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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/21 彼女の立ち位置


「――ふむ。やはり保護ならランスリー家か、王城か……他家は少々、荷が重かろうな」

「でしょうな。聖国がかかわってくるのであれば、下手な家を巻き込むことも出来ますまい」


 騎士団長様の言葉を受け、顎をさすりながら答えた国王様に宰相様が肯定を返す。それにさらに騎士団長様が言いつのった。


「ですが、『魔』殿のこともございます。シャーロット嬢が『彼』をとどめる役を担っておられるならばナガミネ殿は王城が責任を持つべきでは?」

「……しかし城は人の出入りがな……。すでにランスリー家で数日過ごしていることもある。ナガミネ殿の心情を考えればあまり滞在先を変えるのも酷だろう」


 国王様は騎士団長様の主張に少々難色を示す。先ほどの謁見で小夏がザ・庶民出身であることは実感していることもあるのだろう。そうであるのに王城に滞在は少々、彼女の精神衛生的にもよろしくないと思われる。そこでラルファイス殿下が別視点から意見をのべた。


「しかし陛下、行動を管理しやすいのはやはり王城では? ナガミネ殿は少々お若く見えますが、十八なのでしょう? 学院に編入というわけにもいかぬ年齢、学生であるエルシオ殿やシャーロット嬢を頼るのは難しいのではありませんか?」

「ですがこちらとしても今の時期に余裕はありませんぞ? 式典に魔術師は駆り出されておりますし……そのような時期に出自不明な女性の滞在など、噂を助長し存在を喧伝するようなものです」


 そう眉をひそめたのは宰相様であった。そんな感じで、なかなかに会議は紛糾する。この場合、私とエルといったランスリー公爵家の人間は意見を求められるまではでしゃばることも出来ない。私たちが同席しているのはあくまで第一発見者であり、現時点で小夏を保護しているという立場があるからだ。いち公爵令嬢と公爵令息という身分なのだから、どちらに転がるにせよ私たちはやれることをやるだけなのである。


 今のところ意見は真っ二つ。王城で保護すべきというのはラルファイス殿下と騎士団長様、ランスリー家で引き続きか匿うべきという意見は国王様と宰相様。


 そしてまあ、決着は少々考え込んでいたジルの言葉で完全に進路を決めた。結論から言うと小夏は引き続き我が家で保護をすることになったのである。


「やはり、聖国が絡んでいますからね。ランスリー公爵家で保護していただいた方が安全でしょう」


 ジルは実に輝く笑顔で私を見ていた。もちろん淑女のほほえみでお返ししたけれども。彼が暗に言いたいのは、聖国を中心に青教徒に広まっているランスリー公爵家のうわさの一つだろう。


 いわく、『ランスリー公爵家に仇なせば、天罰が下る』。


 どうしてそうなったと問いただしたいが、こればかりは私の仕業ではない。だからどこぞの第二王子は私をいい笑顔で見つめるのをやめろと言いたい。あれは、わが亡き父の生前の所業の所為である。かつての戦争でヴァルキア帝国軍に壊滅的被害を与えた極大殲滅魔術。あれがいけなかったのだ。


 ……いや、うん、戦争での父の所業は、東の国々だと『紫の瞳の鬼』で広まったんだけど、青教徒の中ではあまりの常軌を逸した魔術のすさまじさに『神の裁きじゃ! かの帝国は神の逆鱗に触れたのじゃ!』といううわさがまことしやかに広まったとか広まらなかったとか。そこから話が拡大して尾ひれがついて現在に至る。


 ……いや、うちの父はちょっと天然はいってる愛妻家であってそういう、神々しい感じではなかった。断じて。家の中の母と私にデレデレな中身を知っている者としては正直『鬼』って感じでもなかったけど。むしろ、捨て犬とか捨て猫とか捨てゴリラとかを拾ってきすぎて母に切れられてたからね。しまいには何をどうしたらそういうことになるのか、今にも死にそうな魔物の幼体を拾って帰って「可哀そうだったんだ……」ってしょんぼり眼で訴えてきてたけど、それはそれはきれいに笑った母に制裁を受けていたのを覚えている。光魔術特化でそのほかの属性に適性はなかった母だが、その黄金の右腕で物理的に机を粉砕して「あなたもこうなりたいのかしら?」と問いかけていた。父はそのたびに流れるように美しい土下座を披露していた。


 ともかくも、そんな噂が青教を中心に広まっているものだから、ますますランスリー公爵家に直接武力行使しようぜ! っていう輩は減った。実に私たちの心中は複雑である。「シャロンの、お父様だもんね……」といつだったか噂を知って間もないエルがつぶやいていた。どういう意味かな? と問えば何でもないよ? とでも言わんばかりに笑顔を返された。わが義弟は日々ランスリー家に染まっている。


 いずれにせよ、『ランスリー公爵家』というのは聖国相手であれば十分その名前だけで心理的に強硬手段に出にくい相手なのだ。ジルが言いたいのはそういうことである。


 ……物理的に、王城よりも堅牢な要塞とかしているランスリー邸の現状を正確に把握しているからでもあるだろうけど。宰相様はともかく、国王様も多分国内で一番物理的に安全なのは王城じゃなくて学院でもなくてランスリー邸だって思ってるからランスリー家推しだったのだろう。


 そもそも、メイソード王国民ではない小夏を守る義務というのは実のところ国にはない。感情論を抜きに考えれば聖国に引き渡すなり交渉の材料にするなり、利用することすらあり得る選択肢だろう。


 それでも小夏の保護をするのは、国にとって『発生した異常事態の把握・対処・原因究明』という面が強い。なぜならば国にとって彼女はあらゆる意味で『未知』の存在だから。小夏が落下してきたのが『秘魔の森』だったことも大きい。今後も起こりえるかもしれない事態なのだ、我が国にとっては。これまであり得なかった魔物の氾濫(スタンピード)が起こったのは記憶に新しい。二度目がないなんて誰も言えない。


 今のところ小夏は『加護もち』ということしかわかっていないが、その『加護』がどのような影響を及ぼすかわからない上に、我が国に有益な何かを持っているかもしれないし、今後同じことが起こった時に有益な人材がいないとは限らない。その時に不利になるような行動を初手で取るのはまずい、という皮算用と、一応仮にも一度ランスリー家で保護していて、第一発見者には王子が混じっていて、場所は『秘魔の森』。『森の番人』『魔術大国』としてのメンツはつぶせない、というのが本音だろう。放置はできないし粗雑に扱うにはリスクが大きすぎる。そういうことである。











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