第十二話:駄犬の矯正と作戦会議
リオナが誘拐されてから、敵の波動を追跡する間に、マダム・ローズは一切の時間を無駄にしなかった。
拠点の一室。シオンは冷静に状況を分析し、敵の拠点を特定しようと端末を操作している。その傍らで、マダム・ローズは扇子を優雅に広げ、カイルを立たせたまま精神的な指導(と呼ぶ名の公開処刑)を行っていた。
カイルはシオンのガイディングが解除され、自由にはなっているが、ローズの圧倒的な威圧感と、リオナを失った焦燥で、身じろぎ一つできない。
「カイル・ブランドン。貴方の魂は、支配欲と喪失の恐怖という、S級ガイドとして最も不要な毒に満ちているわ。リオナは、貴方に『献身』を命じた。その意味を理解しているかしら?」
「……理解している。リオナの安全のため、俺の全てを捧げる」
カイルは奥歯を噛みしめ、絞り出すように言った。
「捧げる? オホホホ! 傲慢ね! 貴方の『捧げる』は、『支配』の言い換えでしかないわ。貴方の魂は、リオナを自分の所有物にしたいという汚れたエゴで溢れている。貴方は主を救うための道具でしかないのよ。道具に、『献身』などという生ぬるい感情は不要よ」
ローズは、「汚れたエゴ」という言葉に感情を込め、その波動をカイルの精神に直接突き刺す。カイルは激しい頭痛に襲われ、膝をつきかけた。
「カイル隊長。ローズ様がおっしゃる通り、あなたの波動はまだ不安定です。その不安定さがリオナ様の救出の妨げになります。私情を捨て、作戦遂行というリオナ様への奉仕に集中してください」
シオンは端末から目を離さず、冷静に口を挟んだ。
カイルはその言葉に床を叩きつけたい衝動に駆られた。
「シオン、貴様! そんな口の利き方は許さ――」
ローズは、扇子の柄で、カイルの頭をコツンと叩く。その動きは優雅だが、威圧感が込められており、カイルのプライドに衝撃を与える。
「駄犬は吠えない。シオン副官の指示は、私の指示よ。貴方のその無駄なプライドは、リオナを救出してから、私の前で全て砕きなさい。よろしい?」
カイルは顔を真っ赤にしながら、屈辱に耐えた。
「……承知した。ローズ元神官長。俺は……道具として、リオナのために機能する」
「結構。では、優秀な猟犬。敵の拠点は?」
「場所を特定しました。予想通り、聖護隊が過去に封鎖した、特殊な魔力増幅研究施設の跡地です。リオナ様の波動を強制的に覚醒させ、支配するつもりでしょう。救出までの猶予は長く見て四時間です」
「四時間……私の大切な後継者になんてことを。すぐに突入するわ。カイル、貴方は最速で突撃し、障害を全て破壊しなさい。無駄な戦闘は不要よ。私の許可なく、リオナに触れてもいけないわ」
その言葉にカイルは顔を引き攣らせるが、リオナに会える焦燥が勝る。
「……了解だ!」
その時、拠点の外部から、清浄で力強い『共鳴者』の波動が乱入してきた。ローズは馴染んだ気配に優雅に微笑む。
「あら。崇拝者が来たようね。ユリシーズが来るなら、支援の準備は完璧になるわ」
扉が開き、雪のような白髪の美青年、ユリシーズ・アークライト神殿長が、ローズに熱烈な崇拝を捧げるために姿を現した。
「我が愛しき守り手ローズ様! 私の不甲斐なさのせいで、貴女様をこのような危険な前線に立たせてしまいました……!」
カイルは、新たな強力な『共鳴者』の乱入と、ローズへの献身ぶりに、頭を抱えそうになるのを必死に堪える。
「またS級か……そして、なんだ、この狂信的な献身は……!」
「カイル、これこそがガイドの「献身」なのですよ。――これで、救出チームが完成ですね」
唖然とするカイルを横目にシオンが冷静に現状を告げたのだった。




