8/31 高嶺の花組
小夏は言った。
「大丈夫ですよ! イケメンにだけ気を付けますね! あたし、イケメン耐性はあんまりないですけど、美女耐性ならそこそこあるんで!」
迫る私の友人たちとの顔合わせに備えて、「美女!」とその場で叫ばないように忠告をしに行った私に、彼女がはなった返答である。
――ランスリー邸に滞在するにあたって、というよりも私やエルとかかわるにあたって、どうしても私の友人たちと顔を合わせる機会というのはやってくる。また、彼・彼女たちはそれぞれに秀でた能力を持ち、かつ信頼のおける有力貴族がほとんどである。万が一の避難先や頼る場所として早めに交友を持っていてもらいたいと、私もエルも同意見であったし、ジルを通して国王様達にも了承を得ている。
だが彼らはやはりその能力や家の事情、学業・公務などもあって多忙であるために予定のすり合わせに数週間という時間がかかり、年末の差し迫った本日、ほとんどの仕事を終えてあとは雪祭りを全力で楽しめばいいという状況になるまで機会がなかったのだけれど。
とにもかくにも、ようやく実現する顔合わせであるが、いかんせん遺伝子に恵まれた美男美女の集まりであるがゆえに、謁見の場で国王様その人と面と向かって「美形!」と叫んだ実績を誇っている小夏に同じ誤爆をしないようにとくぎを刺すのは当然であるといえよう。まあ、そんな釘さしに帰ってきた答えが冒頭の言葉なわけではあるが……そこまで言い切るには理由があるのだろうと思い、聞いてみたところ。
「あたし、刈宮様を敬愛してますし! 杉原様の大ファンでもありますし! 日本屈指の美女二人のご尊顔を毎日毎日写真で拝んでたんで、美女なら美男子よりは大丈夫ですよ!」
すごい笑顔でそんな補足もしてくれた小夏であった。いや、確かに『刈宮鮮花』も、我が悪友・斗海もまれにみる美女だったけれど、その理由にいろいろ突っ込みたかったのは私だけではないだろう。
「……拝まなくて、いいのよ……。むしろ、拝むものでは、ないと思うわよ……?」
「シャーロット様! そんな! 女神から崇拝の禁止令が出るなんて……あたしのライフワークが……生き甲斐が……ああでも、女神さまの言うことでしたら……でもでも!」
絶望からの恍惚からの身もだえという百面相を披露しつつ、しかし小夏は最終的に『刈宮鮮花』の崇拝をやめることはなかったようだ。
「あたしの心身は刈宮様とシャーロット様への崇拝で構成されているんですよ」
と真顔で言われた私の気持ちがわかるだろうか。
……まあ、それはもうおいておくとして。今回、顔合わせに参加するのは、私とエルはもちろん、ジルとドレーク卿、リーナ様にシア様、リズ様にアーノルド様、そしてエイヴァである。
ジルは既に対面を済ませているが、国王との謁見の場にはドレーク卿は同席していなかったため、今回はジルの護衛として同席しつつ、小夏と顔合わせをする予定だ。リーナ様やシア様は年齢も近くいい相談相手になるだろうし、家庭教師でもあるリズ様はアーノルド様の紹介もあって同席予定だ。
なお、いかにジルの婚約者の立場であるとはいえ、現時点ではまだヴァルキア帝国第一皇女であるシルゥ様とその専属護衛騎士ソレイラは今回の参加は難しかったので、この場には不在である。
一方でエイヴァが堂々と参加しているのは、どうすべきか私たちの間で話し合った結果、偶然顔を合わせてしまうよりはきちんと紹介した方がまだましという結論に至ったためだ。イケメン耐性が乏しい小夏にとって、エイヴァという見た目も中身も規格外な人外が一番ネックかもしれない。……まあ、『美形!』と彼女が叫んだときは叫んだときだろう。私の友人たちならば多分笑って流してくれるはずだ。
ちなみに、そんな私の友人たちのほとんど……私・エル・ジル・エイヴァ・ラルファイス殿下・リーナ様・リズ様・シルゥ様・ソレイラ・シア様の十人は、学院内でまとめて『高嶺の花組』と呼ばれていたりする。例えば私だと、『高嶺の花組の黒薔薇の君のお通りよ!』などと呼ばれたりする。ここにアーノルド様とドレーク卿が含まれないのは彼らが学生ではないからだろう。
……いや、まあ確かに私含め友人たちは顔面偏差値とあらゆる実力の備わった、大分おかしな集団に成り果てている気もするけれど、だからってそのまとめ方はどうなのだろう。しかもウルジア王立騎士学院生徒であるシア様まで巻き込まれているというこの事実。まあ彼女は暇を見つけては魔術学院に通ってエルと交友を深めたりソレイラや私と手合わせしたりとアグレッシブなのだけれども。
なお、学院生の皆は『高嶺の花組』大集合を見るのが一番アガるらしいが、ペアでの鑑賞も好んでいるらしい。特に私とシルゥ様のペアとエルとジルのペアが人気だとか。……うちの使用人さん調べなので、事実だろう。うちの学院は変態教師の影響だけでなく、年々方向性を見失っていると思う。
……話がそれた。そんなこんなで『高嶺の花組』のわが友人たちがランスリー邸にやってきて、小夏と対面を果たすのが、本日なのである。というか、すでに現在目の前にしている扉の向こう側に、友人たちはそろい踏みだ。エルがもてなしている間に私が小夏を迎えに行き、今ここである。
「小夏。準備はいいわね? この部屋に入れば、いるのは顔面偏差値異常集団よ」
「はい! 毎日毎日シャーロット様とエルシオ様、セルバート様にメリィさん、エリザベス先生に時々ジルファイス殿下にお会いしているので少し耐性がついた気がしています! どれだけその美麗さに圧倒されても『美女』『美形』とは叫びません! 長峰小夏、がんばります!」
小夏はびしりと敬礼をした。その幼げな顔は緊張に彩られていたが、覚悟は決まっているようだ。私たちはうなずきあい、いざ――入室をした……!




