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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/23 為政者の目


 小夏の王城召喚からすでに数日がたっている。動き出している者もいるはずだ。本日の本題はその情報交換である。


 ちなみにあの時魔力測定で連れ去られた小夏は無事測定を終えて戻ってきた。結論から言うと魔力量はこの国の貴族子女の平均程度、適性は土。


「王道チートなんて所詮夢ですよね……」


 とちょっとだけ残念そうに肩を落としていた小夏だったけれども、「でも、王道チートって多分、否応なく問題に巻き込まれるフラグしかないですわよ」と私が告げたところ素晴らしい立ち直りの速さをもって彼女は笑った。


「チートなんてなくてよかった! あたししがない女子高生ですもん! 刈宮様の偉業を崇め奉ることだけが生きがいですもん!」


 妙なことを生きがいにしなくてよろしい、とだけはしっかり伝えておいた。でも彼女の自室にはお手製の祭壇があって、バイトでコツコツ溜めたお金をはたいて落札した『刈宮鮮花』の生写真を祀っているらしい。彼女はそれを夜な夜な拝んで受験勉強に励んでいたらしい。表向き笑顔で隠しきったけど思ってたより小夏が狂信者でビビった。なお、写真の出所は疑う余地もなく斗海だろう。我が前世悪友殿は倫理観も常識も持ち合わせているのだが、一方で『刈宮信者』の手綱さばきが素晴らしくうまかった。写真の件もそれに関係しているのだろう。


 それはともかく。


「そろそろ各国の動きも見えていらっしゃるのでしょう?」


 持参した緑茶を湯飲みで飲みつつ問う。本日のお茶請けは塩豆大福である。国王様も嬉しそうにつまんでいる。和菓子は現在彼の心をわしづかみにしているのだ。会話さえ聞こえなければなんともほのぼのとした光景だと思う。だがしかし私たちの会話内容は全然ほのぼのしていなかった。


「あー、さっそく聖国が探りいれてきてるみたいだな。前回の訪問から時間もたってるし、ちょうどいいってんでこりゃ早々に聖王殿のお出ましかもしれん」

「あらまあ。相変わらずお耳が早いこと」

「青教の総本山だからなあ……聖王殿独自の情報網も多分あるんだろ。だてに長く王様やってねーだろーよ」

「そうですわね。……ならば学院の卒業式の前にご訪問ということもあり得ますわね」

「案外腰が軽いからな。巡礼や視察も精力的にこなされている方だから。まー、年内には動かねーよ。この国で言う『雪祭り』……聖国だと『鎮魂の祭礼』と呼ぶんだっけか? まあそれがもう近すぎる。聖国が動くとすれば『神祭り』に支障が出ない時期だろうから、ある程度絞り込める」


 国王様は緑茶で大福を流し込みつつ答えた。『雪祭り』とはこの一年間の死者を安らかに送り出す鎮魂祭のようなものだ。まあメイソード王国だと雪像が街を飾ってわりと見た目にも美しい明るい行事となっているが、聖国ではもっと厳かに『鎮魂の祭礼』として儀式が行われるらしい。儀式には聖王の出席は必須なので、確かに来るとしても年が明けてからだろう。


「聖国もですが、南、北、それに東も……やはり大国は動きが早いと私も小耳にはさんでおりますわ」

「まあな。隣国ヴァルキア帝国、北の連合、南の共和国……。聖国ほど食いついちゃ来なかったが、興味津々だったぜ。……まあ北と南は今のところ大丈夫だろうな」

「北の連合は……確か今はアイヴィース国の王・レイモンド・アイヴィース様が代表者ですわね。昨今は海賊対策と航路の安全確立のために尽力されていると思いましたけれど……」

「あそこもやっぱり『加護』が気になってるっぽかったなあ。北の国々は毎年天候に悩まされてる。『加護もち』がいることでそれがいい方向に転がるんだったらほしくてたまんねえだろうな。『加護』の効果は今のところ言語翻訳くらいしかわかっちゃいねえから、あえて危険を冒すことはしねえだろう」

「そうですわね。それに、南のエイディワム共和国の現総括議長はエチカ・ナタル様ですものね。彼女はどちらかというと保守派……静観の構えかしら?」

「ああ、こっちを観察しつつ不利益をこうむらねえよう立ち回るつもりだろうな。ほかの小国もそわそわしてるが、ランスリーに保護されている彼女に手を出す度胸も力ももってねえだろ。……問題は、聖国と、――ヴァルキア、だな」


 ぱん、と大福の粉がついた手をはたく国王様に、私も頷いた。


 ――隣国ヴァルキア帝国。シルゥ様……シルヴィナ・アセス・ヴァルキア第一皇女とソレイラ・アキト・ジッキンガム専属護衛騎士の生国。


「ヴァルキアは隣国……皇女の留学の件もある。ジルとの婚約もな。距離も関係性も近い。……気になって仕方ねえんだろうな」

「シルゥ様の弟君……皇太子殿下の生誕間もないですものね。皇帝陛下の弟君のこともありますし、以前から少々国内がざわついているようだとは聞いております。それも含めて動きが気になるところですわ」


 友人たちのことを想い、私と国王様は深くため息をつくのだった。










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