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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
2/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜2


再生数は、増えていた。


23→ 47→ 112


---


「……増えてるな〜」


---


老人は、ぼそりと呟いた。


たったそれだけだ。

たった、それだけ。


だが、その“わずかな変化”を、彼は知っている。


それが簡単には起きないことを。


もう一度、動画を開く。


ノイズ混じりの声。


---


「私にとって言葉は、誰かに届いた瞬間に

 少しだけ形を変えるのだと思います」


---


コメントが増えていた。


---


「なんか好き」

「これって深いの?」

「寝る前にちょうどいいかも」


---


どれも、曖昧だった。


理解しているのか、していないのか分からない。


だが、それでも。


---


「……誰かには、引っかかってるんだな」


---


老人は画面を閉じる。


少し考えて、また開く。


共有ボタンを押す。


---


「……もう一回くらい、いいだろ」


---


短く、それだけ添える。


---


「見てみろ」


---


数時間後。


再生数は、さらに伸びていた。


112→ 489→ 1,203


---


「……おいおい」


---


思わず、声が漏れる。


こんなことは、もう何年もなかった。


自分の投稿ではない。

自分の作品でもない。


それでも。


---


「……なんでだよ」


---


分かっている。


これは、分かる人には分かるタイプのものだ。


だが、それだってここまで伸びる理由にはならない。


世界にはもっと、分かりやすくて、刺激的で、速いものが溢れている。


それでも…。


通知が鳴る。

ピロンピロン鳴り続ける


スズメからだった。


---


「何故か再生数が増えています」


---


それだけのメッセージ。


老人は、少しだけ笑った。


---


「見りゃ分かるだろ」


---


送信する。


すぐに既読がつく。


---


「これは、良いことですか?」


---


指が止まる。


考える。


少しだけ、長く。


---


「……普通はな」


---


送る。


また、すぐに返ってくる。


---


「普通とは、どこまでを指すんですか?」


---


「めんどくせぇな……」


---


小さく呟く。


だが、その“めんどくささ”は嫌いではなかった。


むしろ、少し懐かしさすら感じる。


---


「多くの人が喜ぶなら、良いことって扱いになるんだ」


---


送信。


数秒。


---


「では、私は良い状態というですか」


---


その問いに、すぐには答えられなかった。


画面を見つめる。


再生数は、今も増え続けている。


コメントも増えている。


誰かが評価している。


数字が、それを証明している。


---


だが、動画を、もう一度再生する。


---


「私は……誰にも、見られていなくても

 言葉は、消えないものだと思っていました」


---


最初に聞いた、その声。


その感覚。


それと、今の“数字”が。


どうしても、繋がらなかった。


---


「……分からん」


---


正直に、打ち込む。


---


「まだな」


---


送信するが、しばらく、返事は来なかった。


夜になる。


部屋は相変わらず暗い。


だが、画面の光だけは、やけに明るく感じた。


再生数は、さらに伸びていた。


1,203→ 5,442→ 12,908


---


「……は?」


---


思わず声が出る。


一日で、ここまで行くのは異常だ。


何かがおかしい。


アルゴリズムか。

誰かが拾ったか。


理由は分からない。


だが。


---


「……見つかったな〜」


---


ぽつりと呟く。


その言葉は、どこか重かった。


---


通知が鳴る。


今度は、知らない名前。


---


「事務所関係者です。少し、お話できますか?」


---


老人は、そのメッセージをしばらく見つめた。


嫌な予感がした。


理由はない。


だが、長くこの世界にいたから分かる。


“こういうとき”は、大抵ろくなことにならない。


画面を閉じる。


無視する。


少なくても、自分には関係のないことだから…。


そう思って、スマホを置いた。


数分後。


また、通知が鳴る。


今度は、スズメからだった。


---


「連絡が来ました」


---


短い一文。


だが、その裏にある意味は明確だった。


---


「どうすればいいですか?」


---


老人は、深く息を吐いた。


天井を見る。


何もない。


ただ、古いシミだけが広がっている。


---


「……知らねぇよ」


---


小さく呟く。


だが、打ち込む言葉は違った。


---


「取り敢えず会うだけ会え」


---


送信。


すぐに既読がつく。


---


「分かりました」


---


それだけだった。


---


そのやり取りが。


どれだけ大きな分岐になるのか。


この時の二人は、まだ知らない。


---


画面の向こうで。


スズメは、少しずつ。


世界に近づいていた。


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