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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/24 東の帝国


 今更のようだが少し、ヴァルキア帝国の話をしよう。


 我らがメイソード王国の南の隣国。帝国というだけあり広大な国土を持ち、『武の国』と呼ばれるに値する戦力を有する。二十年前の戦争にて敗北を喫してからこっち、鳴りを潜めて内政に精を出しているが、かつては侵略戦争を巻き起こし滅ぼされた小国も少なくはない。もともと血の気の多いお国柄なのである。


 まあその二十年前の戦争にて多少のその権勢や国土範囲を狭めはしたがそれでも東の地域で最も名の轟いた強国が、ヴァルキア帝国だ。ややその内情は脳筋が多かったりしていて大丈夫なのだろうかと思う面もあるにはあるのだが、シルゥ様とソレイラの関係性などを見るに、脳筋である以上にヴァルキア皇族の求心力・カリスマ性にはすさまじいものがあるといえるだろう。


 その大国を治めるのが、シルゥ様の実父。ヴァルキア帝国皇帝・ザキュラム・アセス・ゼノム・ヴァルキアである。


 たった一人の娘であるシルゥ様を溺愛している父親であるが、一方で決して愚王ではない。ぶっちゃけ、若干脳筋なのは否めないのだが……二十年前の戦争にて退位した前皇帝の後を継ぎ、今日まで国を立て直し、近隣諸国との関係性も何とか持ち直すに至った現状が彼の手腕を物語っているだろう。


 まあ、直情脳筋というヴァルキア帝国民を体現したかのような気性をお持ちであるがゆえに、ちょくちょく脳みそを通していないんじゃないかというような即断即決をするお方でもあるのだが、強運なのか直観力に優れているのか、その即断は結果的に英断であることが多い。結果的に。結果が出るまではだいぶ周りが振り回されるらしい。なお、シルゥ様の留学ゴリ押し事件などもその一環だったりする。


 さて、そんなヴァルキア帝国だが、まあ現皇帝陛下とメイソード王国との関係性はさして悪くはない。過去のあれこれはあるものの、お互いに世代交代をしているということもあり、今ではジルとシルゥ様の婚約が実現するに至っている。仲良しこよしかと言われれば決してそんなことはないのだが、一般的な隣国同士のお付き合いといった範疇だろう。


 ただやはり今回の問題・『加護もち異世界人出現』に関しては、国王様が言ったように現状のジル・シルゥ様の婚約関係と、物理的に隣国であるという距離の近さ、そして二十年前の戦争の勝者であるメイソード王国が新たな力を手にした可能性があるという点においてヴァルキア帝国としては決して無視できない事態だろう。


 そしてさらに、懸念事項である存在がある。皇帝の実弟にして将軍・ベルキス・アセス・ウロム・ヴァルキア。彼のことである。


 ヴァルキア帝国の皇位継承権は男児しかもっていない。よって少し前までベルキス将軍が皇位継承権第一位の立場にあった。しかし昨年、ザキュラム皇帝陛下に皇子が誕生したことで状況は変わった。


 ヴァルキア帝国第一皇子・ウィルネラム・アセス・イム・ヴァルキア。彼の生誕まで、皇妃様の所在が秘され、シルゥ様もメイソード王国に避難させられた、というこの事実からして、不穏なにおいがプンプンするというものである。杞憂であればいいが、あの皇帝陛下の直観力は侮れない。


 ちなみに、皇位継承権の順位や爵位が、ヴァルキア帝国は名前で一目瞭然だったりする。というのも以前にもすこし触れたような気がしなくもないのだが、メイソード王国とヴァルキア帝国では爵位の制度などが少し異なっている。


 メイソード王国では王族の下は公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵まで。平民が爵位を得ることはめったにない。一方でヴァルキア帝国では皇族を頂点に公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵、までは同じだが、それ以下に準男爵・騎士爵・商爵が続いている。実力主義であり、そもそも国や国民の規模が違うということも関係しているだろうが、功績を上げれば平民も騎士爵や商爵の位を得ることはそれなりにある。ソレイラの家もそうだ。


 さて、それではこれを前提に『名前で爵位や皇位継承権が一目瞭然』とはどういうことかという話だが、まず平民以下はファミリーネームを持たない。これはメイソード王国も同じだ。つまりファミリーネームを持っていればそれは爵位もちであるということだ。そしてその爵位だが、実はミドルネームが階級を表している。


 皇族は、『アセス』。公爵は『ヘルク』。侯爵は『フュス』。辺境伯が『マク』。以下、伯爵なら『グレイ』、子爵なら『リッツ』、男爵なら『イア』、準男爵は『ザエス』、騎士爵はソレイラも冠する『アキト』、商爵には『ハルト』となる。


 ……ここで気づいたと思うが、皇族男子諸君にはミドルネームに続く名前がみんなついている。これは皇族の男子のみが持つ名で――つまり、その名が彼らの位・継承権順位を示しているのである。皇帝陛下その人には『ゼノム』の名を。そして第一皇位継承者には『イム』、第二皇位継承者には『ウロム』、第三皇位継承者『サリム』……というように。


 つまり、皇帝陛下は『ザキュラム(名)・アセス(皇族)・ゼノム(皇帝位)・ヴァルキア(氏)』という、実にその地位の分かりやすい御名であるわけだ。それはベルキス将軍やウィルネラム殿下も同様なのだが、……皇位継承権の順位で名が変わるということは、ウィルネラム殿下の生誕によってベルキス将軍の名は、変わったということだ。


 『ベルキス・アセス・イム(・・)・ヴァルキア』から、『ベルキス・アセス・ウロム(・・・)・ヴァルキア』へと。


 ……変わったというか、戻ったのだけど。現皇帝ザキュラム陛下が即位するまではベルキス将軍は『ウロム』だったのだから。









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