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犬上家と愉快なオトモタチ  作者: 黛ちまた
神成り様の武者修行

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22/23

神でも人でもないヒト

 ルカの奢りでドーナツ食べ放題。

 いや、そんなに食べないけどね。また太っちゃうから。それにしても美味しいな。


「なによ、覚悟してたんだからもっと食べなさいよ」

「いやいや、もう満腹だから」


 ルカは止まることなくぱくぱくとドーナツを食べていく。見てるだけで満腹。


「気付いてる?」

「え?」


 なにが?


「店員がずっとこっちを見てんのよ」

「ルカが食べすぎだからじゃない?」

「ドーナツ食べ放題の店で?」


 確かにそうだ。

 ルカの視線の先の店員さん。確かにこっちを見てる。

 っていうより、ハクジを見てる。もしかして見える人?


「見える人なのかな」

「……あの店員、もう人じゃないわ」

「え?」

「神でもないけど」

「どういうこと?」


 昴がドーナツをちぎってレラちゃんにあげる。


『霊体だ。この空間でのみ実体化しておるのだろう』

「そんなことできんの?」

「条件を整えれば可能よ。ただそこまでしてドーナツ食べ放題の店を構える理由が分からないわね」


 この店のメニューはドーナツしかない。

 味の種類は色々あるけど、全部ドーナツ。


『その輪の菓子もただの菓子ではない』

「……食べて平気?」


 いや、もう散々食べちゃったんだけどさ。


『問題ない』


 問題ないと分かって安心したけど、ふと気が付いた。

 二つ隣の席に座ってる人、肩に悪霊が乗ってる……。倒してあげたほうがいいんだろうか?


 さっきの店員がドーナツののった皿を悪霊付きの客の前に置く。疲れきった顔の客がドーナツを口にする。

 ひと口、ふた口、と食べていくうちに、肩に乗っていた悪霊がブルブルと震え出し、客から離れてこっちに逃げて来て、ハクジに消し炭にされた。


「今の奴、逃げて来なかった?」

『取り憑いた対象が気を取り戻したからな』

「ドーナツ食べて回復したとか?」

『そうだ』


 カロリーがあるものを食べたから?


「このドーナツ、ただの菓子じゃないって言ってたね」


 昴の言葉にカロリーが問題なんじゃないと分かった。全然分かってなくてスミマセン。


『この菓子は気を取り戻す力を備えている』

「そうね。あんた達も食べて体が楽になったんじゃない?」


 言われてみれば……?

 満腹になったからだと思ってたけど、そういうことじゃなかったっぽい?

 ハクジにドーナツをそっと差し出すと、パクリとひと口で食べた。次を催促されたのでまたドーナツをあげる。心なし嬉しそうに見える。


「何かあったらここのドーナツを食べるのは良いと思うわよ」

「そうする」


 気力を取り戻す謎ドーナツ。

 ハクジとルカがここまで言うし、安心して食べられるのはありがたい。

 それにふわふわして美味かった。食べ放題を満喫できるほど食えなかったけど。


 視線に気付いて顔を上げると、店員がカウンターからハクジを見てた。


「あの人? 単純に犬好きなんじゃない?」

『我は犬ではない』

「ハクジは狼なのに、なんでうちって犬上家なんだろ?」

「大神なんて苗字、なかなか名乗れないわよ。それに点がついただけよ」


 ほんとだ!!




 帰り道。

 ルカと別れて昴達と家に向かう。


『ドーナツ美味しかった』


 レラちゃんが店で食べたドーナツを思い出したのか、言った。

 食べてる姿可愛いかったなー!

 

「沢山食べてたね。気に入った?」

『うん』

「また行こうか」

『うん!』

『あれはまた食べてやっても良い』


 レラちゃんだけでなくハクジも気に入ったもよう。

 店員が霊体っていうのがちょっと微妙だけど、害がないならいいかなと思ってしまうあたり、慣れてきてる自分。成長を感じる!

 神二柱が無害だって言うなら無害でしょう。

 あと、なんか体軽いかも。


「あのドーナツ店なんだったんだろうな」

『さてな。だが主はあの店から出られぬからな、問題あるまい。それにあの商店街は作り的に彼奴等が集まりやすい。あの店があるだけで助かろう』

「そうなの?」

「取り憑かれていた人、気力を取り戻していたもんね」


 あの商店街で前にルカが地縛霊払ってたもんな。

 ドーナツ店のすぐ隣の道、袋小路になってるし、風が抜けないから夏とかむわりとした空気で気持ち悪いのに、薄寒い。


「よく分かんないけど、オレもあの店は悪いものに思えないな。犬好きの霊体が今も成仏せずにドーナツ食べ放題店やってて、それのお陰で助かる人もいたし」


 悪霊が逃げたくなるほど気力を取り戻すのは良いとして。


「逃げた悪霊はどこに行くのかな?」

「あの店長が倒してたりね」

『そうであろうな。あの場を支配しているのはあの店の主だ』


 悪霊を倒してくれるなら、良い人なのかな。

 成仏しないのかな。


「あの店長も、オレと同じとか?」

『いや、神成りはしておらん』


 そんなにあちこちに神成りした人がいるわけないか。


『ただ、役目を終えた存在であることは間違いない』


 役目?

 人は生まれながらに役割があるとかって奴?


『全ての人間が役目を負っているわけではない。ただ、竜女には役目を持って生まれた者が多いな』

「竜女?」


 家の前まで着いたからこれで解散なんだけど、話の内容が気になるのか、昴が立ち止まって聞いてる。


『一族を終わらせる役目を持つのは竜女だ』

「一族を終わらせる?」

『役割を持つ一族というものが存在する。その役目が終わる時、竜女が生まれ、血をそこで止めるのだ』


 血を止める?


「それは悪いことじゃないんだよな?」

『無論だ』

「役目を終えた人達ってどうなんの? 転生すんの?」

『人によるな』

「あの店長さんは?」

『……もう転生しないであろうな』


 転生って選べんの? あ、転生したくないからあの店をやってるとか?


『時折おるのだ。輪廻を己が意思で制御できる者が』

「ふーん?」

『あの店は我等にとって悪しき場所ではない。構わずに使えば良かろう』

「分かった」


 とりあえず今は気にしなくてよさそうかな?

 昴も同じ結論に達したのか、頷いてから、「また明日」と言って家に入って行った。

 オレも家に入って、母さんにドーナツのお土産を渡す。

 父さんの犬神、しろあんがドーナツに反応して短いしっぽをぶんぶん振ってる。珍しい。


「おー、しろあんも食べるか? ハクジも気に入ったドーナツだぞ」

「お、そうなのか?」


 オレと父さんは犬神が見えるけど、母さんは見えない。

 でもドーナツをハクジやしろあんが食べると、目の前で消えるから、それで犬神の存在を感じるらしい。


「そのドーナツを食べたら私も犬神が見えるようにならないかしら〜」

「見えないほうがいいぞ」

「見えないほうがいいから!」


 父さんとオレに同時に止められて、不満そうな母さん。

 知らないからだよ……。


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