8/28 適材適所(エルシオ視点)
ヴァルキア帝国、聖リュゼラーガ国、エイディワム共和国、そしてアイヴィース国を現在代表とする北の連合。探りを入れる大まかな場所が決まったところで、次は担当者などを決めなくてはならない。
「――いま、ルフ達には大きな仕事は任せていなかったわね?」
シャロンが確認すれば、『影』代表であるメリィがうなずく。
「はい。『表』の仕事のほか、シャロンお嬢様とエル坊ちゃまの警護といった通常業務のみでございます」
「わかったわ。――エル、私は今回の仕事、危険性からいってもルフ達に任せるべきと思うけれど、どうかしら?」
シャロンの言葉に、ルフさんたちがぐっと顔を引き締めたのが見える。僕は彼女たち一人一人の顔をしっかり見て、返した。
「……そうだね。こちらの守りはアリィとメリィがいるし、正規の私兵ももちろん常駐している。……出し惜しみをしている場合じゃないしね。ルフさんたちに行ってもらうのが最もいいと思う」
僕の言葉にシャロン、そしてアリィとメリィはうなずき、ルフさんたち四人はさっと敬礼した。
「「「「はっ。かしこまりました!」」」」
一糸乱れぬ礼と返答。貴族家所属の諜報部隊はこんなにも軍隊じみているのが普通なのだろうか。訓練されている、としみじみ思った。
「配置は……マンダは共和国に行ってもらうのがいいでしょうね」
「そうだね、それが一番目立たないだろうし」
軽く腕を組んで言ったシャロンに僕も同意を返す。マンダさんは礼をしたまま返答する。彼女のやや癖の強い赤髪が揺れた。
「はっ。承りました」
――彼女の配置は必然だろう。この世界では、出身で大体髪の色が分かれているから。例えばメイソード王国やヴァルキア帝国といった東の国々では明るい色の髪が多い。金髪、銀髪、茶髪といったように。同様に北では紫、西では緑の髪色がよくみられる。そして南は赤髪の人がとても多いのだ。別にそれ以外がいないというわけではないが、やはり赤髪=南方の国出身という認識が強い。
ちなみにピンクブラウンの髪を持つシルヴィナ皇女殿下は、実はそのお母君……現在の皇妃様が南方の国の姫君であり、鮮やかなパールピンクの御髪をお持ちであるため、その色を半分受け継いでいるらしい。
よっておそらくは、燃える様な赤髪であるマンダさんも、鮮やかな緋髪を持つドレーク男爵家も、そのルーツは南にあるのだろうと思われる。だからマンダさんに南の共和国に行ってもらうのが最も目立たないのだ。
……なお、そんな風に様々な髪色があって、それぞれ移住などもしないわけではないからその地域でなければそれぞれの髪色の人間が生まれない、というわけではないが、それでもシャロンの持つ黒髪というのは本当に珍しい。暗い紫や、濃い緑、濃い茶色なんかの限りなく黒に近い色ならいなくはないのだが、シャロンのように混じりけのない漆黒の髪はほかに見たことがない。……まあ、それを言えば、高齢者のそれとは根本から輝きの異なるエイヴァ君の白髪も他では見たことがないけれど……まあ、彼は最古の『魔』なので人の枠に当てはめることが間違っている。
……ともかく。
「うん、マンダさん、頼んだよ。それで、そのほかの国だけど、……魔術の相性なんかも考えると、ヴァルキアはルフさん、聖国はノーミーさん、北の連合はディーネさんかな」
僕は考えながらも彼女たちに告げる。――マンダさん以外の三人は、ルフさんは茶髪、ノーミーさんとディーネさんは双子で同じ黄色い髪という東でよくみられる色だ。そのため、最も情報収集能力にたける風の魔術使いであるルフさんは国土が広く武力も高いヴァルキアへ。内陸国の聖国には土の魔術使いであるノーミーさん。海洋国家連合である北へは水の魔術使いであるディーネさんに託すことにしたのだ。
「「「おまかせください!」」」
よどみない回答は三人そろって返ってきた。シャロンにも目を向ければ大きくうなずく。
「そうね。部下もそれぞれ連れていくのでしょうから、変装や工作は怠らないようにね」
シャロンのほほえみにルフさんたちはもちろんとばかりにしっかりと礼を返した。――けれど、次のシャロンの言葉に、室内には動揺が走る。
「――では、『影』でうちに残ってもらうのはメリィとアリィになるけれど……メリィ、あなたはコナツの守護を任せるわよ」




