守りのない人達
学校に向かう途中、オレと昴の前を、辛そうに歩く人がいた。
猫背になってて、引きずるように足を前に出してる。
「ぅわぁ……」
「凄いね」
思わず声が出てしまったのは、その人の全身に霊がくっついていたから。それもびっしりと。
昴は霊が半透明で見えるけど、オレは生きてる人間と変わらずに見える。取り憑かれた人の性別も分からないくらい、隙間なく憑いてる……。
足を引きずるのもやむなし。足首にもしがみついてる奴いるし。
これ、本人が見える人だったら発狂もんだな……。
「ハクジ、近寄ってもいいか?」
『構わん』
さりげなさを装って、その人の近くに行くと、ハクジが一瞬で霊を消し炭にしてくれた。
スーツ姿のリーマンだった。若い。そして守護霊がいない。
急に体が軽くなったことに驚いて、リーマンは立ち止まって周りを見回してる。オレからしたらあんなに憑けたまま歩けてることのほうが驚きだけど。
何も気にしてないふりで、立ち止まっているリーマンを追い越す。
少し行ってから振り返ると、リーマンは軽い足取りで駅に向かって歩き出した。
良かった。まぁ、また取り憑かれるんだろうけど。
「なぁ、昴」
「兄キが言ってた人達だろうね」
「とりあえずハクジが祓ってくれたけど、あれじゃまた憑くよなぁ」
「うん」
自力で竜女さんの店に行ってくれるといいんだけど。
「例の人達は、竜女さんの店に行ったのかな」
「どうだろう。あれから兄キから連絡きてないから」
昴は胸ポケットから顔だけ出してるレラちゃんを、満足気に撫でている。レラちゃんも気持ちよさそう。
レラちゃんが守護者(霊じゃないもんなぁ)になってから、昴の機嫌がめっちゃ良い。
こういっちゃ悪いけど、バナナの着ぐるみ着たオッサンからレラちゃんじゃ、天と地ほどの差がある。
「そうそう、レラのしっぽが増えるかも」
「しっぽって増えんの!?」
『神成りも果たした。日々そなたのそばで修練しておるからな』
ハクジの言うそなたはオレのこと。
霊ホイホイのオレのそばにいて、悪霊を日々祓ってるからか、レベルアップしてってるようだ。
「悪霊じゃないのも祓ってない?」
『あれ、ふゆーれい』
「浮遊霊?」
「悪霊でもないし、地縛霊でもない、どこかをぼんやり見ながら歩いたり浮いたりしてる霊がいるでしょ。そういった霊を浮遊霊というんだって」
相変わらずオレよりそっち方面に詳しい昴である。
「本来、転生したりなんなりを果たすんだけど、そもそもお迎えにも気付かないままでいると浮遊霊になる。地縛霊に取り込まれたりすると、祓われるまで苦しみ続けるらしいよ」
前にハクジに退治された悪霊を思い出した。
地縛霊と呼ばれるもので、キモくない奴見たことない。
「浮遊霊をレラは浄化することができるんだよね」
昴に話しかけられて、レラちゃんがコクコク頷く。
浄化すると浮遊霊が成仏するってことなんだろうな。
何度も浄化してるの見たことあるし。
レラちゃんの手から出た光に包まれると、浮遊霊は正気を取り戻したみたいな顔をして、手を合わせて消えていく。
成仏、って奴だと思う。
『苦しいの辛い。レラ、助けたい』
レラちゃんは本当に優しい。
レラちゃんの中の子供達も、助けたいって思ってるのかもな。
「悪霊退治もそうだけど、浮遊霊の浄化をするようになったら、しっぽらしきものが生えてきたんだよ」
『その飯綱の本領は、退魔ではない。浄化にある』
なんか分かる。
でもさ、
「なんでしっぽ?」
ハクジはしっぽ増えてないのに。
『狐はな、霊力を尾に蓄える』
「あー、九尾の狐って聞いたことある」
『うむ。狐の最高位だ』
レラちゃんを見ると、胸ポケットから出て、昴の肩までのぼり、自分のお尻を見ようとくるくる回ってる。
可愛い。
「ハクジ達、犬神は霊力が高まるとどうなんの?」
『姿が変わる。我は始めから狼であったが、大きさはもっと小さいものであった』
「あ、そっか。父さんの犬神はフレブルだった」
霊力の強さで犬種が変わるらしい。
「父さんの犬神も、レベルアップしたら変わんの?」
『そなたの父御が往生した後に変わるであろう』
「おー」
フレブルの次ってなんだ?
実家に大集合していた犬達を思い出してみる。
じいちゃんの芝犬とか、どのくらいなんだろ。レベル1ってことはなさそう。
「犬神の最上位が狼なのはなんでなんだ?」
「ウルフドッグっていうのがいてね」
ほら、こういうの、と言って昴がスマホを見せてくれた。
外国人の大人の男よりもデカく、ハスキーをもっときつくというか、キリリとさせた顔をしていた。
なんつーか、目が違う。
毛色はハクジと違くて、茶だった。他の毛色もあるんだろうけど、いつもハクジを見てたからか、勝手に白だと思ってた。
「ぅわ、でっかっ!」
「狼と犬を交配してできた種らしいよ」
「かなりデカいけど、ハクジのほうがデカいな」
ハクジは最終形態だもんな。
さっき見た画像、ウルフドッグ、外国人よりデカかった。でも、画像のウルフドッグよりハクジのほうがデカそう。
乗せてもらえないけど、オレなんか普通に乗れるくらいデカい。
……オレがチビなわけじゃない。標準身長だし! これから成長期だし!
教室に入った瞬間、風船が破裂するような音がした。
あまりに音がデカすぎて、声も出なかった。
音に気付いたのは仲良いメンバー。つまり、見えてる奴ら。
ほとんどのクラスメートは、見えないし聞こえないからか、気付いてない。
「あれ?」
「うーん」
メンバーの一人、守護霊がいない。
これはヤバイのでは?
「助かった、悠里」
守護霊がいなくなってる轟が、疲れた顔で礼を言ってきた。
何がとは聞かない。
「……轟さ、今日暇?」
「ん? あぁ、空いてるけど……」
「ドーナツ食い放題行こーぜ」
「なんで?」
「なんでって……」
なんでと言われてもなー。
おまえに守護霊がいないから、何かあった時のために竜女さんの店に行ったほうがいいなんて言えない。
「行ったほうがいいよ、自衛のために」
昴がそう言った瞬間、いつものメンバー全員が一斉に、「行く!」と言った。
おまえらも行くのかよ……。
あ、そうだ。
ハクジ用のゲンコツも取りに行かないとだった。




