断蔵
[いやいや~。ようやく中に入れた。一瞬結界が弱まったのを見逃さないボク、偉いな~。]
銀髪少年が話し出した。
(・・・結界が弱まった!?・・・まさか、オレをここに入れる時に・・・その隙を狙って!?)
『・・・・まさか、その瞬間を狙っているとは・・・さすがですね。文殊菩薩の守護者シュリ—。しかし、随分とタイミングが良いですね。ひょっとして、このタイミングを作る為に謀りましたか?』
ガルバさんがチラッとオレに視線を投げる。
[いやいや。心外だな~。そんなヤツは知らないよ。ボクは、ただ“見てた”だけだよ。この街、祈祷師居ないじゃない?だから、きっと君が動くしかないだろうな~って、ね。]
『・・・祈祷師が出払うように仕向けたのも、あなた。・・・と言う事ですか。』
[さぁ~ねぇ~。でも、そっちに隠れてるお兄さんは、偶然だね~。まぁ、どっちにしろラッキーだったね~。これで、ここの結び目も解けるし。]
(・・・・上手く利用されたって事か・・・クソっ・・・!!)
『・・・・そんなに易々と解けるとお思いですか??』
そう言って、ガルバさんはスッと腰を落とす。
[・・・なんなら、結び目ごと、虚空蔵君も滅してやっても構わないよ~。]
銀髪少年シュリ—も腰を落とす。
祠の空気がまるで巨大な獣が息を潜めているかのように重く沈んだ。
————ビリビリビリッ!!
五輪塔の光が揺れ、空間そのものが震え始める。
ガルバが印を結ぶ。
その声は低く、しかし確かな力を帯びていた。
『オン・バザラ・アラタンノウ・オンタラク・ソワカ!!』
————ゴウッ!!
金色の光が奔流となってシュリーへ襲いかかる。
祠の床が抉れ、壁が波打つほどの圧力。
しかし———
[あぁ、それそれ。君が使える“唯一の牙”だもんね。]
シュリーは笑いながら、指先で軽く触れただけで光を“折った”。
————バキィィィィンッ!!
光の奔流が真っ二つに割れ、祠の左右へ弾け飛ぶ。
『・・・・・っ!!』
ガルバさんの表情がわずかに歪む。
(・・・・嘘だろ・・・ガルバさんの攻撃が・・・指一本で!?)
シュリーは軽く肩を回しながら、まるで散歩の途中のように歩み寄る。
[ねぇ、虚空蔵君。君、昔はもっと強かったよね?“智慧の蔵”なんて呼ばれてた頃はさ。]
『……黙れ。』
ガルバさんが再び印を結ぶ。
『オン・バザラ・アラタンノウ・オンタラク・ソワカ!!』
今度は光が刃となり、祠の空間を切り裂くように走る。
————ズバァァァッ!!
しかし———
[・・・だ~か~ら~。遅いってば。]
シュリーの姿が消えた。
『・・・・・っ!?』
————ドガァァァッ!!
背後からの膝蹴りが、ガルバの背中を抉るように叩きつけた。
『ぐっ……!!』
ガルバの身体が一直線に、五輪塔の根元に叩きつけられる。
(・・・やばい・・・本当に・・やばい・・・ガルバさんが・・押されてる・・・!!)
シュリーは笑いながら、ガルバさんの前に降り立つ。
[ねぇ、虚空蔵君。君、守るものが多すぎるんだよ。町も、結び目も、あのお兄さんも。そんなのばっかり背負ってたら……勝てるわけないじゃん。]
ガルバは血を吐きながら立ち上がる。
『……守るべきものがあるからこそ……私は退けぬのだ……!!』
[へぇ……そう。じゃあ、守ってみせてよ。ボクが本気で壊しにいくからさ。]
シュリーが両手を広げる。
————ヒュウウウウウ……
祠の空気が吸い込まれるように収束し、青白い光が渦を巻き始めた。
ガルバの顔色が変わる。
『……その術は……!やめろ、文殊ー!!』
シュリーは楽しそうに微笑む。
[文殊の智慧は“断ずる力”。虚空蔵君、君の蔵を———断つよ。]
そして、文殊の真言が祠に響く。
[オン・アラハシャノウ]




