金色の虎
春樹兄の守護霊は、金色の虎だった。
オレの視線に気付いたのか、春樹兄が笑う。
「やっとオレのラブリー猫ちゃんが見えるようになったか」
「猫っていうか虎だよね?」
「悠里の力は不思議だな。昴はおばさんの鬼神見えてたんだろ?」
オレの虎発言を春樹兄はまるっと無視した。
なんでよ。
「うん」
「たしかに」
皆の視線がハクジに集まる。
『我ではない。母御の守護者がそなたに見せないようにしておっただけだ』
「え、なんで」
『怖がりだからだろう』
確かに、幽霊やら悪霊やらが見えるようになって、鬼が母親に憑いてるのが見えたら叫んでたかも。
「否定できない」
春樹兄と昴が笑う。
くそー、なんで皆平気なんだよー!
「オレ達はさ、物心ついた時から見えてるわけ。年季が違うんだよ」
ドヤ顔の春樹兄。
そうだった。
オレは十四になってからだから、十年以上の差があるんだな。
『犬神の』
春樹兄の守護虎がしゃべった。
虎がしゃべった!
『守護者を見繕わねばならん』
虎の視線の先には昴。
『そのことだが、飯綱がよかろう』
レラちゃんがピッと姿勢を正して、自分を指差す。
ハクジが頷く。
『これも縁であろうからな』
『ふぅむ』
虎はちょっと迷っているみたいだった。
なんか、虎が決めてるみたいに見えるんだけど?
「檜山家の後継にはラブリー猫ちゃんが憑くんだよ。オレが生まれるまでは親父に憑いてたんだよなー」
えー、うち以外にもそういうのって結構あるんだな。母さんの守護霊も鬼神だし。竜女さんの時にも思ったけど、世の中結構不思議がいっぱいだなぁ。
『そこな飯綱』
虎に話しかけられてビビってるレラちゃんは、昴の耳に掴まってる。可愛い。
『その者の守護者となる意思はあるか?』
レラちゃんは昴と虎を交互に見る。
『ご主人の守護者、なりたい。なったら何か、変わりますか?』
『魂を深く結びつけるのならば、そこな犬神のように、転生するたびに守護者になることになるだろう』
『なるます!』
即答だった。
昴が感動してレラちゃんをぎゅーっと抱きしめてる。
分かるー! その気持ち分かるよ、昴ー!!
『ならばよし。そなたはこれよりその者の守護者となる』
虎は身震いすると、空に向かって吠えた。
虎の口から金色の光が天井を突き抜けていって、レラちゃんと昴の周りを金色の光が包んだ。
昴の手の上でぴょんぴょん跳ねた。
……お? 昴とレラちゃんの間に光の鎖みたいなものが見えるぞ?
『レラ、ご主人と繋がった! ずっとずっと、一緒!』
「レラーっ」
レラちゃんはぴょんと跳ねて昴の肩に乗ると、昴に頬擦りした。
いいなぁー。オレもハクジに頬擦りとかされてみたいなー。
ちらとハクジを見たら目を逸らされた。酷い。あとでオレから頬擦りしてやる。
一連のやりとりを見ていて気付いた。
春樹兄が来たのって、このためか?
でもオレやハクジがいる必要あったか?
「これで昴の守護霊問題は解決かなー。安心安心」
「春樹兄、このために来たのか?」
「厳密に言うと違うんだが、まぁ、そういうことになるか」
含みのある言い方に嫌な予感がする。
「最近守護霊を引き剥がされるという謎の事件が頻発しててさぁ」
守護霊を引き剥がす!?
「守護霊がいなくなるとどうなんの?」
昴もいない時期があったみたいだけど、ハクジがいたのと、レラちゃんがいたから問題なかったみたいなことを言ってたな。
「簡単にいうと、免疫力皆無になるから、悪霊に体を乗っ取られたりする」
「マジ!!」
取り憑かれるどころじゃないじゃん!
「今回昴は守護霊としてレラちゃんがついたけど、普通の人はどうなの? 引き剥がされた場合ってすぐに来てくれんの?」
そうじゃないんだろうなーと思いながら尋ねる。
「犬上家ぐらいだろうな、問題ないの」
金色の虎を連れてる春樹兄が言う。
「でも春樹兄の守護霊?強そうじゃん」
「ラブリー猫ちゃんに守られてるオレは平気だけど、昴はそうじゃないからさ」
後継だけは守られるってことかぁ。
昴のところにレラちゃんが来てくれてほんとよかったよ。
「悪霊を祓っても、守護霊がいない状態に変わりない。何度でも取り憑かれちゃうわけ。悪霊に取り憑かれた人間による凶悪犯罪が多発してさ、困ってるんだよ」
「誰かが守護霊を引き剥がして、悪霊に取り憑かせて、犯罪行為をさせる。犯罪者の傾向も不明。対策のしようがない、ってこと?」
昴の言葉に春樹兄がうんうんと頷く。
ふと、竜女さんの言葉を思い出す。
「あ」
「どした?」
「竜女さんがさ」
「竜女さん?」
「あー、えっと、商店街にできたドーナツ食べ放題の店の店長のことなんだけど」
「ほうほう、その竜女さんが何だって?」
「自分の力が必要になったら来いって言われた」
竜女さんが言ってた相談とは違うかもしれないけども、なんとなく相談したほうがいい気がした。
『竜女とな』
ラブリー猫ちゃんこと、金色の虎の目が光る。
『竜神の加護を受けた、まことの竜女よ』
ハクジが答える。
『その竜女、どうなつ屋では何をしておるのだ』
『穢れた者を店で雇い、清めておったわ』
『春樹よ』
「あいよ」
『守護者を失った者達をその店に遣わすことは可能か?』
虎の質問に春樹兄は眉間に皺を寄せる。
「難しいだろうな。操られていたとはいえ、犯罪を犯して勾留されているからなぁ」
「ドーナツ……」
「ドーナツを食べさせればいいんじゃない?」
尻切れトンボになったオレの言葉を昴が補足してくれた。
『あの菓子ならば効果があろう』
「マジで!? 助かるわー!」
言うなり、春樹兄はスマホを取り出して電話をかけ始めた。
「あのドーナツ、そんな効果があんの?」
『竜女を通して竜神の気も込められておる。穢れが祓われるだけではない。あの力があれば守護者の問題は解決しよう』
ハクジの言葉に虎が頷いた。
『春樹、我はその菓子を所望する。竜神の気が込められた菓子など、なかなか食えぬぞ』
「ラブリー猫ちゃんが食べたいなら買ってくるかー」
……春樹兄、頑なに猫にこだわるな。
昴を見る。
「猫、飼いたかったんだけど、母さんが猫アレルギーなんだよ」
なるほど。
猫ってことにしたいんだ。




