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第9章 中退した亜希(1)

 L女子校は2年生の1学期までいた。

 おしゃれなお友達に囲まれる日々。決して不満はなかった。同級生も良い人ばかりだった。

 でも、入学早々、あたしがトランスって、みんなわかってたみたい。「身体が男子」なあたしに、周りが気を遣っていることも、うすうす感じた。

 周りの子に同化しようと、エネルギーを使っていることも自覚した。

 もちろんそれは錯覚だったのかもしれない。意識しすぎだったのかも知れない。

 でも、居心地の悪さが増幅された。エネルギーの消耗。

 そして自分の気持ちが保てなくなり、勢いで中退してしまった。


 しばらく家に閉じこもった。

 心配した母が、お友達の紹介で、近くの喫茶店でのバイトの話をもってきた。引きこもりも1ヶ月になり、自分でも良いチャンスと思った。店長は、その、母の友達。

 店長からもお客さんからも、普通に女子バイトと見られたのはホッとした。仕事も覚えて、まあまあ順調な生活、と思っていた。


 ある日、喫茶店のお客さんから、お手紙をもらった。20代後半かな?のお兄さん。一目惚れ、デートして、ゆくゆくは結婚、そんな内容だった。

 どうしよう。相談する友達もいない。母に聞いた。上手くやり過ごしなさいって。返事しない間も、彼はお客さんとして、何度も来店した。返事を待ってるような視線が怖かった。


 何回か来店したタイミングで思い切って話しかけた。今日閉店後に直接お話しましょう、って。店長にも同席してもらった。高校中退の未成年、それにトランスなことも。構わないって言われた。

 あとは亜希ちゃん次第よ。店長はそう言って席を離れた。結局、次の店休日に、遊園地でデートすることになった。


 デートの服は母にも選んでもらった。年相応に、できるだけ地味に。デートは、とにかく何も考えず、彼の提案に任せて動き回った。遊園地って、あたしにはちょっと幼稚。男子とデートってのもピンと来てない。

 観覧車に乗った。しまったと思ったのが遅かった。体の距離を詰められる。


 心の準備ができてないの。


 それだけ言うのに、観覧車1周の時間がかかった。

 それ以上にならなかったのは彼もブレーキをかけてたか。帰りはあたしの家まで送ってくれた。別れ際にいきなりキスされた。嬉しくなかった。


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