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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
11/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜 ifルート

これは……本編では描かれないもう一つのお話


---


もし、あの時——


クリックしたのが。


small_box ではなく。


big_box だったなら。


ーーー


音は、すぐに鳴った。


動画ではない。


通知音が連続して鳴る。


音が止まらない。


---


「……なんだ、これ」


---


老人は、画面を見る。


開かれたデータ。


そこにあるのは。


求めていた答えだった。


---


「視聴維持率を上げる構造」

「感情誘導の最適化」

「離脱を防ぐ言葉の配置」


---


すべてが、整理されていて、無駄がない。


迷いがない。


この上なく完成された形だ。


---


「……これがあれば…。」


---


小さく、呟く。


動画を作る。


短い言葉。


強い断定。


テンポ。


すべてを、その通りに。


投稿してから数分後。


---


0 → 12,000 → 86,000 → 310,000


---


「……ははw」


---


笑う。


笑ってしまう。


簡単すぎた。


次。


また次。


またまた次!


---


310,000 → 1,200,000 → 3,800,000


---


止まらない。


コメントが溢れる。


---


「神ってるw」

「この人すごい!」

「これに救われたわ!」

「これが一番刺さる気がする!」


---


名前が、つく。


【スズメ】


誰かが、そう呼ぶ。


それが、定着する。


老人は、否定しなかった。


否定する理由が、なかった。


だって…求められているんだから。


ーーー


スタジオ。


あの白い部屋と、よく似ている。


だが、違うところがある。


人が多い。


機材が多い。


声が多い。


ノイズが多い。


---


「次の企画なんですけど!」


---


「スポンサーが——」


---


「コラボの件で——」



---


騒がしい。


---


「はいはい、分かった分かった」


---


老人は、軽く手を振る。


慣れていた。


全部、慣れた。


カメラの前に立つ。


マイク。


照明。


完璧な環境。


---


「3、2、1——」


---


スズメ(クリアな声) 「人は、簡単な言葉で救われます」


ーーー


拍手。


スタッフの笑顔。


数字の報告。


すべてが、順調だった。


---


夜。


部屋は、広くなっていた。


以前の面影は、ない。


スマホを開く。


---


フォロワー:12,804,221


---


「……すげぇな〜」


---


呟く。


だが、その声は軽い。


何も、乗っていない。


ふと。


古いデータを開く。


残っていた。


【フォルダ名:small_box】


一瞬、手が止まる。


だが。


閉じる。


必要ない。


もう、関係ない。


新しい動画を再生する。


---


スズメ「自分を捨てることで、人は自由になれます」


---


完璧な声。


完璧な言葉。


完璧な“正しさ”。


コメントが流れる。


---


「なんか分かる」

「これが真理か…」

「この人がいればいいや!」


---


この人。


それが、誰なのか。


もう、誰も気にしていない。


画面を見つめる。


再生される声。


その声は…。


あまりにも、綺麗だった。


ノイズがない。


揺れがない。


迷いもない。


---


「……」


---


何も、感じない。


音量を上げる。


さらに、上げる。


最大にする。


ーーー


スズメ「人は誰だって、変わることが出来ます!」


---


スズメ「幸せは、選べるんです!」


---


スズメ「あなたは、いつだって正しい」


---


そう…すべてが、正しい。


だからこそ。


何も、残らない。


ふと、思い出す。


ノイズ混じりのあの声。


不安定な懐かしい声。


---


「私は……誰にも、見られていなくても

 言葉は、消えないものだと思っていました」


ーーー


一瞬だけ。


音が、遠くなる。


だが、すぐにかき消される。


通知が来る。


また、新しい依頼。


また、新しい企画。


また、新しい言葉。


---


「……次、何だっけ?」


---


誰にともなく、呟く。


誰かが答える。


---


「次はもっと、刺さるやつです!」


ーーー


「……ああ、そうだったね」


ーーー


コクリと頷く。


カメラの前に立つ。


光。


音。


人。


すべてが、揃っている。


---


「いきます!」


---


スズメ(完璧な声) 「あなたは、もう十分頑張っています!これ以上は無理しないでください!」


ーーー


拍手。


歓声。


数字。


すべてが、満たされている。


その中で。


たった一つだけ。


何もない場所があった。


それは………。


ーーー


画面の中で。


スズメは、よく喋る。


止まらない。


求められる限り。


いくらでも。


だが。


その言葉はもう。


どこにも残らなかった。


〜if 終〜

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