第二十二話:作戦会議
聖護隊の拠点にある、薄暗い作戦会議室。 中央のテーブルには、アルテミス公国にあるヴァレンティン公の屋敷周辺の地図が広げられていた。
集まったのは、総隊長マイルズ、元神官長マダム・ローズ、S級ガイドのカイルとシオン。そして、S級ガーディアンとして覚醒したリオナ。 この国の最高戦力が一堂に会する、異様な密度の空間だった。
「――状況を確認する」
マイルズが重々しく口火を切った。
「敵の本丸は、アルテミス公国首都近郊にあるヴァレンティン公の別邸だ。表向きは療養所となっているが、実態は私兵と雇われ能力者で固められた要塞だ」
地図上の赤い印を指差す。
「偵察部隊からの情報によると、屋敷の周囲には高密度の『感知結界』と『物理防御結界』が何重にも張り巡らされている。さらに、内部にはルーク・カイラスが提供したとされる『強化兵』……おそらくは、失敗作の人工能力者たちが配置されている可能性が高い」
「失敗作とはいえ、腐ってもS級の出力を持つ化け物たちよ。まともに相手をしていたら、日が暮れてしまうわね」
ローズが扇で口元を隠しながら補足する。その瞳は冷ややかに地図を見下ろしていた。
「正面突破は自殺行為か。……だが、隠密行動で潜入するには、こちらの戦力は派手すぎる」
マイルズが頭を抱えるように唸る。 確かに、カイルやローズの魔力波動は隠そうとしても隠しきれるものではない。
「ご安心なさい、マイルズ。こそこそと裏口から入るなんて、わたくしたちの『弔い合戦』には似合わないわ」
ローズが不敵な笑みを浮かべ、バチンと扇を閉じた。
「わたくしが広域魔術で、屋敷周辺の結界ごと敵の目を欺きます。その隙に、本丸へ強襲をかける。『奇襲』よ」
「ローズ様が露払いを?」
「ええ。わたくしが派手に暴れて敵の注意を引きつけ、防御網をズタズタにするわ。その穴を突いて――リオナ、貴女が突っ込みなさい」
ローズの視線がリオナに向く。 通常、守るべき対象であるガーディアンを、しかも初陣の少女を最前線に立たせる。常識外れの提案に、マイルズが眉をひそめかけたが、それを制したのはリオナ自身だった。
「望むところです。……私の両親を弄んだ者たちに、私が引導を渡さなければ意味がない」
リオナの瞳には、迷いではなく、静かな青い炎のような決意が宿っていた。 その姿を見て、カイルが一歩前に出る。
「総隊長、俺もその作戦に賛成です。……今のリオナなら、誰にも負けません」
かつてはリオナを過保護に囲い込もうとしていたカイルが、今は彼女の強さを誰よりも信じていた。
「俺とシオンが両脇を固めます。雑魚は俺たちが散らす。リオナには、ヴァレンティン公の首だけを見させますよ」
「ええ。物理的な障害、魔法的な干渉、すべて私たちが排除します。リオナ様は、ただ前へ進んでください」
シオンもまた、静かに、しかし絶対の忠誠を込めて頷いた。
二人のS級ガイドが、自らを「盾」ではなく、女王の道を切り開く「剣」となると宣言したのだ。
マイルズは、目の前に並ぶ三人の若者たちを見渡した。 傲慢だったカイル、理性的すぎたシオン、そして怯えていたリオナ。 問題児ばかりだった彼らが、今、一つの強固なチームとして完成している。
「……分かった。作戦を承認する」
マイルズは大きく頷き、リオナの目を見据えた。
「リオナ・レヴァント。貴女を、今回の『ヴァレンティン公拘束作戦』の特別実行部隊長に任命する。 ただし、これは聖護隊としての任務であると同時に、貴女の『家』の問題でもある。……アルテミス公国の正統な後継者として、恥じぬ戦いをしてきなさい」
「はいっ!」
リオナの凛とした返事が室内に響く。
「では、役割を確認するわよ」
ローズが立ち上がり、指揮官の顔つきで宣言する。
「わたくしが『幻霧』で隠蔽しつつ接近、開戦と同時に広域爆撃で外郭を粉砕する。 その混乱に乗じて、リオナ、カイル、シオンの中央突破チームが屋敷内部へ侵入。 カイルとシオンは護衛と遊撃。リオナは最奥にいるヴァレンティン公の確保、および抵抗勢力の無力化を行いなさい」
「「「了解!」」」
「出発は今夜、月が出る前よ。……さあ、準備なさい。わたくしたちの可愛い女王陛下の、華々しい初陣よ!」
ローズの檄が飛び、三人は一斉に動き出した。 恐怖はない。あるのは、両親の無念を晴らし、自らの未来を勝ち取るための、高潔な闘志だけだった。




