封呪
「・・・・う・・・ここは・・・!?」
目覚めると、薄暗い積み上げた石で囲まれた部屋だった。入口には鉄で出来ている扉。窓は届かない位置に小さな窓がついている。窓というより、ただの空気穴のような物だが。
(・・・クソっ・・・何なんだ。まだ首のあたりがジンジンする。)
そう思っていると、ガチャリ。と鉄のドアが開いた。
入ってきたのは、眼鏡をかけた十代後半といった頃に見える青年。髪は、黒色で長く後ろに1本で纏めている。オレより少し高い。180cmはあるだろうか。
『・・・貴殿は何者ですか?どこから来たのですか?』
(・・・明らかに怪しまれてるな。でも、一体なぜだ?服か?)
そう。今のオレの服装は、後輩の寺の手伝いをしていた為、上下紺色の作務衣さむえ。そして、護摩壇の掃除をしていたので、足は足袋。つまり、履物を履いていない状態で歩いていたのだ。
「・・・私の名前は、明斗。実は、ここから少し離れた丘の上で記憶を失ったまま倒れているのを、さっき私と一緒にいた親切な人が助けてくれて、ここまで送り届けてくれたのです。」
(・・・ここで、止まると無限に質問されるな。だったら、こっちから質問して主導権を握ろう。)
「・・・それで、近くまで来た時に凄い圧を感じたと思ったら、衝撃と共にいきなり視界が暗くなって。で、今これです。」
「ところで、ここは一体どこでしょうか?私に何があったのでしょう?・・・あなたは??」
(・・・・どうだ。自分の事は最小限で、相手と状況を聞きまくる戦法。こうやれば、答えざるを得ないだろ!?)
『・・・随分と喋りますね。貴殿の質問には答える義務はありません。』
(・・・・ですよねぇ~。そうなりますよねぇ~。)
『先程、貴殿と一緒にいた男は誰ですか?貴殿の仲間でしょうか?』
(アチャラか。アチャラの事、やけに聞きたがるな。アイツ、何しでかしたんだ!?)
「いや。仲間ではありません。さっきも言いましたが、倒れている私を介抱し、ここまで一緒に付き添ってきてくれただけのイケメンのお兄さんです。」
「名前は、確か・・・・ナンチャラ・・・だったっけか。ウンチャラ・・・だったけか?」
「いかんせん、強く殴られたのでよく思い出せません。」
(・・・嫌味の一つでも返さないと。)
『・・・。つまり、あの男とは関係が無いのですね?』
殴られたと強調したから、バツが悪そうに言い放つ。
「・・・はい。成り行きで一緒になっただけです。」
『・・・まぁ、貴殿のようにデタラメな呪力を放っている人間は違うでしょう。』
そう呟くと、来いというように、顎でオレを扉から出るように指示する。
(・・・へいへい。どこの世の中も自分のミスを素直に謝らないヤツってのはいるもんで。)
何て思いながら、扉から出ようとした時。
『・・・手荒な真似をしてすみませんでした。私は、街ここを守る義務があるのです。』
そう言って、黒髪の人は部屋から出ていった。
(・・・ちゃんと謝れるんだ。案外、この人きちんとしてる人なのかもな。)
後ろを付いていく。
『ところで、貴殿は何故この街へ?』
前を歩きながら黒髪の人が訪ねる。
「・・・あぁ、ええっと、さっきたまたま一緒にいた人が、記憶をなくしているから、一度祈祷師に診てもらった方が良いって・・・。それで、この街まで案内してくれたんです。」
『・・・なるほど。祈祷師か。確かに、記憶を無くしているのなら祈祷師に診てもらう方が良いですね。して、祈祷師がいる場所は分かるのですか?』
「・・・・・・・・いえ。・・・・何か、行けば分かるからって。言われて・・・」
『・・・随分、適当な案内ですね。』
「でも、路銀が無いと何で出来ないだろうって、路銀もくれて。何だか破天荒なお兄さんでした。」
『・・・・。そこまでしてくれるのに、何故入口で案内を止めるのかは聊か疑問ですね。』
「それで・・・ええっと・・・その・・・」
オレが呼び辛そうにしてるのに気付いたのか、黒髪の人はクルッと振り返り立ち止まった。
『これは失礼しました。私は、ガルバ。この街を守護している者です。』
(・・・凄い、しっかりキッチリしてる礼儀正しい人だな・・・)
「・・・こちらも、すみません。自分も覚えてるのは、名前だけですが・・・。それで、ガルバ様、この街の祈祷師さんはどちらにいるか、ご存知でしょうか?宜しければ教えて頂けると助かります。」
(・・・こう言う、キッチリした礼儀正しい人には、こちらもキッチリ礼儀正しくした方が好印象を持たれやすい。これ、社畜生活で学んだこと。)
『・・・えぇ。今、祈祷師は他所の町の祈祷師と合同で外に出ています。もう2、3日は戻って来ないと思います。』
(・・・・ゲッ!!・・マジか・・・よりによって居ないのかよ・・・オレ、どうしたら良いんだ!?)
『・・・何、心配せずとも良いです。明斗殿は記憶を無くしているのを祈祷師に診てもらいたいのでしょう?それと、その乱れた呪力の流れを何とかしてもらいたいのでは?』
(・・・・・・!・・・何でそれを!?祈祷師の事しか言って無かったのに・・・)
「・・・・・・・そうですね。それも診てもらえと言われました。」
————ガルバの眉がピクッと動く。
『・・・・言われた?今、言われたと言いましたか?』
(————あれ!?何かマズかったかな!?)
「・・・・え・・えぇ・・さっき言ってたお兄さんに・・・あの・・・何かマズかったでしょうか??」
(ドキドキしながら聞いてみる。)
『・・・・普通の人は、呪力の流れなんて分からないのに、その人は何故分かったのでしょうね?』
(・・・・あ。しまった。完璧忘れてた・・・アチャラ言ってたんだった・・・)
「さ・・・さて?何でなんでしょうね??私には見当もつかないですね・・・は・・はは・・」
『そのお兄さんとやらは祈祷師か何かだと言ってましたか?いや。祈祷師だったら、わざわざ街の祈祷師の所に案内等しないはず。合点がいかない。何か聞いてますか?』
「・・・・いや・・・特に何も言って無かったですね・・・う・・うん。」
『・・・まぁ、今は良いです。明斗殿。貴殿の呪力は“乱れ”ではない。何かが封じられ、押し込められている。上手く呪力の回路を構築せねば、このままでは危険だ。』
「・・・え・・・では、ボクはどうすれば・・・・」
『このまま放置していれば、何れ厄災になる危険性もある。』
(・・・・・なににぃぃぃーーー!!!アチャラあいつ、そんな事言って無かったじゃん!!)
「や・・・厄災!?・・厄災って、災いですか!?オレが!?」
『いかにも。現在、世界が不安定になっている。何が起こるか分からないのです。』
————ガルバは「やれやれ・・」と言った雰囲気を出しながら、静かに言った。
『祈祷師が戻るまで、私が診ましょう。……祠へ来てもらいます。』
そう言うと、ガルバは有無を言わせずに歩き出す。
(・・・いやいや。説明無しに祠とやらに行かなきゃいけない流れになってるじゃん・・・)
オレは、ガルバの後に付いていくしかなかった。




