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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/30 ゆえに彼女は、立ち止まらない


『お嬢様! 無事共和国に入ったぜ! ……いつも思うけど、なんで共和国って、バーサンが元気なんだろうな……』

「マンダ。無事で何よりよ。行動は、慎重にね。頼んだわ。……そして、共和国に限らず女性は年齢を重ねて魅力を増しているのよ。それだけよ」


 国王様との密談から数週間がたったころ、自邸の執務室で仕事にいそしむ私に本日の『定期連絡』が入った。私の手元にあるのは四角いフォルムの小さな魔道具――『無線機』である。


 まあ、その機能は察している通り、遠距離の通話を可能にするものだ。今回、各国に『影』の皆を派遣するにあたって、スムーズな報連相・指示・連携などのために彼女たちにはこの魔道具を渡している。……まあ、エルには「え? 何してんの? 何してんの?」というすさまじく呆れた目線を向けられはしたが、有用なものは活用すべきである。販売しているわけではないのだから許される範囲だ。


 ――エルがなぜこの無線機にそんなに目くじらを立てるのかといえば、かつて……そう、魔道具の小型化・魔力補充の理論が確立されたころに私が思い立って無線機を開発した時。初披露した際にあまりの性能に世界に混乱を招いて犯罪を助長しかねないと判断されて開発中止を言い渡された代物であるからだ。


 まあ、わからないでもない。実はこの魔道具の原理としては電波の代わりに空気中の魔素を伝って音声などを伝達するのだが、魔素があればいつでもどこでも通話可能なのだ。防音結界などもあるが、あれも結局は魔素によって構成されているわけで……つまり、悪い人の手に渡った時に盗聴器代わりに情報盗り放題になる可能性があるよね! ってことでジルファイストップがかかったのである。エルはそのことを懸念して苦言を呈してきたが……うちの使用人さんたちが使う分には、彼女らの私たちへの忠誠心と有能さは折り紙付きなので大丈夫だと思う。


 というか、そもそも『無線機』についてあそこまでジルやエルが過剰反応したのは、その性能のいかれ具合もあるだろうが、この世界が魔術を中心で動く世界であるがゆえにこれまでにない発想だったから、というのがあるだろう。


 私は日本人だったころに携帯電話の利便性をよくよく理解していたため、割とすぐに構想を思いついたが、『遠隔地との通話できる魔道具』という発想自体この世界では画期的だったようだ。転移も念話も魔術によって可能な世界だ。それを魔道具で、という考えになかなか至らなかったのだろう。


 ただ、転移にも念話にも制限はあるのだからなぜそこで発展をやめたのだろうな、と私としては思うけれど。例えば転移も念話も無属性魔術の一種なので使えない人は全く使えないものだ。そのうえ、個人で転移が行えるものはほぼいない。ゆえに大抵は転移門を使う。最近はわが商会の個人間転移魔道具も普及してきたけれど。念話においても、個々人の魔力の大きさによって通信可能な範囲が限られるし、普通の人間では町ひとつカバーできれば優秀な方だろう。それに結界で遮ることも可能な魔術でもある。


 しかしここで私の開発した無線機はというと、大陸の反対側の国にいようが、結界があろうが、魔素さえあれば通話可能な代物であった。そもそも魔道具であるがゆえに、使用者が魔力を持っている必要すらない。これには顔をひきつらせたジルが「はは、戦争を起こしたいのですか? 封印してくださいね、シャロン」と間髪入れずに提言してきた。まあ私もうすうすわかってたので素直にしたがったけれど。


 ……ジルも無線機の発想や便利さには心ひかれてはいたみたいだけどね。「仲間内ならいいでしょう」と言って『エイヴァ係』の人数分しっかり用意させたのは誰あろう、ジルである。なお、『エイヴァ係』とは基本、私・エル・ジルの三人なのだが、エイヴァを弟のようにかわいがってのほほんと甘やかしつつ面倒を見るラルファイス殿下とリーナ様も地味に準会員みたいな扱いだったりする。よってこの五人に無線機は支給された。


 特にリーナ様は無属性魔術を使用できない方なので、エイヴァのことをお任せしたり回収に赴いたり、その奇行の報告会をするためなどに現在も絶賛活用中だ。導入されたのはちょうど二年ほど前、あのいろいろあった女子会・男子会が終わった後ぐらいだったろうか。いつものようにおっとり笑いながらも、リーナ様が嬉しそうに無線機を受け取ったことを覚えている。念話を使用できないことをそれなりに気にしていらっしゃったようである。かわいい。


 ともかく、そうして導入された無線機によってエイヴァの捜索・捕獲から教育までの流れが一段とスムーズになった。まあ、私・エル・ジルは個々人でエイヴァに説教や対処もなれたものなので、主にラルファイス殿下やリーナ様からの連絡が多い気がする。「エイヴァが城の厨房を荒らしてしまったのだけど……」「あらまあ、エイヴァさんがおなかいっぱいで眠ってしまって……学院長様の頭部について寝言をおっしゃっているのですけれど」「すみません、今すぐ回収して調教いたしますわね」などというやり取りが日常的に行われている。あるいは、「シャロン。エイヴァがまたしてもやらかしましたので、本日は私が徹底的に指導して差し上げようかと思っているのですが」「頼みましたわ。手加減は必要ございませんよ」などというジルとのやり取りもそこそこ頻繁に行われるけど。


 とにもかくにも、無線機は一応『エイヴァ係』の五人限定で運用されていたのだけれども、今回の事態に当たって私が量産してマンダたちに持たせたのである。苦言を呈したエルも、我らが使用人さんたちへの信頼は非常に高いため、最終的には「まあ、確かにそれが効率いいよね」とあっさりしたものだった。


 そうした報告によるとマンダは共和国に入国完了、ルフはとっくにヴァルキア帝国に潜入しているし、ディーネはあと数日で船がアイヴィース国に寄港するらしい。西の聖国にむかったノーミーはまだ時間がかかりそうだが、旅路は順調とのことである。


 まあ、彼女たちの優秀さは折り紙付きなのでよほどのことがなければ問題なく任務を完了してくれるだろう。なので、私は私で、メイソード王国内にてできることをやらねばならない。とりあえずは明日――私の友人たちと、小夏との顔合わせの茶会が目前に迫っていた。













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