第二十七話:後日譚2 通常任務
「今日の任務は――」
「要人警護ですね。首脳会談が行われるので、無事に送り届けよとのことです」
「ありがとう。了解よ」
私が予定表を確認しようとするのを制して、シオンが予定を告げる。
支度を整え、私、カイル、シオンの三人体制で現場に向かった。
「俺が右だ!」
「いえ、貴方の索敵範囲は雑なので左へ行ってください」
「二人とも、真面目にして。私達は警護をしに来たのよ」
いつもながらの小競り合いに、リオナが冷ややかに釘を刺すと、二人はピタリと言い争いを止めた。
「……ッ、了解」
「申し訳ありません、リオナ様」
カイルは唇を尖らせながらも左翼へ、シオンは涼しい顔で右翼へと展開する。
この切り替えの早さはさすがS級だ。……まあ、中身は子供の喧嘩だけれど。
「行くわよ」
私が短く告げると、左右から同時に異なる質の波動が流れ込んできた。
カイルからは、荒々しくも頼もしい、広範囲を網羅する熱波のような索敵。
シオンからは、針の穴を通すように緻密で、冷静な冷気のような分析。
相反する二つのガイド能力が、私の体内で完璧に噛み合う。
かつては私を苦しめた「他者からの干渉」が、今は何よりも心地よい「翼」となって私を支えている。
「前方、クリア。……けっ、雑魚の気配一つねぇな」
「当然です。我々三人のS級波動を感じて近づく愚か者はいませんよ。……カイル、3時の方向、カラスが一羽飛び立ちます。驚かないでくださいね?」
「分かってるよ! いちいち細けぇんだよ!」
相変わらず軽口を叩き合っているが、その警戒網に隙はない。
背後で護衛対象の要人が、安堵と畏怖が入り混じった溜息を漏らすのが聞こえた。
「あ、あの……レヴァント様。その、両脇の騎士様たちは、仲がよろしいのですな……?」
恐る恐る尋ねてきた要人に、私は苦笑して答える。
「ええ。……少々、騒がしいのが玉に瑕ですが。腕だけは私が保証します」
私が誇らしげに胸を張ると、左右の二人から同時に、喜びの感情が波動に乗って伝わってきた。
……本当に、単純で愛しい私のガイドたちだ。
「前方、殺気!」
カイルが低く唸ると同時に、街路の影から数名の刺客が飛び出した。
愚かにも、彼らは護衛対象ではなく、中央にいる「女(私)」を狙って魔弾を放ってきた。甘く見られたものだ。
「――汚らわしい」
「俺の女に、触れるなッ!!」
私が指を動かすよりも早く、左右から氷結の槍と、爆炎の壁が奔った。
カイルの炎が魔弾を空中で蒸発させ、シオンの氷が刺客たちの足を地面ごと凍結させる。
「ひ、ひぃぃッ!?」
「S級だ! 話が違うぞ!?」
一瞬で無力化された刺客たちが悲鳴を上げる。
しかし、私の可愛いガイドたちの怒りは収まらないようだ。
「リオナ様に殺気を向けるとは……その目、くり抜いて差し上げましょうか?」
「灰も残さねぇ。消え失せろッ!」
シオンの瞳からハイライトが消え、カイルの全身から殺意の波動が噴き出す。
これでは、護衛対象の要人まで泡を吹いて倒れてしまいそうだ。
「……二人とも、そこまで」
パンッ。
私が手を叩くと、二人は「ハッ」として我に返り、忠実な犬のように私の元へ戻ってきた。
「申し訳ありません、リオナ様。つい、害虫駆除に熱が入りました」
「けっ、命拾いしたな、雑魚ども」
震え上がる刺客と、腰を抜かす要人を尻目に、私は二人に向かって微笑む。
「ええ。ナイスガードよ。……さあ、行きましょうか」




