エピローグ 『独立』
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「桃!」
白い髪の女が、喜びの声をあげた。
飛び出してくるそのしなやかな身は、迷うことなく訪問者を抱きしめる。
「おかえりなさい、桃!」
ぎゅうぎゅうと、愛と力に溢れる抱擁に、彼女も嬉しくなる。
「ただいま、コー」
あちこち一人旅をして帰ってきたら、すっかり遅くなってしまった。
既に、学術都市は小さいながらに動き始めていて。
他の若者たちと、同じような流れで町を見回っていて、ようやく桃は神殿にたどり着けたのだ。
仲睦まじく抱き合う女二人に、ゆっくりと近づいてくるもう一人。
それに気づいたのか、ぱっとコーは身を離した。
彼女がよけてしまうと、桃の前には白い髪の男が立っていることになる。
少し、気恥ずかしい。
この後、彼が何をするか分かっているからだ。
子供のように抱き上げて、おかえりと言ってくれる。
そう。
思ったのに。
両腕はまっすぐに伸ばされて。
桃の背に回されて、抱き寄せられた。
「おかえり……桃」
低く美しい声は、彼女の髪にまで絡みつく。
子供扱いではない抱擁は、桃の頬を赤らめさせてしまう。
「ただいま……トー」
その男の身体を。
桃は──両手でぎゅっと抱き返したのだった。
『終』