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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/25 虎視、眈々


 ベルキス将軍としてはいろいろ複雑極まりない心情があるのだろう。


 もうちょっと踏み込んで語ると、現皇帝ザキュラム陛下は正妃様ただ一人しか迎えていないが、元来ヴァルキア帝国は側室制度が認められている。特にどんどん小国を侵略していたいわゆる『全盛期』には併呑した国の姫を次々側室として迎えたりもしていたようだ。どこぞの大奥のようである。


 さて、皇子時代、ザキュラム様は正妃の第三子。ベルキス様は第三側妃の第一子だった。一応ザキュラム様の方が『兄』だが年齢は実のところ数か月しか変わらない。そしてそのほかにもいっぱい兄弟姉妹がいたのだけれども、長年の権力争いによって次々と命を落としていったらしい。さらに、二十年前の戦争はここでも関係していて、戦功をあげて認められよう、ということで出陣した皇子も多かったようだ。ザキュラム様やベルキス様もその一員であり、現在ベルキス様が将軍位についているのもその関係である。


 いずれにせよそんな内部での争いと外部での争いとで相まって、戦争終結時にはまさかのザキュラム様とベルキス様しか皇族男子は残っていなかった。減りすぎだろと、この事実を知ったときに思ったくらいだ。


 ――まあそんなわけで帝位交代先は二択しか残っていなかったのだが、いかんせん敗戦もあって余裕がなかったのだろうか。あるいは確固たる根拠があったのだろうか。当時の前皇帝の心中はわからないが、実にバッサリ、ザキュラム様が皇帝として指名され、そのまま即位した。そのスピード即位にから鑑みるに、前皇帝に躊躇いなんてなかったらしい。現皇帝ザキュラム陛下の即断即決の気質はもしかしたら父親から丸っと受け継いでいる気がした。


 いずれにせよスピード即位したザキュラム陛下が頑張って国を立て直し、よく治めたからこそ今日の帝国の平和があるといえる。そんなザキュラム陛下は同じような王継承争いが起こるのはよろしくないだろうという周囲の意見と、皇妃様を溺愛していらっしゃるという事実も相まって側室は設けていない。先ごろまでは皇女一人しかいなかったせいでそれもそれでいろいろと文句を言われていたようであるが、それはそれ。今は皇子も生まれて文句を言われる筋合いがなくなったというところである。


 だがここでさっぱり面白くないのはやはりベルキス将軍なわけで。


 というか、そもそもメイソード王国の現国王・アレクシオと故・王弟クラウシオは実はそれなりに仲良し兄弟だった上に王弟クラウシオの方はぶっちゃけそこまで王位を欲していなかったという事実をもってしても、王位争い終了後には禍根が残ったというのに、はっきり言って全然仲良くなかった上にバチバチの帝位争いをしていた腹違いの兄弟であるザキュラム様・ベルキス様の間にはもはや触れるな危険レベルの禍根が残っているのである。


 そして現在、バッサリ皇帝位を奪われたトラウマのある皇位継承権第二位『ウロム』に戻ったという事実。かつ、ベルキス様は実力で将軍位に上ってきた猛者である。彼を慕う一派も存在する。


 よって、ヴァルキア帝国国内は現在、一見皇女の婚約に沸いているように見えて水面下でピリピリしているのである。


「……まあ、各地にはランスリーの手の者を潜入させる予定ですわ。エルと方針を決めていますから、必要な報告は随時いたします」

「マジで? お前の所の異常集団が動くならまあ、信用できるな」

「陛下の配下の方々も既に?」

「おう。まあ、周辺国含めいろいろとな……」


 国王様は少しだけ遠い目をした。そして「マジめんどくせえ、身内」と呟いたのを私は聞き逃さない。


「あら。……閣下は、お元気なようですわね」

「……お元気だよ。すごく、……元気だよ……」


 ふふ、と国王様は乾いた笑いを漏らす。『閣下』――つまり国王様の実父にしてメイソード王国前国王・夏院君リグヴァルド・メイソード様である。彼は二年前のアポなし王城訪問からこちら、それはもう『元気いっぱい』で、ちょくちょくちょくちょく隠居先である夏院からフットワークも軽く外出して軽々と王城にもやってくるものだから気が抜けない。


 何をしているのかといえば、隠居している間に発展したあれこれを見て回っている、らしい。「老人の道楽じゃよ」などと供述していたがじゃあもっと無害な感じを醸し出してほしい。胡散臭さ全開のきらきらした笑みを浮かべるのをやめてほしい。


 というか、突然城に来ないでほしい。困る。何が一番困るって、白い人外の存在は夏院君閣下はご存じないのである。遭遇したらちょっとどうなるのか考えるのも恐ろしい。多分いろいろ破壊されると思う。しかし相変わらずかの御仁はさっぱり意図が読めないしランスリーに興味津々の姿勢が崩れないし。


 そしてそんな胡散臭さ全開のきらきら系イケ爺が小夏にも興味津々だという。


「……」

「……」


 私と国王様は目を見合わせた。小夏の保護、各国の動き、国内の懸念事項。これらを踏まえて、とるべき一手は……


「――陛下。考えていることは、同じだと思うのですけれど」

「そうだな。お前の義弟……エルシオ・ランスリーに、もっと公的立場の強さが欲しいな。……年明けか?」

「早い方がよろしいですわよね。本来ならエルの卒業を待ちたかったところですけれど」

「ま、何もなけりゃそのつもりだったがな。今の状況じゃ仕方ねえだろ。アザレア商会の所有者ってカードも開示されたし、実力は申し分ねえんだ。時機を逸して後手に回りたくはない」

「――ええ、わかっていますわ。……よろしくお願いいたします」

「おう。記録更新……最年少公爵(・・・・・)の誕生(・・・)だな」


 にやっと、国王様が笑った。


 ――こうして、エルの知らないところで、予定よりだいぶ早まった彼の襲爵が決定したのであった。















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