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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
6/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜6


光が、強すぎた。


スタジオは、前よりも広くなっていた。


照明が増え、カメラも増え、スタッフも増えた。


白い部屋は、もう白ではなかった。


色がついている。


だが、どこか“現実感”が薄い。



---


「はい、じゃあ次いきまーす」


---


軽い声。


空気は明るい。


すべてが、順調だった。


---


スズメ 「……」


---


マイクの前に座る。


カメラの赤いランプが点灯する。


---


「3、2、1——」


---


スズメ(少し遅れて) 「人は——」


---


「カット」


---


すぐに止まる。


---


おばあさん「間が長い」


---


「……すみません」


---


「テンポ良く!今は流れが大事なんだから」


---


タブレットにグラフが映る。


右肩上がりの数字。


成功の証明。


---


「あなたは、もう個人じゃないの」


---


少しだけ、声のトーンが変わる。


---


「一つのコンテンツなの」


---


沈黙の後…。


---


「……はい」と短い返事をし。


---


「もう一回」


---


撮影は続く。


だが。


どこか、ずれていた。


---


スズメ 「幸せは——」


---


「カット」


---


「人は——」


---


「カット」


---


「……」


---


「カット」


---


「どうしたの?」


---


おばあさんの声。


柔らかい。


だが、逃げ場がない。


---


「……分かりません」


---


正直な言葉。


---


「何が?」


---


「言葉が……出てきません」


---


一瞬の沈黙の後。


スタッフの空気が、わずかに変わる。


---


おばあさんは、すぐに笑った。


---


「大丈夫よ」


---


優しい声。


完璧なタイミング。


---


「考えなくていいの」


---


「……」


---


おばあさん「もう、用意してあるから」


---


タブレットを差し出す。


---


そこには、台本。


---


短い言葉。


強い言い切り。


伸びる形。


---


スズメ「これは……?」


---


おばあさん「あなたの言葉になるものよ」


---


即答だった。


---


おばあさん「読むだけでいいの」


---


スズメは、画面を見る。


そこに並ぶ言葉。


それは、どれも、正しく。


どれも、強い。


そしてどれも、分かりやすい。



だが。


---


スズメ「……私の、ではない」


---


小さく呟く。


---


おばあさん「同じよ」


---


即座に返る。


---


「伝われば、同じ」


---


沈黙。


カメラは、まだ回っている。


---


「ほら」


---


促される。


スズメは、ゆっくりと口を開く。


---


スズメ(台本を読む) 「人は、悩みを深く考えすぎるから苦しみます」


---


完璧な音。


---


おばあさん「いいじゃない」


---


満足そうに頷く。


---


「もう一ついきましょう」


---


その繰り返し。


言葉が、生まれない。


ただ、流れる。


用意された形で。


用意された声で。


夜。


老人の部屋。


動画を再生する。


---


スズメ 「人は、自分を責める必要はありません」


---


また、同じだ…。


---


「……」


---


何も言わず、閉じる。


---


通知が鳴る。


---


スズメからだった。


---


「言葉が、出てきません」


---


短い一文。


老人は、すぐには返さなかった。


天井を見る。


昔のことを思い出す。


言葉が、出なくなった日。


何を言っても、違うと否定された日。


削って、削って、削って。


最後に残ったのが。


“何もない言葉”だった日。


スマホを見る。


もう一度、メッセージ。


---


「でも、再生数は増えています」


---


続けて送られていた。


---


「これは、正しいですか?」


---


同じ問い。


---


何度も、何度も。


---


老人は、目を閉じる。


---


そして。


---


ゆっくりと、打ち込む。


---


「……間違ってない」


---


送信。


既読が付く。


すぐに返ってくる。


---


「では、なぜ」


---


続く言葉。


---


「心が空っぽなんですか」


---


指が、止まる。


画面を見つめる。


何も言えない。


言葉が、見つからない。


しばらくして。


ようやく、打つ。


---


「……削りすぎたんだろ」


---


送信。


既読。


沈黙。


---


スタジオ。


スズメは、一人で座っていた。


モニターに、自分の動画が流れている。


---


スズメ(画面の中) 「幸せは、気づくものです」


---


完璧な笑顔。


完璧な声。


完璧な形。


だが。


---


「……」


---


何も、感じない。


画面に手を伸ばす。


触れる。


冷たい。


小さく、呟く。


---


スズメ「私は……」


---


その先が、出てこない。


沈黙。


かつては、自然に続いていた言葉。


---


「私は……誰にも、見られていなくても

 言葉は、消えないものだと思っていました」


---


その続きが。


もう、思い出せなかった。


画面の中で。


スズメは、喋り続けている。


だが。


現実のスズメは、何も、言えなかった。


その静寂は。


切り取られた後に残る。


空白だった。


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