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【連載版】愛してると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?  作者: セトガワ トウ


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18/20

18話 危険な契約書

 花瓶を移動してくれ。

 私がそう頼むと、執事のエルバスは戸惑う。

 当然だろう。

 心身になんらかの悪影響がある花を入れてあるからだ。


「お嬢様……如何しますか?」

 

 救いを求めるように、エルバスは少し曇った声で尋ねる。

 セリアは数秒黙した後、一番近くにいた令嬢の肩を触った。


「実はこの子も、花に対するアレルギーを持っておりまして。残念だけれど、外に持っていってちょうだい」

「畏まりました」

 

 ホッとした様子でエルバスは花を持ちだした。

 当然、セリアの言葉は【Gap100%】だし、本人も苦し紛れだと理解している。

 きっと彼女はいま、内心混乱していると思う。

 私が意図的にそれを申し出たのか、あるいはたまたまだったのか。

 愚鈍な令嬢というイメージ通りなのか、あるいは別なのか。

 

「せっかくの申し出を断ってしまうことになって、心が痛いですわ」

「構いませんことよ。アレルギーでしたら、仕方ありませんもの。でも不思議なこともありますね」

「……どんな意味でしょう?」

 

 怪訝な顔をするセリアに対して、私はわざと溜めを作って焦らせる。

 せっかくなので、この話題はもう少し引き延ばさせてもらう。


「レオン様のアレルギーですが、これは非常に珍しいらしくて。ええと、どのくらいに一人しか発症しないのでしたっけ?」

 

 一応、ここでレオンにもバトンを渡しておく。

 彼も意図を理解したのか、少し考えてから大きめの数字を出す。


「医者には百万人に一人と言われたな」

「まあ!? つまり、巨大都市に一人いるかどうか。それがこの場所に、二人もいるなんて……なんという偶然でしょうね?」


 そのアレルギーだという令嬢に、私は微笑みかける。

 ギクッという効果音が出そうなほど焦っており、セリアをチラチラと窺っている。


「……本当に、不思議なことってありますね。それはそうとソラリス様、ジーク様の件でお話がありますの」


 苦しくなって話題を変えてきた。

 ここも私の勝ちということかな?

 それはそうと本題がきたわね。

 お茶会に招いた大きな理由もこれだろう。


「貴女が公爵家の力を使って、色々と圧力をかけていらっしゃると聞きました」

「なんのことでしょう? 毛ほどもわかりませんわ」

 

 私は首を傾げる。本当に身に覚えがない。

 セリアは目を細くして、声も尖らせて話す。


「実はわたくし、ジーク様に婚約破棄されましたのよ。その大きな理由は、家柄の関係によるものです」

「……私が彼の家に圧力をかけ、別れさせたと?」

「ソラリス様は最近、バイス様とのサブパートナーを解消されたでしょう? 新しい方を探しているのかと」 

 

 減った分は補充すると。

 確かに以前のソラリスなら、行っていても不思議ではないのか。

 ただ、そんな事実は一切ないのよね。

 セリアの作り話なのか、ジークによるものか、一応探っておく。


「そんな事実はありませんわ。ジーク様が仰っていたのですか?」

「ええ、ジーク様が仰っておりました。いずれ、サブパートナーになるだろうとも」

 

 感度を最高にしているのに【Gap】が反応しない……。

 少なくともいまの言葉に、嘘は一切ないと考えていいだろう。

 ジークはセリアに嘘をついてまで婚約破棄をした。

 本気で私と結ばれようとしている?

 婚約者がいる身では、私と懇意になることが難しいと考えた?

 でもあのジークのことだ。

 それだけのはずがない。

 セリアを恋心を利用して、なにかを狙っているのね。

 厄介なのはセリアは命令されたわけじゃなく、自発的に動いている──と少なくとも本人は思い込んでいること。

 バン、と机が強く叩かれた。

 感情をむき出しにしたセリアがやったのだ。


「サブパートナーの件、取り下げてくださいませ! 一筆書いてくださったら、ノルディ公爵家とバートリ侯爵家に新たな絆が生まれますのよ」

 

 令嬢の一人が立ち上がり、初めから用意していたであろう紙とペンをこちらの机に置く。

 お茶会の目的がわかった。

 これにサインさせることが狙いだったのだ。

 だから、手紙にしても花にしても、精神作用があるものを使った。

 朦朧とした精神状態だろうと、サインすればそこには私の筆跡が残る。

 

「失礼」

 

