表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退職と10年の忍耐  作者: 中村 忠政
6/9

閑話 「LV」

### 閑話 「LV」


社員Aには、

昔から変な癖があった。


叱られた時、

頭の中で

「LV」

を付けて考えることだった。


ゲームみたいに。


そうしないと、

仕事にならなかった。


怒鳴られる。


失敗する。


落ち込む。


それを全部まともに受けていたら、

心が潰れる。


だから、

変換した。


「今の自分はLV2」


そう考える。


一人で全部できない。


怒られて当然。


分からないことも多い。


だから、

まず覚える。


一年目は、

LV2か3くらい。


二年目で、

やっとLV3。


三年目で、

LV4。


そんな風に、

勝手に段階を作っていた。


周囲は、

完成品だけを見る。


だが社員Aは、

自分の中で

「今どこまで来たか」

を見ないと、

耐えられなかった。


叱られる前に、

先に自分で確認した。


今日はミスが減った。


昨日より早い。


前は出来なかったことが出来た。


小さな経験値を、

自分で数えた。


誰も褒めないから。


誰も、

「前より良くなった」

とは言わないから。


だから自分で、

覚えておくしかなかった。


ある日、

つい口を滑らせたことがある。


「まだLV低いんで」


周囲は、

変な顔をした。


「何それ」


笑われて終わった。


社員Aも、

適当に笑った。


その時、

ふと思った。


――ああ、

ばあちゃんの口癖と同じだ。


祖母は昔から、

よく言っていた。


「人には段階がある」

「今出来なくても、

次の段階で分かる」


貧しい時代を生きた人だった。


怒鳴られても、

馬鹿にされても、

少しずつ覚えて生きてきた。


だからかもしれない。


社員Aも、

どこかで自然に、

同じ考え方をしていた。


人は、

急に完成しない。


少しずつしか進めない。


なのに世の中は、

最初からLV50を求める。


社員Aは、

それが苦しかった。


だからせめて、

自分だけは、

自分に経験値を付けた。


今日も生きた。


今日も働いた。


今日も逃げなかった。


たったそれだけでも、

経験値1くらいはあるだろう、と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