8/20 だからその国は異端を抱え、
だがそれでも、ことが『神の加護を持つ異世界人』となれば話は別である。だって彼女はメイソード王国で保護されたけど、メイソード王国の人間ではないから。
ランスリー家やメイソード王国に関しては、勧誘を代々断られ続けてきたこともあり、ランスリー家のメイソード王家への忠誠心が有名であることもあり、そもそも常識的に世界の反対側にある他国で、武器をとってでも! を本気で実行しようとするほどの者は一部であることもあり。根底として『安寧』『和』を教義としているのだからまあ、武力でガンガン行こうぜは多数派ではない。完全無視できるかといえば違うからこその聖王様の行動だけれど、不満はくすぶっていようが、長年変わらぬ関係上惰性な感じもあってよっぽどの地雷でも踏まなきゃ今すぐどうこうなることはないだろう。
でも、だ。仮にも一国の考え方を改めさせようとするのと、たった一人の『異世界人』をどうこうしようとするのとでは全く事情が異なってくる。
もっと簡単に言うなら、明らかに一騎当千過剰戦力で且がっつりメイソード王国に所属しているランスリー家の人間をどうこうしようとするのと、ぽっと他所からやってきてしまった『加護』は持ってるけど自身の戦闘力は高くない女の子をどうこうしようとするの、難易度はどちらが低いかって小夏をどうこうしようとする方が難易度は低いに決まってる。さらに焦点を絞るなら、国内外にその力量をとどろかす魔術師姉弟『シャーロット・ランスリー』『エルシオ・ランスリー』と右も左もわからない『長峰小夏』では比べるまでもなく小夏の方が手を出しやすい。そういうことである。
「聖王殿ご自身が過激行動をとることはないだろうが……他は違うだろうな。聖王殿ご自身もその過激派を抑えるというのも含め、『加護もち』の保護という目的であれば少なくともこちらに交渉自体はする可能性が高い」
苦り切った国王様が吐き捨てる。なお、国王様は実はゼアラミス様が苦手だったりする。まあ現在の王族……国王様やジルは魔力を非常に豊富にお持ちなので、聖王様との会話には『あなたも神に愛された人間ですね』みたいな雰囲気が漂っていて地味に変な圧を感じるらしい。国王様に苦手意識を抱かせるとは流石の強心臓の持ち主・聖王様である。
「ですが、予想以上に国内で噂が出回るのが早いですね……。聖国の情報網は侮れません。あちらからの接触は避けられないかと」
同様に苦い表情で答えたのはラルファイス殿下である。それに胃を抑えたままの宰相様がうなずいた。
「ええ、ええ、緘口令は形だけモノになるでしょうな。……かの『魔』殿がやって下さいましたからな!」
私はちょっと半泣きな宰相様を見て、この後差し入れる胃薬のお値段は半額にして差し上げようと思った。
……そう、『魔』。すなわちエイヴァである。宰相様の言うとおり、あの阿呆は久々に盛大にやらかしたらしい。
なんというか、あの小夏が現れた正にその日、小夏をランスリー邸で保護しているのだからとエイヴァを王城側で受け持ってくれたことは確かに英断ではあったのだが……。
『森』でひと通りストレス発散をしたエイヴァとジルは一緒に王城に帰還。そしてジルは小夏のことを国王様達と相談すべく動こうとしていた。そのためにとりあえずエイヴァに菓子でも与えて部屋でおとなしくしていてもらおうとしたらしい。だがしかし、部屋の中に入る前、エイヴァはやらかした。
「シャーロットは結局戻ってこなかったな! 楽しかったのに! 残念だ! あの異界の娘のせいか? 『上位者の守護』があったし、ほっといても死ななかったと思うがな!」
ジルが言うには、無邪気で、悪意のない、純粋に私が一緒じゃなかったことを残念がっていただけの発言だったらしい。
だがしかしその発言は、まだ部屋に入る前にこぼされたものだった。王城の廊下、人通りが多かったわけではないが時間帯的に皆無でもなかった。エイヴァの声は、それはそれはよくとおる美声であったらしい。その後、部屋にたどり着くやいなや凍り付いた空気をそのままに美しく笑って、ジルはエイヴァに色々とお灸をすえたらしいがその詳細はジルもエイヴァも語らないので私は知らない。
いずれにせよ、そんな明確すぎる暴露をかまされた後では隠そうとする方が今更だろう。それ以外にも『森』で時空がゆがんだ影響か各地で魔物が活発化して早くも問い合わせが来ているし、そもそも『加護もち』であるとは見る人が見ればわかるため、完全秘匿は土台無理な話なのだ。それでもエイヴァがやらかさなければもう少しごまかしたり、情報操作したりできたし、少なくとももっと時間稼ぎはできたのに……。過ぎたことをいっても仕方がないけれど。
なお、数年前まではランスリー家の者と王族しか知らなかったが、現在は宰相様と騎士団長様もあの白い人外の存在を認知している。なぜかといえば二年前の『森』調査の時やらそのほかジル達との交流やらでエイヴァの異常性がちょっと目立ち始めていたし、それなりにエイヴァも私たちに対して素直になったので要職についている人物で、且口の堅い人物にはその正体を明かすことにしたのである。
ばらした時の皆様の呆けた顔は忘れられない。なんて? と耳を疑い、正気を疑い、現実を疑い、四回ほど説明を繰り返して納得していた。「やだもううちの国おかしい。絶対におかしい……」と半泣きだったけれど。「ランスリー公爵令嬢の方が強いのですね? それは確かなのですね? ……昔決闘して勝った? そうですか。なるほど!」とすごく念入りに確認もされたけど。いや、学院に入学からこっち、私の実力はさらけ出してきたけれども、それでも十代の小娘の戦闘力に対するこの信頼感である。
話がそれた。なんであれ、時間もないので、会議は続く。
「して、ナガミネ殿の滞在先はいかがいたしましょうか。聖国への対応もそれによって変わるでしょう。話を聞く限り騎士にはなじみがない様子ですが……」
私とエルを見ながら、発言したのは騎士団長様であった。




