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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
4/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜4


白い部屋だった。


壁も、机も、椅子も。

すべてが均一で、影が薄い。


時間の感覚が、曖昧になる。



---


『もう一度いきましょうか』


---


女の声がする。


穏やかで、正確で、温度がない。



---


スズメ「はい」


---


小さな返事。


マイクの前に座る。


目の前には、カメラ。


赤いランプが点灯している。


---


おばあさん「リラックスして。大丈夫」



---


“安心させる言葉”としては、完璧だった。


---


『じゃあ、さっきの続きから』


---


合図。


---


スズメ(少し間を置いて) 「……言葉は、本来、誰のものでもなくて——」


---


『カット』


---


すぐに止まる。


---


『なんか、長いのよね』


---


スズメは、黙る。


---


『最初の三秒が大事なの。そこで離れたら終わりよ』


---


タブレットを操作する。


画面には、波形とグラフ。


視聴維持率。


離脱ポイント。


---


『ここ、今の入り、0.8秒で落ちてる』


---


スズメ「……落ちてる?」


---


『人がいなくなるってこと』


---


一瞬の沈黙。


---


スズメ「……では、私はどうすれば」



---


『簡単よ』


---


タップ。


別の動画が再生される。


明るい声。短い言葉。強い言い切り。


---


『こういうの』


---


スズメ「……これは」


---


『分かるでしょ?』


---


スズメは、少しだけ考える。


---


スズメ「はい」


---


『じゃあ、やってみましょう』


---


再び、カメラの前。


赤いランプ。


---


『3、2、1——』


---


スズメ 「人は——」


---


「カット」


---


『違うわ。まだ少し硬い』


---


スズメ「……」


---


『もっと軽く。明るく。考えさせない』


---


スズメ「考えさせない……」


---


『そう。感じさせるの』



---


その言葉は、どこか歪んでいた。


---


『もう一回』


---


何度も。


何度も。


言葉が繰り返される。


---


スズメ「人は——」


『カット』


---


スズメ「言葉は——」


『カット』


---


スズメ「……私は——」


『カット』


---


そのたびに。


削られる。


短く。


簡単に。


分かりやすく。


---


『いい?余計なことは言わなくていいの』


---


■■の声。


優しい。


だけど、逃げ場がない。


---


『伝わる形にするだけ』


---


編集画面。


波形が並ぶ。


不要な部分が、選択される。


カット。



カット。



カット。



音が、消えていく。


---


スズメ(かすかに残る音) 「それは……わた——」


---


カットされ、無音が続く。


---


完成した動画が再生される。



---


スズメ(クリアな声) 「人は、シンプルな言葉でしか救われません」



---


短く強く分かりやすく。


---


『いいじゃない』


---


満足そうに頷く。


---


スズメ「……」


---


スズメは、何も言わない。


---


『これは、伸びるわよ〜』


---


投稿して、数分後。


---


再生数:0 → 8,000 → 32,000


コメントが溢れる。


---


「分かりやすすぎて泣いた」

「これは天才だ!」

「神回すぎ」

「これを待ってた」


---


数字が跳ね上がる。


---


『ほらね』


---


満足そうに笑う。


---


『正しい形で出せば、ちゃんと届く』


---


スズメは、画面を見る。


伸び続ける数字。


流れ続ける言葉。


そして。


再生される、自分の声。


---


スズメ「人は、シンプルな言葉でしか救われません」


---


その音は、あまりにも綺麗だった。


ノイズが、ない。


揺れも、ない。


迷いも、ない。


---


その日の夜。


老人の部屋で、通知が鳴る。


新しい動画がアップされた。


タイトル:『3秒で救われる言葉』


---


「……なんだ…これ」


---


再生する。


---


スズメ(明るい声) 「今日は、簡単に幸せになる方法を教えます!」


---


老人の指が、止まる。


画面の中のスズメは。


笑っていた。


だが。


---


「……違う」


---


小さく、呟く。


何が違うのかは、分からない。


だが、最初に聞いた声ではないことだけは、分かる。


動画は続く。


軽い言葉。


分かりやすい結論。


拍手のようなコメント。


だが。


頭には、心には、何も残らない。


動画が終わる。


老人は、しばらく動かなかった。


そして、そっと、アプリを閉じた。


部屋は、また静かになる。


だが、その静けさは、もう、前とは違っていた。


画面の向こうで。


“スズメ”の声は…


確かに、切り取られていた。


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