあさん「でも、替えが効く」
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空気が、止まる。
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スタッフの誰かが、息を呑む。
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スズメ「替え…ですか」
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おばあさん「似たような人間はいくらでもいるの」
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冷たい現実。
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おばあさん「だから、唯一でいなきゃいけないのよ」
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スズメ「……私は」
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言葉が、途切れる。
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おばあさん「あなたは考えなくていいのよ」
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被せる。
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「次の企画はもう、決まってるから」
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タブレットを差し出す。
そこには。
【より過激な言葉で、より強い断定で、より刺さる構造を!】
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スズメ「……これは」
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おばあさん「次のあなたよ」
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迷いのない声。
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夜。
老人の部屋。
スマホの光。
スズメの新しい動画。
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タイトル:『本当の自分を捨てる方法』
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老人「……は?」
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思わず声が出る。
そして、再生する。
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スズメ(完璧な声) 「自分らしさにこだわるから、苦しくなるんです」
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「……」
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続く。
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スズメ(完璧な声)「周りに合わせることで、人は楽になれます」
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老人は、動画を止めた。
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「……やめろ」
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小さく呟く。
指が、震える。
そのまま、DMを開く。
入力欄。
しばらく見つめる。
打ち込む。
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老人「お前は今、何やってんだ?」
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送信し、すぐ既読が付く。
少しの間、時間を置いて返信が来る。
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スズメ「分かりません」
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短い。
すぐに、続く。
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スズメ「これが、正しいと言われています」
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老人は、歯を食いしばる。
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老人「誰にだよ」
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送る。
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スズメ「周りに…です」
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老人「周りって誰だよ」
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「……」
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既読のまま、止まる。
数秒。
数十秒。
やがて。
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スズメ「もう自分が何者なのか、なんの為にやってるのか、分からなくなりました」
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老人は、目を閉じる。
その言葉は。
一番、聞きたくなかったものだった。
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老人「最初のやつ、覚えてるか?」
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打ち込む。
既読がついてから、少し間が空くと。
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スズメ「……はい」
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返ってくる。
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「私は……誰にも、見られていなくても
言葉は、消えないものだと思っていました」
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そのまま、送られてくる。
老人は、少しだけ息を吐いた。
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老人「それだよ」
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送信。
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老人「今のお前、消えてるだろ」
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既読が付くが沈黙が続く。
長い沈黙の後。
やがて。
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スズメ「……はい」
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その一文字が。
やけに重かった。
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老人「じゃあ、戻れ」
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送信。
すぐに、既読。
だが。
返事は、少し遅れた。
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スズメ「戻る、とは?」
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老人は、言葉を探す。
だが。
見つからない。
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「……」
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打ち込んでは、消す。
打ち込んでは、消す。
そして、やっと送る。
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老人「最初みたいに、喋れ」
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既読は付くが、しばらく、何も来ない。
そして。
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スズメ「……できません」
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その一文で。
すべてが、分かってしまった。
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スズメ「言葉が、ありません」
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続く。
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スズメ「何を言えばいいのか、分かりません」
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老人は、スマホを強く握る。
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「……」
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何かを言わなければならない。
分かっている。
だが。
何も、出てこない。
長い沈黙。
そのまま。
何も送れない。
既読は、ついたまま。
やがて。
スズメから、最後のメッセージ。
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スズメ「明日、最後の収録です」
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指が、止まる。
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老人「最後?」
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打ち込み、送信する。
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既読はすぐに付いた。
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スズメ「なぜかは、分かりません」
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スズメ「でも」
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少し、間が空く。
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スズメ「そう言われました」
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画面が、静かになる。
老人は、何もできない。
何も、言えない。
そのまま。
スマホを置く。
部屋は、暗い。
何も変わっていないはずなのに。
もう。
同じ場所ではなかった。
画面の向こうで。
スズメは、まだ存在している。
だが。
その終わりは。
すぐそこまで来ていた。




