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「えーっ! そうたくんのおべんとう、おいしそう!」
「これなあに?」
「たこさんウインナーだよ」
「たこ!? Octopus!?」
「ぼくのママはおりょうりがじょうずなんだよ」
「おれのマミーはおりょうりしない。おてつだいさんがやるもん」
聡太はお友だちに囲まれてお弁当を広げている。
体験入学の子供がすぐ馴染めるようにとの配慮で、聡太ともう一人の体験入学児を中心にしてランチが設定されていた。
庶民の暮らしぶりが珍しいのかあれこれ質問攻めに遭っている聡太。きっかけは何であれ好意的に受け入れられているようでホッとする。
在校児の保護者がいたのは最初だけでランチ前には帰ってしまった。初日の接触はできなかったものの顔だけは何となく覚えたので、私は一式もらった資料から園児名簿を取り出した。
イニシャルにKを含む、または「けいちゃん」と呼び名がつきそうな保護者は三人該当していた。
一人目 町浦敬子
二人目 九条カレン
三人目 亀久保のぞみ
同じ体験入学で来ている「日下部カトリーヌ麻衣」というママもいるが、もともといるわけではないので除外していいだろう。
さっそく一人ひとりと接触して、誰が不倫相手であるのか調べることにする。
◇
「和子さん、すみません。明日からしばらくお休みいただきます」
「綾乃ちゃんが休みを取ってくれて安心したわ。いつまでも使わないからやきもきしてたのよ。羽を伸ばしてきてね」
「ありがとうございます。戻ってきたらバリバリ働きます」
「そんなの気にしないで。夏なんて弁当屋は暇なんだから、あたしの心配は必要ないわ」
有休を消費したいと申し出ると、和子さんは特に理由を聞くこともなく二つ返事でOKしてくれた。
和子さんのお店だから和子さんがいいと言えば問題は無いのだけど、お盆とつなげる形で合計二週間不在にするのはとても申し訳ない。
聡太の体調不良以外で休むなんて初めてのことで、なんだか変な気持ちだ。
「総ちゃん、ウエストブリッジの体験入学に行くんだって?」
「はい」
「頑張ってるわね。はいこれ、試作品の揚げ餃子」
和子さんは手早く餃子を六つ袋に入れて手渡してくれた。
「いいんですか?」
「健一郎君のこともあって大変でしょ。戻ってきたら、味の感想聞かせてね」
餃子の温かさが手のひらに伝わってくる。
言葉にならない勇気をもらった気がした。
◇
九条カレンとの接触はスムーズだった。
数日かけて三人の園時間を把握するなかで、彼女は大体同じ時間に来ていることを把握した。
「あの……英恵ちゃんのお母様ですよね。いきなりごめんなさい。今ちょっと平気ですか?」
「聡太くんのママ? ええ、大丈夫よ。どうしたのかしら?」
カレンはいい匂いのする髪をなびかせて振り返る。私を上から下まで値踏みするように眺めると、くいっとサングラスを持ち上げた。




