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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
10/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜10


音は、なかった。


クリックのあと。


部屋は、何も変わらない。


だが、確かに、何かが終わっていた。


老人の指は、止まったままだった。


画面には、開かれたフォルダ。


フォルダ名:small_box


その中の、動画ファイル。


ひとつ、選ぶ。


再生。


ノイズ。


わずかに、揺れる音。


---


スズメ「言葉は、形になる前が一番自由なんです」


---


静かな声。


部屋の空気が、少しだけ変わる。


老人は、何も言わずにそれを聞く。


---


スズメ「誰にも見られなくても、意味は存在します」


---


息を、ゆっくり吐く。


どこか、懐かしい。


そして。


少しだけ、痛い。


動画が終わる。


沈黙。


スマホを手に取る。


新規投稿画面。


しばらく、何もせずに見つめる。


投稿欄。


何も書かれていない。


カーソルだけが、点滅している。


---


「……」


---


指が、動く。


だが、止まる。


言葉を、探している。


分かりやすい言葉は、いくらでもある。


だが。


それでは、意味がない。


ゆっくりと、打ち込む。


---


「——」


---


止まる。


消す。


もう一度。


打つ。


---


「……」


---


また、消す。


そして。


何も書かないまま。


動画だけを、添付する。


投稿し、画面に表示される。


---


再生回数:0


---


誰も、見ていない。


何も、起きていない。


だが。


老人は、画面を閉じなかった。


そのまま、待つ。


時間だけが、過ぎてゆく。


数分。



数十分。


---


再生回数:1


---


「……」


---


小さく、息を吐く。


誰かが、見た。


たった一人。


それでも。


確かに、届いた。


コメントは、ない。


反応も、ない。


だが。


存在はしている。


それだけで、十分だった。


---


夜。


部屋は、暗い。


スマホの光だけが、残る。


---


再生回数:3


---


ゆっくりと、増えている。


何も、急がない。


何も、求めない。


ただ。


そこに、ある。


老人は、もう一度動画を再生する。


---


スズメ「私は……誰にも、見られていなくても

 言葉は、消えないものだと思っていました」


---


ノイズ。


揺れ。


不完全な音。


それでも。


確かに、そこにある。


老人は、目を閉じる。


しばらく、そのまま。


何も言わない。


やがて。


小さく、呟く。


---


「……残ってるよ…スズメ」


---


その声は。


どこにも届かない。


だが。


それで、よかった。


画面の中で。


スズメは、まだ喋っている。


静かに。


誰にも、邪魔されずに。


---


再生回数:5


---


数字は、小さい。


だが。


消えない。


消されない。


部屋は、静かだった。


最初と同じように。


でも、少しだけ違っていた。


---


何もない場所では、なくなっていた。


---


その夜。


どこかで、誰かが。


その言葉を、聞いたかもしれない。


意味を、理解しなくても。


ただ、少しだけ。


残るように。


それで、よかった。


---


『現代版舌切り雀』〜完〜


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