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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
5/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜5


数字は、止まらなかった。


---


32,000→ 120,000→ 480,000


---


「……はは」


---


老人は、乾いた笑いを漏らした。


もう理解の外だった。


ここまで来ると、“良い”とか“悪い”じゃない。


ただの現象だ。


スマートフォンの画面。


スズメの新しい動画が、次々と並ぶ。


---


『3秒で救われる言葉』

『人生を変える一言』

『知らないと損する思考』


---


どれも似ている。


短くて、強くて、分かりやすい。


---


再生する。


---


スズメ(明るく、迷いのない声) 「悩みは、考えすぎるから生まれるんです」


---


コメントが流れる。


---


「確かにw」

「これは刺さるw」

「救われた」

「この子ほんとにすごい」


---


老人は、無言で画面を見ていた。


動画が終わる。


やっぱり…何も、残らない。


---


「……すげぇな」


---


皮肉とも、本音ともつかない声。


指が、次の動画を押す。


---


スズメ 「幸せは、探すものじゃなくて、気づくものです」


---


また、同じだ。


言ってることは正しい。


綺麗で、無駄がない。


そして…。


---


「……軽い」


---


呟く。


言葉が軽すぎる。


指に引っかからない。


頭に残らない。


やっぱりあの声じゃない。


スマホを置く。


部屋は静かだ。


だが、画面の中では。


世界が騒いでいる。


通知が鳴る。


スズメからだった。


---


「数字が増えています」


---


短いメッセージ。


老人は、少し考える。


---


「見りゃ分かる」


---


送信し、既読が付くまで、少し間があく。


---


「これは、正しいことですか?」


---


その問いに、老人はすぐに答えなかった。


画面を見る。


フォロワー:780,000


増え続けている。


誰もが、求めている。


それでも。


---


「……分からん」


---


打ち込み送信する。


---


「多分な、誰も分かってない」


---


続けて送る。


既読は付くが、しばらく何も来ない。


やがて。


---


「では、なぜ増えるのですか」


---


「欲しいからだろ」


---


すぐに返す。


---


「欲しい?」


---


「簡単な答えを…だ」


---


送信。


---


「考えなくていい言葉を」


---


もう一つ送る。


既読が付く。


---


「……それは、良いことですか」


---


老人は、少しだけ笑った。


---


「さっきと同じこと聞くなw」


---


送信。


---


「違いは、何ですか?」


---


指が止まる。


違い…か。


画面を開く。


一番最初の動画。


再生回数:1,204,883


桁が、変わっていた。


再生する。


---


スズメ(ノイズ混じり) 「私は……誰にも、見られていなくても言葉は、消えないものだと思っていました」


---


その声は、まだそこにあった。


揺れている。


不安定で。


だからこそ、残る。


動画を閉じる。


新しい動画を開く。


---


スズメ(完璧な音) 「人は、簡単な言葉でしか変われません」


---


同じ“言葉”でも。


まるで、違う。


---


「……重さ…だな」


---


呟き、打ち込む。


---


「前は、重かった」


---


送信。


---


「今は?」


---


すぐに返ってくる。


---


老人は、少しだけ迷う。


---


そして。


---


「かなり軽い」


---


送信する


そしてすぐ既読が付く。


沈黙。


長い、沈黙が続く。


やがて。


---


「軽い方が、届いています」


---


その一文に、何も返せなかった。


---


確かにそれは正しい。


完全に、正しい。


---


「……そうだな」


---


それだけ送る。


既読は付くが、その後、返信は来なかった。


夜。


老人は、また動画を見ていた。


同じような内容。


同じような反応。


同じような数字。


繰り返し。


繰り返し。


繰り返し見る。


ふと。


コメント欄に、目が止まる。


---


「最初の頃の方が好きだった」


---


その一行だけ。


すぐに流れていく。


埋もれていく。


見えなくなる。


---


「……いるんだな、少しはこういう人が」


---


小さく呟く。


だが、その声は。


どこにも届かない。


スマホを置く。


天井を見る。


何もない。


ただ。


一つだけ。


確かにあったはずのナニカが。


少しずつ、薄れていく感覚だけが残っていた。


画面の向こうで。


スズメは、まだ喋っている。


だが。


その言葉は、もう、どこにも引っかかることはなかった。


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