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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/22 適任者


 さて、ところ変わって王の執務室である。


 ――あのあとも会議はいろいろと続いたが小夏の保護先も決まり、ほかならぬ私が『小夏の帰還』について前向きな見通しを語ったので当面は小夏にこちらのことを教え、小夏からあちらのことを聞くということにして、ランスリー邸で保護をしつつあえてこちらからは騒がずに静観する、ということになった。


 定期報告は義務付けられたが、王城騎士の専属護衛はお断りした。小夏が落ち着かないだろうし、何よりそんな仰々しいものをつけられるのは目立つ。


 特に騎士団長様あたりは難色を示したけど、我が家の使用人さんたちの戦闘能力の高さをよくよく承知しているジルが丸め込んでいた。むしろジルは婚約者がいるというのにこの期に及んで定期的にうちに通ってきている年季の入ったストーカー野郎なのでそれで警護面や監視面は問題ないでしょうと言い切りやがって下さった。この男、正当にうちに通ってくる権利を得やがったと私が歯ぎしりをしたのは言うまでもない。


 なお、専属護衛はお断りしたが、王城推薦の家庭教師はむしろ歓迎した。うちには今やとっている教師はいない。いや、正確には教師だった者たちはいるのだが、どういうわけか気づいたら全員研究者にジョブチェンジを果たして久しかった。現在魔道研究所と共同研究を進めていて毎日がすごく楽しそうだ。そんな彼らに任せるとものすごく偏った知識を小夏が植えつけられる気しかしない。


 また、我らがハイスペック侍女やメイドに任せるという手段ももちろんあったけど、日に日にアサシン能力に磨きをかけている彼女たちに任せると小夏が本人も気づかぬ間に暗殺スペシャリストに育て上げられているような気がする。そもそも小夏、『刈宮信者』という一面をもって私をリスペクトしているものだからすでに使用人さんたちとの意気投合がすさまじい。一応私が『刈宮鮮花の生まれ変わり』であることは口止めをしているのだが、それでもまるで旧知の親友であるかのようだ。信者の情熱は異世界の壁を軽々と越えてゆくらしい。戦慄した。


 ともあれ、常識だけをうまいこと教えてくれる家庭教師を急募していた身としてはむしろ王城側の提案は渡りに船であった。


「……けれど、驚きましたわ? 確かに、私の友人の皆様にはお力を貸していただくつもりでしたけれど……最初から身内で固めすぎていると反発はなかったのですか?」


 現在、宰相様達も交えた会議から数日後であるが、いつものごとく突撃サプライズ急襲を敢行して懲りずに国王様が奇声を上げるというワンセットを経て密会中だ。


「そうでもないぜ? そもそもお前のとこの商会は手広いからな……かかわりの全くない有力貴族を探す方が難しいだろ」


 にや、と笑う国王様は確信犯なのだろう。


 ――そう、私が驚いたのは、小夏の家庭教師として派遣されてきた人物。貴族家のれっきとした当主婦人である方が引き受けてくださったらしいと聞いたが、王城側が信頼するくらいなのだからよほど実績のある人物だろうと思っていた。それこそラルファイス殿下やジルの教育を受け持っていたとか、王族の遠縁とか、宰相様の身内とか。


 しかしふたを開けてみればやってきたのはリズ様だった。


 もう一度言う。わが友人にして魔道研究所初代所長・エリザベス・ターナル男爵夫人であった。


 いや、確かに魔道具関連の実績が有り余っているお方で、現在もバリバリ働く女傑で、かつ元伯爵令嬢という教養の高さと身元の確かさ、それでいて小夏ともさほど年齢も離れていない非の打ちどころのない人選なのだけれども。私としてもランスリー公爵邸に出入りする人間なのだから信用が置ける人でなければとは思っていたけれども。


「……決め手は、『慣れ』ですかしら?」

「おう。『慣れ』だな。彼女以上の適任はいねえだろ。俺はもちろん、ジルにラル、騎士団長も一押しだったぜ? まあ、団長は魔道具開発の功績を鑑みてたんだろうがな。腕輪型防御魔道具の試験導入も始まってるし、ターナル男爵家の名は今、騎士団関係者に強いな」


 はは、と笑う国王様。まあ確かに、決まってみれば現状彼女以上に適任はいなかろう。ほかの方が来たなら来たで対処をするつもりだったが、旧知の仲であるリズ様ならばこちらも気が楽だ。


 なぜならば、我が家はエイヴァの出没スポットにして暴走スポットだからである。小夏にはいろいろと守りと説明が必要だろうがそこはもう仕方がない。それを鑑みてもランスリー邸での保護の方がいいと判断が下ったのだから。


 だがしかし守りと説明が必要な人数が少ないに越したことはないのだ。学生の頃からあの白い人外の奇行に慣れ親しんでおられて、かついろいろ強いリズ様ならば安心だ。彼女ならばエイヴァの奇行にも負けずに小夏にこちらの世界の常識を教えてくれるだろう。


「しかも本人が乗り気でな。魔道具開発の参考になるかもしれないと意気込んでいたぞ? 熱心だな」

「ええ、まあ。リズ様はいつでも意欲的ですわ」


 相槌を打ちつつも、リズ様のぶれなさは健在だな、と思った。借金を完済し幸せいっぱいの新婚の身でありながら彼女は実に仕事に打ち込んでおられる。新婚ほやほや蜜月ではないのだろうかと思うけれども、ターナル男爵夫妻は魔道研究所の所長・副所長コンビでもあるためむしろ一般的な新婚さんよりも四六時中一緒にいる気がしなくもない。副所長補佐官であるレギーが高確率で、生温い目で二人を見ているのを私は知っている、


 ともかく。


「――それで、本題に入りましょうか、陛下」


 私と国王様は他愛ない掛け合いを切り上げ、居住まいをただした。







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