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【連載版】愛してると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?  作者: セトガワ トウ


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17/21

17話 花瓶の移動、なぜ嫌がるのですか?

 お茶会の会場は町の外れにあった。

 侯爵家の別邸のようで、主にセリアが利用しているらしい。

 立派な門柱で馬車が止まり、私たちは外に出る。

 町中の喧噪から一線を画した、不気味なほど静寂な空気が漂う。

 立っていた年配の執事が、恭しく頭を下げる。


「ノルディ公爵家のソラリス様でございますね」

「ええ」

 

 私は短く答えると、招待状を彼に渡す。

 

「お待ちしておりました。館まで少し距離がありますので、ご案内いたします」


 私、レオン、カゲロウの三人は彼の後についていく。

 敷地はかなり広くて、ちょっとした運動場くらいはある。

 別邸とはいえ庭園は見事に手入れされ、木々や花々などの景観は素晴らしい。

 緑も豊富で、庭師のセンスは抜群ね。

 うちでも雇いたいくらいだわ。

 私は歩きながら【Gap】の感度を最高に上げておく。

 少しの嘘も見逃さない。

 いくらセリア令嬢がキレているとはいえ、私を殺すことまではしないだろう。 

 でも精神攻撃を仕掛けてくるくらいなので、洗脳程度は考えているはずだ。


「……おい」

 

 カゲロウが低く、突き刺すような声を出した。

 執事が振り返って、畏まる。


「如何なさいましたか?」

「これはなんだよ?」

 

 芝生の一部をカゲロウが何度か踏んでみせる。

 一見普通に見えるが、よく確認すると一度掘って土を戻したのがわかる。

 執事は意味がわからないといった感じに首を傾げた。


「とぼけんな。なんで掘り返して、土を固めてあんだよ。なんか埋まってんじゃねーのか」

「……わたくしは存じません。庭師の仕事かもしれません。穴があると、蜂が巣を作ることがございます」

 

【Gap100%】

 

 完璧な嘘。やったのは庭師でもなければ、蜂の巣退治でもないと。

 感情のメーターも確認しておくと、やはり隠し事をしているときの構成だった。


『魔道具だね』


 グレイと繋がる小さな通信魔石は、現在イヤリングと組み合わせて装着している。

 私にだけ聞こえるくらいの小声が耳元から届くのだ。

 魔道具製作の天才である彼は、通話だけじゃなく魔力の波長も多少は読み取れる設計にしている。

 その機能のおかげで、魔道具だとわかったのだろう。

 

「……どんな魔道具?」

 

 周囲に聞こえないよう、私は囁く。


『そこまではわからないな。ただ地面に埋め込むなら、地中で爆発させたり、感電させたり、トラップ系が多い』

「カゲロウが踏んでも起動しないわ」

『それなら、魔物の誘導かもしれない。強い魔力に反応するタイプには有効だし、任意で魔道具をオンオフできる物もある』

 

 いま、この近くに魔物は確認できない。

 少なくとも現在は、オフの状態と考えて良さそうね。

 納得いかないのはカゲロウも同じようで、冷めた視線を執事に向けている。

 

「まぁ、どうでもいいけどな。俺はお茶会とかダルいし、この辺の木陰で居眠りさせてもらうわ」

「そ、それでしたら、中で寝室をご用意します……!」

 

 さすがに予定外なのか、執事が少し慌てる様子を見せたので、すかさず口を挟ませてもらう。


「いえ、彼はここでよろしいですわ。知らないベッドだと眠れない体質なのです。カゲロウ、後で迎えにきますね」

「飽きたら先に帰るけどな」

 

 彼らしいと言えばそうだ。

 正直、これでもいい。

 彼が室内で大人しくしているとは思えないし、身元不明なので、少し場違い感が出てしまうからだ。

 護衛としては優秀なので、そこは残念だけど。


「私の叫び声がしたら、助けに来てくれるのよね?」

「面白そうだったらな」

「ふふ、期待しているわ」


 私は戸惑っている執事に声をかけ、引き続き案内してもらう。

 この様子だと執事もセリアの狙いは知ってそうね。

 ここにいる者は全員、悪意のある敵として考えておいた方がいいでしょう。

 ここからは、頼れるのはレオンと自分の頭だけになる。

 執事の後ろで、彼が小声で話す。


「さっきのは、罠かもしれないな」

「そうね。気を引き締めましょう」

「なにかあったら、俺の後ろに回ってくれ」

「わかったわ」

 

 レオンは腰の剣鞘を握り、周囲を警戒する。

 館に入ると、質のいい調度品が目に入った。

 また、廊下で良い香りしたので警戒したが、特に精神作用はないようだ。


「こちらの部屋に、セリアお嬢様がおります」


 両開きの部屋の前で、執事が告げた。

 私が頷くと、彼はゆっくりと扉を開ける。

 部屋の中央あたりに、大きめのテーブルが対面するように二つ置かれていた。

 奥側に、数人の令嬢が座っている。

 一瞬、彼女たちの向けてくる目が厳しく、少しだけ私の鼓動が早まる。

 敵愾心、丸出しすぎない?


