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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
7/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜7


数字が止まった…。


2,104,332→ 2,104,987→ 2,105,102


---


全員「……」


---


伸びてはいる。


だが、明らかに鈍い。


---


おばあさん「落ちてるわね」


---


おばあさんが、淡々と言う。


スタジオ。


モニターには、グラフ。



右肩上がりだった線が、緩やかに曲がっている。


---


おばあさん「原因、分かる?」


---


静かな問い。


スタッフは、誰も答えない。



おばあさんは、視線をスズメに向ける。


---


おばあさん「あなたは?」


---


スズメ「……分かりません」


---


正直な答え。


---


おばあさん「簡単よ」


---


タブレットを操作する。


過去の動画と、現在の動画が並ぶ。


---


おばあさん「飽きられてるの」


---


スズメ「……飽きる」


---


おばあさん「同じことを繰り返せば、そうなる」


---


当然のことのように言う。


---


おばあさん「だから、変える必要があるわ」



---


スズメ「……何を…ですか?」


---


おばあさん「全部よ」


---


即答する。


---


おばあさん「もっと強く、もっと速く、もっと刺激的に!」


---


言葉が、刃のように並ぶ。


---


スズメ「……」


---


おばあさん「あなたは売れてる商品なのよ!」


---


少しだけ、声が低くなる。



---


おばあさん「でも、替えが効く」


---


空気が、止まる。


---


スタッフの誰かが、息を呑む。


---


スズメ「替え…ですか」


---


おばあさん「似たような人間はいくらでもいるの」


---


冷たい現実。


---


おばあさん「だから、唯一でいなきゃいけないのよ」


---


スズメ「……私は」


---


言葉が、途切れる。


---


おばあさん「あなたは考えなくていいのよ」


---


被せる。


---


「次の企画はもう、決まってるから」


---


タブレットを差し出す。


そこには。


【より過激な言葉で、より強い断定で、より刺さる構造を!】


---


スズメ「……これは」


---


おばあさん「次のあなたよ」


---


迷いのない声。


---


夜。


老人の部屋。


スマホの光。


スズメの新しい動画。


---


タイトル:『本当の自分を捨てる方法』


---


老人「……は?」


---


思わず声が出る。


そして、再生する。


---


スズメ(完璧な声) 「自分らしさにこだわるから、苦しくなるんです」


---


「……」


---


続く。


---


スズメ(完璧な声)「周りに合わせることで、人は楽になれます」


---


老人は、動画を止めた。


---


「……やめろ」


---


小さく呟く。


指が、震える。


そのまま、DMを開く。


入力欄。


しばらく見つめる。


打ち込む。


---


老人「お前は今、何やってんだ?」


---


送信し、すぐ既読が付く。


少しの間、時間を置いて返信が来る。


---


スズメ「分かりません」


---


短い。


すぐに、続く。


---


スズメ「これが、正しいと言われています」


---


老人は、歯を食いしばる。



---


老人「誰にだよ」



---


送る。


---


スズメ「周りに…です」


---


老人「周りって誰だよ」


---


「……」


---


既読のまま、止まる。


数秒。


数十秒。


やがて。


---


スズメ「もう自分が何者なのか、なんの為にやってるのか、分からなくなりました」


---


老人は、目を閉じる。


その言葉は。


一番、聞きたくなかったものだった。


---


老人「最初のやつ、覚えてるか?」


---


打ち込む。


既読がついてから、少し間が空くと。


---


スズメ「……はい」


---


返ってくる。


---


「私は……誰にも、見られていなくても

 言葉は、消えないものだと思っていました」


---


そのまま、送られてくる。


老人は、少しだけ息を吐いた。


---


老人「それだよ」


---


送信。


---


老人「今のお前、消えてるだろ」


---


既読が付くが沈黙が続く。


長い沈黙の後。


やがて。


---


スズメ「……はい」


---


その一文字が。


やけに重かった。


---


老人「じゃあ、戻れ」


---


送信。


すぐに、既読。


だが。


返事は、少し遅れた。


---


スズメ「戻る、とは?」


---


老人は、言葉を探す。


だが。


見つからない。


---


「……」


---


打ち込んでは、消す。


打ち込んでは、消す。


そして、やっと送る。


---


老人「最初みたいに、喋れ」


---


既読は付くが、しばらく、何も来ない。


そして。


---


スズメ「……できません」


---


その一文で。


すべてが、分かってしまった。


---


スズメ「言葉が、ありません」


---


続く。


---


スズメ「何を言えばいいのか、分かりません」


---


老人は、スマホを強く握る。


---


「……」


---


何かを言わなければならない。


分かっている。


だが。


何も、出てこない。


長い沈黙。


そのまま。


何も送れない。


既読は、ついたまま。


やがて。


スズメから、最後のメッセージ。


---


スズメ「明日、最後の収録です」


---


指が、止まる。


---


老人「最後?」


---


打ち込み、送信する。


---


既読はすぐに付いた。


---


スズメ「なぜかは、分かりません」


---


スズメ「でも」


---


少し、間が空く。


---


スズメ「そう言われました」


---


画面が、静かになる。


老人は、何もできない。


何も、言えない。


そのまま。


スマホを置く。


部屋は、暗い。


何も変わっていないはずなのに。


もう。


同じ場所ではなかった。


画面の向こうで。


スズメは、まだ存在している。


だが。


その終わりは。


すぐそこまで来ていた。


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