第十八話:愛の服従、贖罪のガイディング
無事、リオナは帰ってきた。
しかし、誘拐された状態で二次覚醒を経験したため、正しく精根尽き果てた状態と言えた。
それ故、帰還後、早々に自室で休んでいた。
……コンコンコン――
扉をためらいがちに叩く音がした。
「どうぞ」
リオナの返事を待って、扉を開けたのは憔悴しきった様子のカイルだった。
「カイル、どうしたの――?」
俯いているため表情ははっきりしなかったが、いつもの威勢の良さは成りを潜め、大きな体がいつもより小さく見えるほどだった。
リオナの温かい手に触れられ、緊張と安堵で震えながら、嗚咽を漏らす。
「リオナ、すまなかった。……俺は……っ、俺は貴女に……っ」
リオナのベッド脇に跪き、懺悔するように頭を下げる。プラチナブロンドの髪が部屋の明かりをうっすらと反射した。
「分かっているわ、カイル。全て」
「違う! 分かってなんかいない!俺は、貴女が俺の運命の絆だと知ってから……貴女を支配しようとした。俺のそばに繋ぎ止めようと、言葉で、波動で、何度も貴女を傷つけた! 俺は……」
カイルは耐えきれず、リオナの服に顔を埋め、子供のように泣き崩れる。
「俺は…運命の絆を呪いにしてしまった。貴女を縛り付ける拘束としてしまったんだ! 本当に、ごめん……っ」
リオナは、泣きじゃくるカイルの銀色の髪を優しく撫で、その瞳に女王の威厳と深い愛情を湛える。
「大丈夫。カイル、大丈夫だから」
彼女は、カイルの顔を優しく上げさせた。
その頬を伝う涙は途切れず、リオナの顔が歪んで見えた。その歪んだ視界の中で、カイルはひたすらリオナの愛と許しを乞い願う。
「もし、運命の絆が呪いだとしても、私が祝いに変えてみせる。私と貴方なら、きっと出来るわ。カイル、あなたはもう、私から逃れられない。そして、私ももう、あなたから離れられない。さあ、私に奉仕しなさい。私を救いなさい。それが、私からの命令よ」
リオナの許しにカイルはただただ泣き崩れるばかりだった。
「呪いを祝いに変える」その言葉にカイルの魂は救済され、涙が罪を流していくようだった。涙でぐちゃぐちゃになったカイルの頬を両手で包み込むとリオナはそっと口づけた。
「カイル、顔を上げて。貴方の共鳴の儀式が、今、私には必要よ。二次覚醒の後の不安定な波動を、貴方の愛で満たして。さあ、私を抱きなさい。それが、貴方の贖罪の儀式よ」
「……り、リオナ様……っ、命令のままに……」
カイルは涙を拭うこともせず、リオナの手を取り、その手のひらに口付けた。その後、堪えきれないように一本ずつ白い指を丁寧に舐める。
熱のこもった視線でリオナの表情を伺う。
嫣然と微笑みを浮かべる彼女の細い身体にカイルの大きな背が覆いかぶさった。
カイルは赤い唇に白い首筋に柔らかな胸に順番に口づけを落としていく。
激しい愛の合間に、嗚咽やかすれた懺悔の言葉が漏れた。
骨ばった大きな手がリオナの夜着を滑り落とし、その柔らかな肢体が露わになり、カイルは息を呑む。
「リオナ様……っ、貴女の全てを、俺に……っ、どうか俺に、貴女への奉仕を……!」
自らの服も脱ぎ去り、カイルは浮かされたようにそう告げた。
リオナは自らを覆うカイルの首筋にするりと両手を回した。
カイルの手が触れる場所、唇が這う場所から、熱が注ぎ込まれる。
荒々しく慣れない行為からはリオナのことだけを思う純粋な共鳴の儀式の波動が流れ込んできた。
リオナの不安定な波動が、俺の情熱の奔流によって一気に増幅され、暴走しかけそうになる。
しかし、リオナ様の支配力がそれを受け止め、繋ぎ止めた。
「カイル……貴方の思いが伝わってくるわ……とても気持ち、いい」
耳元で熱く密やかに囁かれ、カイルの欲望がさらに大きくなる。
リオナに奉仕し、快楽を与えられていることに魂の奥底から歓喜の思いが溢れ出る。
(ああ、リオナ様……っ、この瞬間を俺は待ち望んでいたんだ。俺は支配者じゃない。貴女の慈悲に縋り、奉仕することを乞い願う従僕だ……!)
カイルは自ら律せえぬ程の激情が迸るのを留めることが出来なかった。
ただ自らが求めるままにリオナにその熱の全てを注ぎ込む。
(俺の愛は荒っぽい……でも、今はこれしかできない! リオナ様の命を繋ぎ止めるには、俺のこの情熱の炎しか……! 誰にも、この愛は真似できない!)
尽き果てぬ力の奔流をリオナはすべて受け入れ、自らの内に包みこんだ。
この瞬間を彼はずっと求めていたのだ。カイルの魂の居場所がここにあった。
彼の童貞の熱狂は、愛と服従の炎となり、リオナの不安定な魔力波動を力強く、根源から増幅させていく。
リオナの柔らかな体が、カイルの激しい共鳴の儀式に応えるように、熱を帯びていった。
「カイル……っ、もっと……っ、貴方の愛の全てを、私に……頂戴っ」
微かに喘ぐようなリオナの熱を帯びた言葉がカイルの最後の理性を吹き飛ばした。
彼はもはや、理性で制御する余裕などなかった。
ただただ、リオナ様を愛し、奉仕し、救済されることだけを求めて、全てを捧げ尽くすのだった。
「リオナ様、リオナ様……っ、愛しています……っ!」
カイルの嗚咽と愛の叫びは、部屋中に響き渡り、彼にとって、それは生涯忘れられない、最も屈辱的な甘美な初夜となった。