 私は契約書の内容を確認する。


『二家間における友好協定および相互不可侵に関する合意書』


 こんな感じで始まって、第3条まで長々と契約内容が綴られている。

 簡単にまとめるとこう。


 1、今後ジークに一切接触せず、サブパートナーへの勧誘もやめる。

 2、ジークの家に対する、公爵家の権力を使った不当な圧力を認めて、即時停止すること。

 3、その見返りに、バートリ侯爵家から『女神の涙』と『稀少な魔道具』を、和解の印として受け取ること。

 

 はい、終了〜。

 これにサインしたら私の負けね。

 まず2の不当な圧力について。

 これにサインすれば、脅していたと認めるようなもの。

 契約書の非公開に関する条約はないので、第三者に公開もできる。

 これにサインして、後から公開された場合、社交界において私やノルディ公爵家の立場が低くなる。


 もっと気になるのは、3の和解の印だ。

 女神の涙か……。

 これはよく覚えている。

 ゲーム内のソラリスが、死ぬほど欲しがっていたものだ。

 かつてノルディ家とバートリ侯爵家がオークションで争い、結局バートリ家が競り落とした稀少なピンクダイヤモンド。

 競売に負けたソラリスは三日三晩泣いて、あらゆる手を使って入手しようとしていた。

 

「女神の涙……」

 

 私が敢えてボソッと呟いてみると、セリアの口端が明らかに上がった。

 これを出せば、乗ってくると読んでいたのだろう。

 実際、以前のソラリスなら数秒でサインしたはずだ。

 ……じゃあ、もう一つは?

 女神の涙一つで、十分にサインさせる力はある。

 なのにわざわざ、もう一つ追加している。

 しかも、こちらは具体的な名前は出さないときた。

 

「もう一つの稀少な魔道具とは、なんですの?」

「そちらも、女神の涙と同じくらい貴重な物です」

「見せていただけます? 目にしないと決められませんわ」

 

 そう告げると、セリアは少し面倒そうにした後、外にいるエルバスを呼び寄せた。


「贈呈する例の魔道具を」

「はっ」

 

 エルバスが出ていくと、入れ替わるように数人のメイドたちが入ってきた。


「紅茶をお持ちしました」

「ソラリス様のために、最高級の紅茶と甘いお菓子を用意させていただきましたわ」

 

 二つのテーブルに、メイドたちがそれを並べていく。

 確かに紅茶の色は綺麗だし、ケーキも美味しそうだ。

 もちろん、すぐに手をつけたりはしないけれど。

 レオンも、出された物をジッと見つめていた。


「この契約書はセリア様が一人でお作りになったのですか?」

「もちろんです。幼い頃より、その辺の勉強はして参りましたので」

 

【Gap】は反応なしなのね……。

 そこは読みが外れた。

 絶対にジークの入れ知恵があると思ったのに。


「もしかして、ジーク様が契約書を作れと仰ったのでは?」

「あの方を侮辱することは許しませんよ! 困っていたジーク様を見かねた私が、自発的に動いただけですわ!」

 

 今回も【Gap】はゼロ。

 でも絶対にジークは、この動きをさせたかったはず。

 じゃあ、どうやって命令を出さずにこの展開に持っていった?

 

「それは失礼。でもこう仰っておりませんでした? 公爵家の圧力が厳しい。ソラリスを納得させるには、女神の涙があれば可能かもしれないと」

「一言も仰っておりません!」


【Gap100%】


 やっぱり仰っておりましたか。

 ジークは人心掌握術に長ける。

 自分に惚れている令嬢を懐柔するなんて楽勝よね。

 しかも事が起きても自身に被害が来ないように、直接命令は下さない。

 きっと婚約破棄の理由についても、手紙にも残していないはずだ。

 口頭でセリアにだけ話した。

 容易に推測できる。


「……声を張り上げて、無礼でしたわね。仮にも公爵令嬢の御前だというのに。一緒に紅茶を楽しみませんか、ソラリス様」

 

 このままでは契約決裂すると冷静になったセリアが、茶菓子を勧めてくる。

 

「お嬢様、お持ちしました」

 

 このタイミングでエルバスが、贈呈する稀少な魔道具を台に乗せて持ってきた。

 白い布がかけられており、中身は見えない。


「お見せして差し上げて」


 エルバスは頷くと、白い布を取った。

 私は口元を手で隠し、小声で彼に協力を求める。


「グレイ様、魔道具の特徴を言うわ。意見をちょうだい」

『了解』


 私の読みが正しいなら、この魔道具はおそらく──



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― 新着の感想 ―
えっ!魔道具が気になりすぎる。しかし、お茶会の罠対策チームが優秀で、被害を回避しながら、真相の核心に迫っていく様子が、読んでいて爽快です。次の更新が、とっても楽しみです。
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