「嫉妬の使い方」
### 閑話 「嫉妬の使い方」
社員Aは、
嫉妬を否定しなかった。
昔は違った。
嫉妬する自分を、
醜いと思っていた。
負けを認めるようで嫌だった。
だが、
長く働いているうちに、
少し考えが変わった。
職場には、
どうしても気になる相手がいる。
仕事が早い。
人に好かれる。
評価される。
自分より楽そうに見える。
そういう相手を見ると、
胸の奥がざわつく。
昔の社員Aは、
そこで終わっていた。
「どうせ自分は駄目だ」
そうやって、
腐る。
だが後から、
別の考え方を覚えた。
嫉妬を、
相手に向けるのではなく、
自分に向ける。
「あれを見て苦しいなら、
自分は何を欲しがっている?」
そこを考える。
仕事の速さか。
会話力か。
安心か。
立場か。
それを見つける。
そして、
すぐ動かない。
まず三日間、
休む。
正しく苦しむ。
見ないふりをしない。
「悔しい」
を認める。
胸の奥の、
汚い感情もちゃんと見る。
社員Aは、
逃げると腐ることを知っていた。
だから、
まず苦しむ。
三日くらい経つと、
少し冷える。
すると、
次が見える。
嫉妬相手と、
話してみる。
あるいは、
よく観察する。
すると大抵、
見えてくる。
努力の跡が。
朝早く来ている。
家で勉強している。
失敗を隠さず直している。
人知れず気を遣っている。
表面だけでは、
分からなかった部分。
社員Aは、
それを何度も見た。
「ああ、
楽していたわけじゃないんだな」
そう思うと、
少しだけ嫉妬が変わる。
敵意ではなくなる。
そして、
自分に足りない部分を見る。
足りないなら、
足りるようにする。
改善する。
少しずつでも。
それでやっと、
普通。
社員Aは、
嫉妬しなくなる人間を、
あまり信用していなかった。
人は、
欲がある。
比べる。
苦しくなる。
それ自体は、
多分普通だ。
問題は、
そこで腐るか、
燃料に変えるか。
社員Aは、
何度も腐りかけた。
だが、
そのたびに思った。
――嫉妬は、
相手を壊すためじゃない。
自分の足りなさを知るために、
出てくるんじゃないか、と。




