第九話:刻印の申し出
シオンは、カイルの干渉からリオナの魂を守るため、魔法石を用いて共鳴の儀式を行った後、改めてリオナと向き合った。彼の琥珀色の瞳は真剣さを湛え、リオナの命を守るという覚悟の光を宿していた。
「リオナ様」
シオンは静かに、しかし決然とした声で、重大な言葉を口にした。
「私と『刻印』契約を結んで頂けませんか?」
精霊の守り手とガイドの間に『刻印』契約を結ぶことは多い。ガイドの身体に個々の精霊の守り手が持つ紋章を『刻印』することで、元々の相性を超えた、魂のレベルでの深い共鳴の儀式を行うことができるようになる。それは、リオナの傷ついた魂を修復し、カイルの感情汚染を防ぐ防壁となる。
ただし、『刻印』を持ったガイドは、たった一人の精霊の守り手にしか共鳴の儀式出来なくなる。精霊の守り手にとっては極めて都合が良く、ガイドにとってはキャリアと自由を失うという大きな代償を必要とする契約と言えた。
「そんな……シオン様に制約を課すなんて」
リオナは、シオンがその自由と未来を犠牲にするという事実に、言葉を失った。シオンほどのS級ガイドであれば、数多くの精霊の守り手を導き、聖護隊の歴史を変える功績を上げられるはずだ。
「『制約』については十分承知しています。私のことは気にしなくて大丈夫です。――貴女がどうしたいかだけ考えて下さい」
シオンは、あくまでリオナの意思を尊重した。この提案は、ガイドとしての献身であり、リオナへの愛の表明でもあった。
「私の刻印は、貴女様の魂の安寧を保証します。カイル隊長の波動から完全に切り離し、貴女様の二次覚醒に必要な清浄な魂の土壌を築くことができます」
シオンは静かに告げた。
「先程の共鳴の儀式で一先ず魔物化の危険性はなくなりました。ですが、あまり猶予はないと思います。貴女様の魂の疲弊は、もはや待ったなしの状態です。急かせてしまいますが、三日後に返事を聞かせて下さい」
そして、彼はいつもの穏やかな笑みに戻った。
「それまでは、これまでと変わらず接して下さいね。貴女様の選択を、心から尊重します」
シオンは、リオナの部屋を辞去した。リオナは、手のひらに汗を握りながら、静かに閉まった扉を見つめた。
カイルという名の『運命』か、それともシオンという名の『命の救済』か。リオナは、その重すぎる選択を、たった一人で背負うことになったのだった。




