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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
3/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜3


気づけば、朝だった。


カーテンの隙間から、細い光が差し込んでいる。


老人は、目を覚ましたまま天井を見ていた。


眠れなかったのか、眠らなかったのか、自分でも分からない。


ただ、ひとつだけ。


スマートフォンを、手放さなかった。


画面をつける。


再生数は12,908→ 38,221に


---


「……一晩でこんなに増えるもんなのかよ…」


---


喉の奥で笑う。


乾いた音だった。


コメントは、もう追いきれない。


今も流れ続けている。


---


「これは神すぎる」

「意味わからんのに泣いた」

「これ誰?」

「公式どこ?」


---


誰?


その言葉が、妙に引っかかった。


---


「……知らねぇよな〜俺も分からん…」


---


当たり前だ。


顔も出していない。

名前も曖昧。

情報は、ほとんどない。


ただ、声だけがある。


通知が鳴る。


スズメからだった。


---


「会ってきました」


---


それだけの一文。


老人は、ゆっくりと息を吐いた。


---


「どうだった」


---


すぐに既読がつく。


だが、返信は少し遅れた。


---


「部屋が、白かったです」


---


「は?」


---


思わず声が出る。


---


「机と、椅子と、画面がありました」


「人が、いました」


「いや、そういうことじゃねぇだろ」


---


打ち込む。


少しだけ、強めに。


---


「何を言われた」


---


数秒、間が空く。


---


「あなたには価値があると言われました」


---


その言葉に、指が止まる。


---


「……それで?」


---


「形を整えれば、もっと多くのひとに届くと言われました」


---


老人は、目を細める。


---


「整える…ね」


---


嫌な言い方だ。


だが、言いたいことは分かる。


自分が嫌になるほどに。


---


「で、何を変えるって?」


---


少し間があってから、返ってくる。


---


「言葉を、短くする」


「難しい部分を、削る」


「分かりやすくする」


「この3点でした」


---


一つ一つが、正しい。


そして、一つ一つが。


---


「……自分を削るってことだろ」


---


小さく呟く。


---


「削る…ですか」


---


スズメが反応する。


---


「自分の、余計な部分をな」


---


送信する。


---


「余計とは、どこまでの部分をですか?」


---


その問いに、老人は答えなかった。


答えられなかった。


しばらく、画面を見つめる。


再生数は、さらに伸びている。


38,221→ 52,004


届く。


その言葉が、重くのしかかる。


---


「……やるのか」


---


ようやく、打ち込む。


既読。


すぐに返ってくる。


---


「分かりません」


---


その一言は、今までで一番“人間らしかった”。


---


「それが正しいのだと言われました」


---


続くメッセージ。


---


「でも、何かが違います」


---


老人は、息を止めた。


---


その違和感。


それこそが。


---


「それでいい」


---


思わず、そう打っていた。


---


「違和感があるなら、まだ大丈夫だ」


---


既読がつき。


少し間が空く。


---


「大丈夫、とは?」


---


「……まだ、壊れてねぇってことだ」


---


打ち込んで、送る。


---


しばらくの沈黙の後。


数秒。


あるいは、数十秒。


---


「壊れる、とは?」


「……」


---


老人は、言葉を探した。


だが、見つからない。


画面を見る。


スズメの動画を開く。


あの、最初の声。


---


「私は……誰にも、見られていなくても

 言葉は、消えないものだと思っていました」


---


それを聞いて。


---


「……それが、なくなることだ」


---


送信。


既読。


しばらく、返事は来なかった。


その間にも。


世界は進む。


通知が鳴り続ける。


知らない名前。


知らない言葉。


知らない評価。


---


「案件どうですか?」

「コラボお願いします!」

「所属どこ?」


---


画面が、騒がしい。


その中で。


ひとつだけ。


静かなメッセージが届く。


---


「もう一度、会って来ます」


---


スズメからだった。


---


「次は、録ると言われました」


---


老人は、目を閉じる。


---


「……そうか」


---


それしか言えなかった。


---


「あなたは、どう思いますか」


---


その問いには、逃げ場がなかった。


老人は、スマホを持ったまま、動かない。


昔のことを思い出す。


自分が、削られていった時のことを…。


---


分かりやすくしよう!

もっと届くようにしよう!


---


その結果。


何が残ったのか。


---


「……」


---


口を開く。


だが、言葉は出ない。



画面の中のスズメ。


再生数は、もう六桁に届きそうだった。


---


「……好きにしろ」


---


ようやく、それだけ打つ。


---


「分かりました」


---


短い返事。


それで、終わった。


スマホを置く。


部屋は、静かだった。


だが。


どこかで。


何かが、確実に動き始めていた。


取り返しのつかない方向へ。


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