好物は伝染する
一階に降りると、母さんがキッチンに立って料理をしていた。母さんの横には鬼神が立っていて、母さんの手元をじっと見てる。
なんとなく、嬉しそう。料理が好きなのかな、それとも今作ってる料理が好きなのかな。
「母さん、何作ってんの?」
「酸辣湯麺よ」
「母さん、好きだよな、酸辣湯麺」
「大好きよー」
定期的に休日の昼飯に作られる酸辣湯麺。
『鬼神の好物なのだ』
あー、そうなんだ。
守護霊の好きなものが、守られてる側の好物になるの面白いな。
アレ? ハクジの好物って?
「ハクジの好物は?」
『骨だな。そなたには食せまい』
「骨付き肉は好きだけど、骨そのものはなぁ。それにハクジ食えるじゃん」
『そうだ。だからそなたに食べさせようとはしておらん』
なるほど、あの鬼神は酸辣湯麺を食べたくなったから母さんに食べさせようとしてるんだな。
それにしても、ハクジもやっぱり骨好きなんだ。この体に合う骨ってどこで買えばいいんだ??
晴れて昴の守護神?になったレラちゃん。
「どうよ、新生活は」
茶化しながら昴に聞くと、昴は笑顔になった。
「前は好きでも嫌いでもなかったおかかのおにぎりが大好物になったんだよね」
「へー、レラちゃん、おかかのおにぎり好きなんだ」
なんでと聞こうとして、レラちゃんの前世を思い出した。
生まれたことすら届け出てもらえず、不要になったら捨てられそうになった前世。そんな生活の中で、食べて美味しかった記憶のあるおかかのおにぎり。
他にも好物の食べ物は色々あるみたいだけど、おかかのおにぎりが何かの記憶と結びついてるらしかった。
「オレもおかかのおにぎり好き」
「美味しいよね」
「うん」
何気ない味が、誰かにとって特別な味だったりするんだなって思った。
食い物を、美味いか美味くないかでしか見たことなかったのが、ちょっと恥ずかしい。
「母さんの鬼神がさ、酸辣湯麺好きらしくってさ」
「なんかウケるね」
「だろ?」
「そういえば前の守護霊の時はバナナ好きだったなー」
「確かに食ってたな……」
バナナの被り物してて、食べるのも好きとか、どんだけバナナ好きなんだよ……。
「守護霊、レラちゃんになって本当良かったな」
昴はビジュがいいのに、その守護霊がバナナの被り物したオッサンとか、ないよなー。オレは見てないけど。
いや、バナナの被り物が悪いわけじゃないんだけどさ。
「ハクジに骨買ってあげたいんだけど、この体に合う骨って何処で買えんのかな」
「あー……精肉店、とか?」
「精肉店ってどこよ」
「商店街にあった気がする」
「あったかも?」
帰りに寄るぞ!!
いつもと違う行動は、トラブル発生率を格段に上げるということに、今更ながらに気付く。
竜女さんのドーナツ店が十字の商店街の北側に位置するなら、精肉店は西側の端。
そこらへんは八百屋や魚屋などもあるからか、商店街の中でも一番人が集まる場所だった。
つまり、いる!
ただ悪霊っていうよりは、食いしん坊な霊が多い。
そう、食いしん坊が……。
中くらいのおじが精肉店のガラスケースにべたりとへばりついててキモい。
なんたっておじ達は全裸だからさ……。
おじ達が見てるのは生肉じゃなく、揚げたてのコロッケとかメンチカツ。
「メンチカツ食いたい」
「分かる」
思わず母さんにLINEして、夕飯にメンチカツ食べたいから買って帰っていいか聞く。
前に自分だけコンビニのコロッケ食ったとき、自分も食べたかったと三日ぐらい言われ続けた。
買って帰ったら代金くれるし、買ってくのは全然あり!
母さんからのレス待ってる間に店長に声をかける。
「どうした坊主、買い食いか?」
「骨って売ってたりしますか?」
「骨を食うのか!?」
「違います!」
何言ってんだオッサン!
「大型犬にあげるような、大きな骨が欲しいんです」
「今はないけどな、取り寄せならできるぞ。ゲンコツでいいか?」
ゲンコツ?
よく分からんけど、それでいいや。
「それでお願いします」
「はいよ。で、何か他には買ってくかい?」
「えっと」
スマホを見たらちょうど母さんからレスが来てた。
「あ、えーと、コロッケ六個、メンチカツ六個、アジフライ三枚、カニクリームコロッケ六個ください」
頼まれたものをそのまま読みあげた。
これ、明日の弁当のおかずだな。
「はいよ。今から揚げるからちょっと待ってな」
オレが頼み終わった後、昴も食べたくなったらしく、うちと同じようにたっぷり買ってた。
会計を終えて帰ろうとしたら、店長にこっそりコロッケもらった。
「おつかいの駄賃だ」
「ありがとうございます」
こっそりだから小さくお礼を言って、店を出た。
揚げたてコロッケをかじる。サクッといい音がした。
「あつっ!」
味付けされたひきにくが結構入ってるコロッケで、美味い。
「うま!」
「揚げ物は揚げたてが一番美味しいよね」
「なー」
ひとかけもらったのか、レラちゃんが昴の肩の上で美味しそうにコロッケを食べてる。
……オレ、ハクジにあげずに食べきっちゃった。
「ちょっともう一個買ってくる」
店に戻ってコロッケをもう一個買ったら、店長が笑ってた。
食いしん坊と思われたな、これは。
店を出て、人の目があまりないところでハクジにコロッケをあげる。
ザクッと良い音はしたものの、ひと口で食べられてしまった。狼だからさ、人間用のコロッケなんてペロリなのはわかるんだけどさ。
「ハクジ、美味かった?」
『悪くない』
揚げたての美味さはハクジにも伝わったもよう。
ゲンコツは四日後に届くらしい。
楽しみ。
ゲンコツをかじってるハクジの写真撮りたいのになー。写んないんだもんなぁ。残念。
「あ、昴、八百屋も寄りたい」
「八百屋? いいよ」
「キャベツとトマトも買ってこいって」
「なるほどね」
精肉店の斜め向かいの八百屋に行く。
えー、キャベツとかどれがいいのか分からん。
昴がキャベツを一つずつ手に取って、重さを比べてる。
「うーん、こっちかな」
「え、何が違うの?」
「重さで、中の詰まり具合を予測する」
「詰まり?」
「大きくても中がスカスカだと軽いんだよ」
「主婦か?」
昴は主婦じゃないけど、自炊してるからな。
オレも昴の真似してキャベツを持ってみる。
何故か主婦らしき人達に話しかけられて、トマトの見分け方とか、他の野菜の見分け方を伝授され、予定になかったブロッコリーまで買ってしまった。




