第十五話:二次覚醒の始まりと決死のガイディング
「カイル隊長、現着しました」
「よくやったわ。さあ、カイル、リオナを見つけなさい!」
「了解した! よくもリオナを連れ去ったな! そのことを貴様たちの命を持って償うが良い!!」
ローズの命でさらに勢いづいたカイルが驀進する。
「……カイル隊長に任せて大丈夫でしょうか?」
シオンが冷静に現状を告げる。カイルは明らかに暴走状態だが、大丈夫だろうか、と。
その言葉にローズはにっこりと満面の笑みを浮かべる。
「問題ないわ。さすがに一途な駄犬でもリオナがいる以上、施設を全壊にはしないでしょう」
「リオナ――リオナーっ!!」
カイルは凄まじい破壊の跡を縫って最深部にたどり着く。拘束具に繋がれたリオナが、微かな声で応えた。
「……カイル、ここよ」
「何だ、何だ!! 予想以上に早すぎる! なんてバケモンだ!!」
施設を破壊しつつ、現れたカイルにルーク・カイラスは混乱する。こんなものは計画に全く存在しない!!
「貴様ら、そこをどけ!!」
忠実なる犬が飼い主のもとに到着する。拘束具に繋がれ力なく座るリオナを目にして、カイルはホッとするのと同時に心配気に眉を下げる。
「だ、大丈夫か? ――枷を外すぞ」
「……お願い、するわ」
カイルは迷いなく拘束具の枷を外した。
「……くっ! ――うううっ」
枷を外した途端、リオナの表情が苦悶に歪んだ。
リオナの身体からプラチナと金が混じったような力の奔流が吹き出し、うずまき始める。力の濃度がどんどん濃くなり、渦巻く風の勢いが増していった。傷付いた身体から制御を失った力が溢れ出していく。
「これは……」
カイルが顔色を失う。
『二次覚醒』だ。――能力の完全覚醒。能力が強ければ強いほど、周囲に及ぼす影響は大きい。本来ならば、然るべき強度を持つ施設でその時を迎えるものだったが、まさか、この最悪のタイミングで起こるとは!
「駄目だ、リオナ! 意識をしっかり持ってくれっ!!」
「……」
朦朧とするリオナにカイルの呼びかけは届かなかった。リオナを失うかも知れない恐怖にカイルは苛まれる。縦横無尽に荒れ狂う力がリオナ、カイルを含めその場にいる者たちの身体を切り裂く。
(俺が――なんとかしなくては! このままではリオナが魔力暴走で消えてしまう!)
カイルは痛みに耐えながら、リオナを抱きしめる手に力が入る。その鋼色に焦燥を滲ませた瞳は、リオナの唇を捉えた。
彼女の命を繋ぐため、決死の共鳴の儀式を行うために。
守り手を鎮めるための共鳴者による身体的接触。それは繋がりが深ければ深いほど、その共鳴の儀式は効果が高かった。遠隔よりも体に触れる方が、手を繋ぐよりも口づけするほうが、濃密な接触が守り手を癒やし安定させることができる。
カイルは、公爵家の傲慢な長男としてのプライドも、シオンへの嫉妬も、全てをかなぐり捨てた。今、この瞬間、彼はリオナの命を繋ぐ唯一の道具となる。
カイルはリオナの唇に、支配でも情欲でもない、純粋な命を乞う共鳴の儀式のキスを落とした。彼のプラチナブロンドが、リオナの金色と白銀の波動に巻き込まれ、激しく乱舞する。
「ぐっ……ま、まさか、こんな場所で共鳴の儀式だと!? あのS級の波動を暴走させたら、この施設は……そして、この研究は、またもや水の泡になるというのか!!」
実行犯のルークは、両親の研究の悲劇が繰り返されることに絶望し、憎悪を剥き出しにする。
「やめろ、カイル・ブランドン!! お前のせいで、リオナの覚醒は不完全に終わるぞ!!」
その呼びかけは、カイルに届かない。カイルの意識は、既にリオナの荒れ狂う魂の渦中にあった。
(リオナ! 俺の全てを捧げる! 運命の絆なんて呪いじゃない! 俺の命を、貴女の命に繋ぐ!!)
カイルのプラチナブロンドと、荒れ狂うリオナの波動が混ざり合い、施設全体を眩い光と轟音、そして制御不能な嵐が襲い始めた。
「ローズ様! 施設内部で二次覚醒と、カイル隊長の強制共鳴の儀式が始まりました! このままでは施設が崩壊します!」
ローズは冷徹だが、微かに声が震えていた。
「……まったく。最悪のタイミングね。ユリシーズ、全精力を注ぎなさい! 施設の外壁を補強! カイルの共鳴の儀式を援護しなさい! あの駄犬の命と引き換えにでも、リオナを安定させるのよ!」
ローズの命令が飛び、ユリシーズの清浄な波動が、カイルとリオナの嵐のような結合を外部から支え始めた。




