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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/26 事後報告はご遠慮ください(エルシオ視点)


「……というわけで、年明けにエルが襲爵することが内示されたわ。みんな、忙しくなるわよ!」


 王都・ランスリー邸にて。王城から帰還するなり、領地にいらした領主代理・セルバート様を召喚してまで屋敷の人間が集められたと思ったら、シャロンがものすごい笑顔で発表したその内容に、僕はぴしりと固まった。僕の横ではセルバート様も固まっていた。「陛下? 陛下ー? 私は聞いていませんが……? あれえ……?」と困惑していらっしゃった。仲間だと思った。けれど僕の仲間はこの家にはセルバート様しかいなかったらしい。


「エル坊ちゃまが……エル坊ちゃまが、ついに……!」

「最年少公爵閣下でございますね! さすが我らのエル坊ちゃま!」

「いえ、『坊ちゃま』とはもうお呼びできませんね……」

「うっううっ……あんなにお小さかったエル様が……ご立派に……」

「これは気合を入れてお祝いをせねばなりませんね!」


 アリィを筆頭に使用人のみんなはむせび泣いて喜んでいた。『エル様万歳! エル様万歳!』と野太い合唱が聞こえる。すごくやめてほしい。そしてこの場に同席していたコナツさんも周囲の狂喜乱舞に乗せられて一緒に『エル様万歳』って言ってるけど、訳も分からないまま乗せられないで。コナツさんもしかしてわからないけど楽しくなってきたの? いい笑顔だね!


「え? ……シャロン? 冗談?」


 引きつり切った声で聞いた僕に、彼女はそれはそれはいい笑顔を返してくれた。


「まあ、エル。こんな冗談言わないわ? まずはお披露目に向けて衣装合わせをしなくてはね!」


 そっかー……。本気だったかー……。……いやいやいやいや。


「え!? 早すぎでしょ? 僕まだ学生だよ? 何考えてるの!?」

「あら、前に話してあったでしょう? 予定より早く襲爵する必要があるかもしれないから、準備をしておくのよって」

「言ってたね! 覚えてるよ! でもこんなに早いと思わないよね!?」

「何事も臨機応変よ、エル。環境には適応しなくてはいけないわ」

「僕多分、環境適応能力は高い気がするんだ。シャロンのおかげで。でもね、セルバート様も知らなかったってどれだけ性急に即決したの? せめて内示が出る前に相談が必要じゃない?」


 僕の言葉に高速でセルバート様がうなずいていた。やっぱりこの場で僕の共感者は彼だけだ。しかしシャロンは素晴らしい笑顔を保ったまま、告げる。


「あら大丈夫ですわよ、セルバート様。いつ襲爵が決定してもいいように準備は完璧ですわ」


 それを聞いて一瞬訝しげに眉を寄せたセルバート様は、次の瞬間カっと目を見開いた。


「……はっ。まさか最近私に回される書類がどうにも簡単な確認が多かったのは!」

「……あれ、最近僕の書類仕事や視察が増えた気がしてたのって……?」


 僕とセルバート様は、顔を見合わせた。そして同時に、シャロンを振り返る。シャロンは素晴らしい笑顔のまま、うなずいた……。


「あ、これダメですね。根回し終わってるやつですよ、セルバート様」

「……ええ、この計画性がシャーロット嬢でしたね……。いつから仕事量の調整をされていたのでしょう……不覚にも気づきませんでしたよ」


 僕も気づかなかった。ふと、以前より仕事が多い気はしていたが年齢が上がったから任されることが増えたのかと。本当に徐々に徐々に増えていた……。


 いずれにせよすでに内示が出ている時点で覆せないとわかってはいたが、本当にずいぶんと前からシャロンは動いていたらしい。いつからこの事態を想定していたんだろう……。コナツさんのことがあったから今回の襲爵に踏み切ったんじゃないの……? コナツさんが来てまだ一週間たってないけど……?


「もしかして最初から、僕が学生のうちに襲爵させるつもりだったの……?」


 僕が聞くと、ほほに片手を添えて小首をかしげるシャロン。


「あら、本当ならエルの卒業を待つつもりだったわよ? でも何が起こるかわからない世の中ですもの、準備は早い方がよろしいでしょう?」

「……………そう。シャロンは、周到だね……」


 僕はほほえみの崩れる気配が一向にないシャロンを追求することを諦めた。あきらめて受け入れざるを得ない。すでに決定事項なのだから。……うん、これからの準備やらそれに伴う仕事の増加やら、セルバート様からの引継ぎやら……頭が痛い。僕の隣でもセルバート様が「あああ、陛下、あれほど報連相が大切だと王妃殿下に言われていらっしゃったのに……。一度登城して宰相様にお話を伺わなければ……ああああ」と頭を抱えていらっしゃる。一緒に頑張りましょうね……。


 ――襲爵。いずれそうなることはわかっていたが、ここまで突如提示されると意気込みや感慨よりもただただ冷や汗が流れる。


 いや、確かに、シャロンの言うとおり、聞いてはいた。シャロンが今日王城に行くより前、ランスリー家の影さんたちと一緒に、これからのランスリー家の動きについて打ち合わせをした時に、確かに言っていた。


『エル、小夏をうちで保護する以上、これまで以上の公的立場を確保するためにも、予定よりも早くあなたには正式に当主として立ってもらうことになるかもしれないわ。心の準備をしておいてね』


 と。……言っていたけれども。早くても春、五回生への進級に合わせてくると思っていたよ……。


 僕はあきらめの境地に至りながら、数日前のことを想い返した。







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