薬姫
『・・・困りました。バサラと明斗殿の傷は、普通の薬等では癒えません。所謂、重症です。この世界には人間界で言う所の医師と呼ばれるような人はいません。治癒を司る守護者が人々を診ています。』
ガルバさんが困ったように話す。
「・・・なるほど。では、その治癒を司る守護者の方に治してもらうという事なんですね。では、その方を呼んで————。」
そこまで言った時、オレのベッドの横に寝かされていたバサラが急に大声を出した。
『・・・・いや!!・・・寝ておれば治るであろう!・・・のぉ?ガルバよ。・・大丈夫じゃろうて!・・・・なぁ?・・・そうであると言うてくれ・・・ガルバよ・・・』
続いてガルバさんが口を開く。
『・・・・私としても、そうであって欲しい・・・と思っていましたが・・・ガーラの治療もありますので・・・・呼ぶしか・・・・』
(・・・・あれ?・・・この二人、何か様子がおかしい。さっきの話も途中だったし、改めて聞かなきゃ・・・)
「・・・お二人、何かあるんですか?その治癒を司る守護者の方と・・・それに、さっきのルドラってヤツの事も。」
『・・・その話は、私からしましょう。』
ガルバさんが口を開く。
『ルドラは、大自在天の守護者で、かつてバサラと戦い、調伏された者です。改心する前はとても好戦的で、あちこちを荒らし回っていました。ところが、バサラに調伏され改心した後は、人々の為に厄除け等の信仰を集めていました。』
ここでバサラが口を開く。
『・・・ところが、ヤツは胎蔵界の大日様の考えに同調し、その願いを叶えるためには滅びしかないと諭され、またあの頃に戻ってしまった・・・と言う訳じゃ。しかも、ワシと戦った時より強い力に目覚めて・・というお土産付きじゃ。』
「・・・・だから、バサラにこんな傷を・・・・」
バサラが深手を負う位だから、相当な使い手なのだろう。
「・・・ルドラについては分かった。それで、その治癒を司る守護・・・・」
そう言いかけて二人を見ると、二人共青い顔をして小刻みに震えている。
(・・・・・・え?バサラでさえも脅える程の実力者?)
バサラが、恐る恐る口を開く。
『・・・いや・・・アヤツの事は・・・その・・・何だ・・・なぁ?・・ガルバよ。』
ガルバさんは眼鏡をクッと上げて答える。
『・・・えぇ・・・出来るのなら、あまり関わらせたくは・・・』
バサラも同調する。
『・・・うむ。明斗にはちと劇薬だと思・・・』
———そこへ。
『・・・・・誰が劇薬だって?誰が関わりたくないって??』
その声が響いた。
その声は、氷のように冷たく刃のように刺さる。
部屋の空気を一瞬で凍らせるような声。
ガルバさんとバサラは、顔面蒼白で肩をビクビクさせている。
ふと部屋の入り口を見ると、銀髪の女性が静かに立っていた。
スラッとした高身長に、肌は雪のように白く、瞳は薄い紫。
そして———
誰もが二度見するんじゃないかと思う位の美貌と完璧なスタイル。
だが、その美しさよりも先に、圧が来る。
『・・・・それで?・・・どうなんだい?・・・バサラ?』
バサラは、そ~っと掛布団を顔まで上げようとする。
『・・・バ・サ・ラ・・って言ってんだろう?お前、聞こえてないのかい??聞こえない耳なら、いっその事アタシが今、この場で、その耳掃除してやろうか?キレイさっぱり両側から無くしてやるよ?』
(・・・・そ・・掃除って、キレイに無くすって事の掃除なのね・・・)
バサラは、すぐにシャキッと上半身を起こして慌てる。
『・・・・いやいやいや。そうでは無い。お主の作る薬は、劇薬のようじゃがこの世で一番の薬である。と伝えようとしていたのだ。』
『・・・・ふぅ~ん。』
そう言うと、その人は部屋の入り口からオレ達の方へ歩いてくる。
彼女は、青白い僧衣を着ていて、その上から氷のような羽衣を羽織っている。
その羽衣は、肩〜腕が薄く透けていて、美しい。
更に、胸元は深めに開いていて上品な色気が溢れ出ている。
そして、極め付けはロングスカートにスリットが入っている事だ。それだけでも、世の中の男性諸君はテンションが上がると言うのに、腰の銀帯が彼女のスタイルの良さを際立たせている。その銀帯には、小さな薬壺がぶら下がっている。
美しい銀髪には氷結晶の髪飾りを付けていて、足元は白い足袋に青い草履という出で立ち。
まさに、絶世の美女。オレが今まで知っている女性の中で、ダントツなのは間違いない。
あまりの美女っぷりに、思わず情景描写が細かくなってしまった程だ。
その美女がオレの隣まで歩いてくると、ピタっと止まる。その人は、グッと顔を近づけて覗き込んで来る。
『・・・・アンタが、明斗だね~。』
(・・・やばい・・すっごい良い匂いする・・・そして、目のやり場に困る・・)
「は・・はい!明斗と申します。初めま・・・。」
『・・・ちっ・・不動明王の加護者が、この程度の戦闘で重症になりやがって、情けない。』
『・・・お前、鍛え方が足りないんじゃないのか?ちゃんと飯食ってるのか?』
「・・・・いや・・・」
『・・・さっさと喋ろ!返事が遅いっ!!』
「・・は、はいっ!今、ガルバさんとバサラに修行を付けてもらっている所でした!」
『・・・それだけか?』
「・・・・え!?・・・えっと・・・」
————スパァァァン!
