偽りない自分 ※
BARから真紘のマンションへの移動時間でさえ、長く感じた。扉を開けると同時に、繋いでいた手を引かれ、唇を重ねる。貪るように与えられる口淫が、彼の性急な衝動を表しているようで単純に嬉しかった。
もう手にすることは出来ないと諦めていた彼が、狂おしいほどの劣情を隠しもせず、自分を求めてくる。その事が嬉しくてたまらない。
感情の赴くまま、真紘を誘う。
口腔に差し入れられた舌を絡め取り吸い上げれば、意図を察した彼の口淫も激しさを増していった。
飲み込みきれなかった唾液が溢れ、顎を伝い胸元へと落ちていき、白のブラウスを濡らす。
「えっろ……、ブラ透けてる」
真紘の言葉に下を向けば、一緒に入ったランジェリーショップでプレゼントされた薄青色のブラジャーが、唾液で濡れた部分から透けて見えている。
「俺がプレゼントしたヤツだよな? 着けてくれているんだ」
「だって、今日は勝負の日だったから。真紘にもらったブラ着けてたら、勇気もらえる気がして」
「鈴香、マジか……。煽った責任とってもらうからな」
「えっ!? きゃっ……」
急に上がった視界と揺れに、慌てて彼の首へと腕を回せば、履いていたパンプスを床へと落とされる。抱き上げられたまま、ズンズンと廊下を進み、着いた先は見慣れた寝室だった。
黒のベッドシーツの上へと落とされ、覆い被さるように乗り上げた真紘を見あげれば、淫靡な欲を宿した瞳に囚われた。
初めて肌を重ねた日を思い出す。欲望を宿し、私を見つめる瞳。その奥底に潜む闇に惹かれた。
ただ、今はその闇が消え、欲望のみを宿した瞳が見える。心の底から欲してくれていると分かる強い瞳は、私に勇気を与えてくれた。
真紘へと両手を伸ばし、頬を包む。
「真紘、貴方を愛しているわ。私の大切な人……」
言葉と共に、唇を重ねる。
触れるだけのキスをし、離れていく唇。たった、それだけの行為が、心を満たしてくれる。
「鈴香、愛している」
啄むようなキスでは物足りないとでも言うように、深くなるキスと悪戯に動く手に煽られ、身体の奥が疼き出した。
*
心地よい揺れに、深淵へと沈んでいた意識が浮上する。
気持ちいい……
全身を包む温かな感触に目を開ければ、靄の中に、真っ白な天井が見えた。
「鈴香、目が覚めた?」
耳元で聴こえた愛しい人の声に、首を動かせばバシャっと音がたつ。
「真紘……。ここ、お風呂?」
「あぁ。鈴香、気絶しちゃったんだよ。そんなに気持ち良かったの」
「ひっ!? あぁぁ……」
腰に回されていた手が悪戯に動き、敏感な部分をスッとなぞり、離れていく。そんな些細な指の動きですら、彼の愛撫に慣らされた身体は、敏感に反応してしまった。
「ま、待って。これ以上は、無理」
「今夜は、もうしないよ。声も枯れているし、一人じゃ、動けないでしょ?」
真紘の言葉に、浴槽の縁に手をかけ力を入れようとしたが無理だった。この分だと立つのも難しいだろう。
「それにしても、今夜の鈴香はエロかったなぁ。あんな誘われ方したら、どんな男だって落ちる。鏡の前で自慰……」
「あぁぁぁぁ、やめてぇぇ」
恋人から聞かされる自分の痴態ほど恥ずかしいものはない。最後の力を振り絞り、暴れてみるが水がチャプチャプと揺れるだけで、大した抵抗にはならない。
ブクブクと沈んでしまいたい。
「鈴香は、忘れたいのかもしれないけど、俺は忘れないよ。初めて、ありのままの鈴香を俺に見せてくれたんだろう?」
確かに、あの鏡に映っていた私は欲望に忠実な、ただの女だった。なんの鎧も、仮面もつけていなかった。そんな私に真紘は欲情してくれた。
欲望にまみれた私を綺麗だと言った。そして、愛していると言ってくれたのだ。
「えぇ……、あんな私でも愛してくれる?」
「もちろん。どんな鈴香も愛している」
心が満たされていく。
これからも、ありのままの自分を曝け出すことが怖くなる時があるだろう。その時は、真紘が偽りの仮面を打ち壊してくれる。ただ、少しずつ自分も変わっていきたい。
自分の心に正直に。
そして、ありのままの自分を愛せるように。
【完】
完結までお読みくださり、ありがとうございました。
少しでも心に残るお話になっていたら、いいなぁと思います。
最後に、今のお気持ちのままに評価くださると、筆者感涙するほど嬉しいです。
どうぞよろしくお願い致します╰(*´︶`*)╯♡




