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退職と10年の忍耐  作者: 中村 忠政
7/9

「嫉妬の使い方」

### 閑話 「嫉妬の使い方」


社員Aは、

嫉妬を否定しなかった。


昔は違った。


嫉妬する自分を、

醜いと思っていた。


負けを認めるようで嫌だった。


だが、

長く働いているうちに、

少し考えが変わった。


職場には、

どうしても気になる相手がいる。


仕事が早い。


人に好かれる。


評価される。


自分より楽そうに見える。


そういう相手を見ると、

胸の奥がざわつく。


昔の社員Aは、

そこで終わっていた。


「どうせ自分は駄目だ」


そうやって、

腐る。


だが後から、

別の考え方を覚えた。


嫉妬を、

相手に向けるのではなく、

自分に向ける。


「あれを見て苦しいなら、

自分は何を欲しがっている?」


そこを考える。


仕事の速さか。


会話力か。


安心か。


立場か。


それを見つける。


そして、

すぐ動かない。


まず三日間、

休む。


正しく苦しむ。


見ないふりをしない。


「悔しい」

を認める。


胸の奥の、

汚い感情もちゃんと見る。


社員Aは、

逃げると腐ることを知っていた。


だから、

まず苦しむ。


三日くらい経つと、

少し冷える。


すると、

次が見える。


嫉妬相手と、

話してみる。


あるいは、

よく観察する。


すると大抵、

見えてくる。


努力の跡が。


朝早く来ている。


家で勉強している。


失敗を隠さず直している。


人知れず気を遣っている。


表面だけでは、

分からなかった部分。


社員Aは、

それを何度も見た。


「ああ、

楽していたわけじゃないんだな」


そう思うと、

少しだけ嫉妬が変わる。


敵意ではなくなる。


そして、

自分に足りない部分を見る。


足りないなら、

足りるようにする。


改善する。


少しずつでも。


それでやっと、

普通。


社員Aは、

嫉妬しなくなる人間を、

あまり信用していなかった。


人は、

欲がある。


比べる。


苦しくなる。


それ自体は、

多分普通だ。


問題は、

そこで腐るか、

燃料に変えるか。


社員Aは、

何度も腐りかけた。


だが、

そのたびに思った。


――嫉妬は、

相手を壊すためじゃない。


自分の足りなさを知るために、

出てくるんじゃないか、と。


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