「・・・ぐはっ!!」
豪快に頭を叩かれる。
(・・・要治療者の頭をドつくなんて、この人ヤバい・・・)
『・・・二度も言わせるな。聞いた事は一回で答えろ。』
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい・・・・)
「・・・・・はいっ!申し訳ございませんでした。以後、気を付けます。そして、きちんと食事は摂っております。」
『・・・分かれば良い。これから気を付けな。』
「はいっ!分かりました!」
『・・・なぁ、ガルバよ。そうだよなぁ?』
(・・・ひっ・・・)
ガルバさんが聞こえないくらいの小さな声でそう言ったのをオレは聞き逃さなかった。
『・・・えぇ・・そ・・そうですね。ところで、紫苑、自己紹介はしないのですか?』
(・・・この重苦しい雰囲気を無理やり変えようとして・・・さすがガルバさんっ!!)
『・・・・それより、ガルバお前、出来れば関わらせたく無いだかって言ってなかったっけか?』
額から汗が一筋流れるガルバさん・・・ゴクリと喉を鳴らしてから立ち上がる。
『皆が言わないから、私が皆さんの総意を代表して言いましょう。』
(・・・・あ。この人、オレ達も巻き込んで逃げようとしてる)
『・・・何故なら、このような雰囲気になるからです!!紫苑、アナタは毎回このような雰囲気にしてしまうじゃないですかっ!だから、明斗殿に・・・・ブッ!!』
———気付けば、紫苑さんが履いていたスリッパでガルバさんの顔面をはたいていた。
『え?何て??聞こえなーい?』
(この人、ヤバい。ヤバすぎる・・・・)
『・・・さっき、ガルバが皆さんの総意を代表して・・って言ってたけど、バサラ、そうなの??もしそうだとしたら、お前らの頭カチ割って脳みそストローでチューチュー吸ってやろうか?』
(・・・ガッツリ聞こえてるじゃんか・・・怖い。怖すぎる・・・)
固まるバサラ。
そう言うと、紫苑さんはクルっと振り返って困り顔で言った。
『・・・怖かったぁ~!!』
全員が盛大にコケる。
(まさか、ここで新〇劇のや〇え姉さんのネタが炸裂するとは!!恐るべし。)
『・・・さっさと治癒を始めるぞ。また敵が襲ってくるとも限らんしな。』
そう言うと、紫苑さんはオレの横に立ち、オレの胸の上に手をかざす。
そして・・・
『オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ!』
薬師如来の真言を唱えた。超有名な真言なので一発で分かる。
(・・・なるほど。紫苑さんは薬師如来の守護者さんなんだな・・・)
同時に、オレの胸に薬師如来の梵字「ベイ」という文字が浮かび上がる。
その光が徐々に消える。
『・・・よし。これで問題ない。お前は、もっと実力を付けなければ。せめて、自分が傷付かなくて済むように。お前は、この世を修復する事が出来る唯一の人間だ。もっと自分を労われ。』
(あの、ドSっぷりを見せられた後に、こんな事言われたら・・・胸キュ・・)
『・・・ま、お前が死んでも誰も悲しまないがな。はっはっは!』
(・・・・前言撤回。・・・このドSめ・・・)
「・・・は・・・はい。精進します。ありがとうございました。」
『・・・よし。次はバサラか。どれ。見せてみろ。』
そう言うと、バサラの脇の包帯を取る紫苑さん。
『・・・お前にこれだけの傷を付けるとは、相手はまさか・・・』
バサラが口を開く。
『・・・うむ。そのまさかじゃ。』
『・・・・これは、厄介なヤツが出てきたな。まぁ、ヤツはお前にしか執着しないだろうから、そこだけは良いけどな。アタシ達と戦闘になったら、まずアタシ達に勝ち目はない。そこは、ま、頑張れ。』
そう言うと、紫苑さんは口角を上げる。
紫苑さんは、オレと同じく薬師如来の真言を唱え、バサラの傷を癒した。
『・・・ふう。これでやっと動けるようになったわい。すまぬのぉ。紫苑よ。』
『・・・なぁに、問題無いさね。それより、お前さん達に頼みたい事があってな。』
紫苑さんはそう言うと、チラッと部屋の隅に目線を投げる。
スリッパで叩かれたガルバさんが部屋の隅で足を抱えて小さくなっているからだ。
『・・・これだから、面倒なんだよ。』
そう呟くと、紫苑さんは立ち上がってガルバさんの所へ行く。
『・・・な・・何ですか!また殴るんですかっ!』
(・・・そりゃ、そうなるわな・・・)
———紫苑さんは、ガルバさんの胸倉をグッと掴み、立ち上がらせる。
と同時に。
ガルバさんの唇を奪う。
(・・・・・!!!!!)
『・・・・お主ら、ここにワシらがおる事を忘れるでないぞ・・・』
「・・・え!?!?!?何??どういう事~!!」
『・・・つまりじゃ、そう言う事よ。』
「・・・じゃあ、さっきの寸劇は・・・?」
『・・・恋人から叩かれたのじゃ。ああなるであろうよ・・・。』
全てを悟るオレ。
「・・・ちょっと!!!!いつまでやってんだーーー!!!羨ましいぞーー!!」
思わず心の叫びが出る明斗だった。