「まあ! ソラリス様っ、足をお運びいただき、感謝いたしますわ!」

 

 席から真っ先に立ち上がり、小走りで駆け寄ってきた令嬢がいる。

 背はスラリと高めで、髪をゴージャスに巻いている。

 派手ではないが顔立ちは良く、肌はツルツルで綺麗。

 服装も気合いが入っており、深紅と黒の豪奢なドレスに身を纏う。

 相当に高価なやつね。

 私に負けじと選んだのかな?

 私のドレスは白と水色を基調として、彼女と対照的な感じだ。

 値段は……負けてはないかな。


「わたくしが、セリアと申します。本日はお茶会へのご参加、ありがとうございます!」

「ソラリスです。ご一緒できること、嬉しく存じますわ」

「どうぞ、こちらにお座りになって」

 

 私たちは手前側のテーブルに案内された。

 この部屋、中央から奥側と手前側に分かれ、奥側のテーブルにはセリア以外に三名の令嬢がいる。

 チラッ、と壁際に私は目をやる。

 色とりどりの花が、壁際に置かれてあった。

 私たちが座ると、ちょうど背中側になる位置だ。

 相手側の奥には、なぜか花瓶はない。

 気になるわね。


『聞こえる、ソラリス?』

 

 私は口元に手を添え、小さく返事する。


『微弱だけど、魔力の波長を感じるよ。近くになにかない?』

「花があるわ。百合の香りがする」

『魔香を放つ花もある。隠してある可能性もあるよ』

「忠告、助かるわ」

  

 魔香の可能性は高そうね。

 色んな種類を混ぜてあるのもそうだし、私側だけに花があるのも怪しい。 

 徐々に香りが届き、私たちの精神に作用していく——と。

 彼女たちは距離があるので、私たちの様子を確認してから逃げることもできる。

 セリアが席に着くタイミングで、私はレオンに小さく告げる。


「なにも聞かずに、激しく咳き込んで」

「……? ご……ごほっ!」

 

 意図は理解せずとも、レオンはすぐに対応してくれる。

 

「ゴホッ、ゴホゴホゴホッ……!」

「レオン様? 発作でしょうか?」

 

 私は心配そうな演技をしつつ、大げさに首を回して室内を確認する。

 そして花の詰まった花瓶に注目し、指をさす。


「セリア様。レオン様は花のアレルギーがあるのですわ。あちらの花瓶を反対側に移動させてもらうことはできますか?」

 

 さて、どう出ますかセリアお嬢様は……?

 彼女は一瞬、無表情になる。

 必死に感情を消そうとしているように見えた。

 ただお仲間は、あまり訓練されていないのかしら?

 少し動揺したように、目配せをしている。

 セリアはすぐにパンパン、と手を強めに叩く。


「エルバス、入ってきてちょうだい!」

「お呼びでしょうか?」

 

 ドアを開け、さっきの執事が入ってきた。


「花瓶を撤去してちょうだい」

「……よろしいのですか?」

「ええ。こちらのレオン様が、苦手なようです」

「わかりました」

「——お待ちください」

 

 撤去する流れになったので、私はあえてそれを呼び止めた。

 不可解な様子の彼女たちに、私は微笑みながら話す。


「撤去までは不要ですわ。そちら側の壁に置いていただければ。レオン様も、あそこなら反応しませんし。ね?」

「あ、ああ。距離がもう少し遠ければ、俺は大丈夫だ」

「せっかく美しい花ですもの。私は目で楽しみたいのです!」

 

 別に難しいことは頼んでいない。

 ただ移動させればいいだけ。

 なのに、室内には訃報でも届いたかのような重苦しい空気が流れた。

 セリアは必死になにか考え込んでいるし、お仲間の令嬢三人は青ざめた顔で床を見つめ出した。


「あら私、なにか変なこと言ってしまいました?」


 首を傾げてみせ、お馬鹿な鈍感令嬢を演出する。

 傲慢だけど、頭の回転は遅い。

 それが以前のソラリスだったはずだ。

 彼女たちも噂は聞いたことがあるだろう。

 

「そちらの、ガルバスさんでしたっけ?」

「エルバスでございます……」

「ああ、そうでしたわ! エルバスさん、花瓶をあちらに移動してくださる?」


 ニコニコ顔で、私はエルバスに頼んだ。

 彼はすっかり血の気の引いた顔で、セリアを見つめた。


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