8/27 南の共和国と北の連合(エルシオ視点)
――数日前、王都・ランスリー邸。その一室には僕とシャロンはもちろん、『影』筆頭双璧アリィとメリィ、それから『影』精鋭のルフさん・マンダさん・ディーネさん・ノーミーさんが集まっていた。
「――やはり大国の動きが、早いようですわね。陛下とも後日情報のすり合わせをするけれど……先に我が家の方針を、決めておきましょう」
コナツさんがこちらの世界に迷い込んでから数日。エイヴァ君が盛大にやらかしたおかげで光の速さで情報が駆け巡っている現状、それぞれに情報網を持っている国々は、早くも動きだしている。そんな中、メイソード王国の『盾』であり『矛』でもある筆頭公爵家・ランスリー家としてもじっとしている場合ではない。コナツさんの安全を確保することはもちろん、あらゆる危険は事前に排除すべきなのだ。そのためには情報が不可欠である。
「西の聖リュゼラーガ国と隣国ヴァルキア帝国は必須だよね」
僕がそう切り出せば、シャロンも頷く。
「そうね。コナツのことに強く関心を示しそうな国はその二国だわ。そのほかの国々は、『異世界人』の利益も不利益も判明していない現時点で、かつ滞在国が『森の番人』メイソード王国、しかも『ランスリー』に守られているとくれば軽々しく手は出してこないでしょう。……けれど、やっぱりもう二つ、気になる国があるのよね。エルはどうかしら?」
「うん、僕もちょっと、気になるところがあるよ」
「――察しが悪く申し訳ございません。シャロンお嬢様とエル坊ちゃまが気になっている国、とは……北と南の大国でしょうか?」
地図を広げてながらうなずきあう僕らに、メリィが尋ねた。なお、こういった会議においては参加者は意見や問題提起をどんどんするように僕もシャロンもお願いしている。
「北の連合と南の共和国ですか? 我が国との関係性からしても、『異世界人』に関しては未だ静観の構えなのでは……?」
ルフさんも考え、首をかしげる。シャロンを見れば頷いてくれたので、僕はみんなに向き直って僕らの考えを口にした。
「うん、直接的に『異世界人』であるコナツさんには関係しないんだけど……以前から調べてもらってる、違法薬物・イーゼアの件が関係してくるんだよ」
――『イーゼア』。その名称を耳にした途端、『影』の皆の表情が若干険しくなった。それもそうだろう、裏から表から、その薬物の販売ルートや作成元、そして未だ禁断症状に苦しませられている被害者たちを救う方法を見つけ出すために『影』のみんなにはずいぶんと動いてもらっている。その中で悲惨な末路を迎えた被害者たちも、少なくない数眼にしているのだ。
「調査の結果、『イーゼア』の元となった植物が判明したでしょう?」
僕の言葉に、こくり、とうなずいたのはマンダさんだ。それを見つけてきたのは、彼女だったなと思い返す。
――それは、もともとは何の変哲もない雑草に近いものだった。くるくると螺旋を描くような細い葉っぱが特徴で、『つむじ草』と呼ばれるものだ。普通に地上に生えている分には何の効果もない。けれど清流の中で育ったつむじ草を煎じると、魔力の循環をほんの少し助ける魔法薬ができる。魔力の扱いが苦手な子供が服用することもあるが、乾燥したものをすりつぶして煮出すだけの簡単な製法で、ある程度慣れれば庶民が自分で作れる。たとえうまく薬効が出なくても毒性も何もない、そんな草。……けれど、違法薬物『イーゼア』は、それを魔物の血を与えて育てて煎じることで作成されていることが分かった。
「そうか、たしか、イーゼアの原料・つむじ草はもともと南の地域で生える草……」
マンダさんが苦くこぼす。
「うん。清流の中で育つ場合は割と地域に関係なく成長するけど、地上では南の暖かい気候の中で育つ植物だよね。……南の大国エイディワム共和国で、特によく見られる草だ。イーゼアの効能は魔力の増幅も含んでいる。……そこから『魔力』を『神様の恩恵』ととらえる青教、ひいては聖国とが、絡んでいるようなんだ。その線から共和国にも探りを入れてほしい。……イーゼアの中和剤作成の手がかりも探したい」
「では、北も……?」
僕の説明にみんながうなずいてくれた後、アリィがうかがうように口を開く。それに僕は肯定を返した。
「うん。こっちはイーゼアそのものっていうよりも、シャロンが中心になって研究していた魔術陣の起源なんだけど……」
そうしてシャロンを見れば、彼女はどこからともなく古い書物を取り出して、テーブルの中心に置いた。
「――この書物に記載されている古代の魔術陣は、人の魔力量を増幅させ、やがて狂わせるものよ。その魔術陣の形成にはやはり魔物の血液が使用されていて……イーゼアと作成過程も効能も似ているの。関係がないとは思えないわ。……この魔術陣、原理としては陣の内側の『魔素』を籠らせ、増幅するようなのだけど……陣をさらに解体したり簡略化してみたりしたところ、原点は『熱を籠らせて増幅する』つまり寒さ対策の陣のようなのよ。北から取り寄せた古代の書物にも関連性が見られたわ。――つまり、この魔力増幅の魔術陣の発祥は北に手掛かりがあるの。これもやっぱりイーゼアとのかかわりも含め、現地で確認してほしいのよ」
シャロンがいい、周囲を見渡す。直接的には、南の共和国も北の連合もコナツさんにすぐにかかわっては来ないだろう。けれど『イーゼア』を通して青教との関連性が見える以上、両国が聖国と結託しないとも限らない。動向を把握しておくに越したことはないのだ。




