第10章 1年生、芽依(めい)
「ねえ芽依、このあと買い物しない?」萌絵が誘ってくる。いつもの風景。
萌絵のこと、嫌いじゃないんだけど、ちょっと困ってる。入学したときから。
萌絵は、入学したときから堂々と、自分がトランスだとアウティングしている。
あたしは、トランスって公言したことがない。多分このあとも....少なくとも、言いたくない。でも、見る人が見たらわかるみたい。
そんな中、いつも萌絵があたしに声をかけてくる。
あたしが積極的に、他のお友達に声を掛けることが少ないためか、自然と、彼女と一緒に動いていることが多い。
「やっぱトランス同士で仲良くしてるんだね」そんな声が聞こえてきた。他の人にはそう見えるみたい。
萌絵と話すときも「そういえばあたしたちのようなトランスってさ...」みたいな話を、時々する。
あたしは、トランスの仲間が欲しかったのだろうか。
トランスじゃない女子と混じり、同化するつもりじゃなかったのかしら。
気付いたら、他の女子と群れることがほとんどなく、萌絵とばかりいるような。
周りからもそう思われているらしい。
一度萌絵に、そんな話をしてみた。
「だったら、芽依が、お友達になりたい子に話しかけたらいいだけじゃん。あたし、芽依を縛ってるつもりはないし、縛りたくもない。いやだったら離れるよ」
じゃあしばらく、あたしに話しかけないでくれる?
「わかったよ」
その後1ヵ月、萌絵はあたしには話かけなくなった。
たまたまクラスの学習グループで一緒になったクラスメートから聞かれた「最近萌絵とケンカしてるの?」
そんなつもりはない。でも萌絵とは1ヵ月話していない。
でも、...萌絵以外の子とも、話してないかも知れない。
話の接点がない。作れない。
授業で同じグループになっても、他のお友達同士が仲良く話をしている。話に入り込めない。
ちょっと息苦しくなった。思わず萌絵に話しかけた。彼女、いやがらずに、あたしのために時間を作ってくれた。
悩んでいることを全部ぶちまけた。
「それって、トランスとかと、関係ないんじゃ?ましてや、あたし以外のこと仲良くしたいんだったら、あたし以外の子に相談してもよいのにね」
たしかにそうだ。
「あたしでよかったら、いつでも話に乗るよ」
気付いたら、萌絵と行動することがまた多くなった。
「萌絵とは仲直りしたみたいね」と言われた。別にそうじゃないんだけど。
席替えがあった。となりの席になったのは怜美。彼女はカバンに、最近はやりの、AveMujicaのモーティスのぬいぐるみをつけていた。
「あ、モーティスちゃんの!」
思わず声が出た。
「あ、わかるんだ!AveMujica好き?」
「あたしがすきなのはオブリビオニス。ライブ映像でのキーボード演奏、すごく好きなの、かっこよくって」
ついつい語ってしまった。笑われた。会話はそれだけだったが、少しだけ笑顔になった。




