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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/19 魔術に愛された国


 聖王ゼアラミス。聖リュゼラーガ国に長く君臨する徳の高い人物である。ただし折れない心を持つ国主であり、メイソード王国およびランスリー家にだけはご執心な『すごく、押しの強い人』。――それは確かに一面事実ではあるが、実態ではない。


 本来聖王様は本当に、『敬虔な信徒』で『温厚な人物』であるのだ。


 ……ここで少し、この世界の主流となっている信仰の話をしよう。この世界の『神』に名はない。唯一であり創造主とされる『神』に名はそもそも必要ないからだとも、その『名』を知ること自体が禁忌であるために伝わっていないのだとも言われているがここはほかにも諸説あって意見の分かれるところだ。ちなみに一般的には『青教』と呼ばれている。『青色』は『神の色』とされているのだ。


 『神』は創造主であるとされ、そうしてこの世界は季節の移り変わり、昼夜の入れ替わりさえも『魔力』ありきで成り立っているのだからして、『魔力=神の御力』とみられるのは必然の流れだ。その神の力をわずかばかり人間にお分けくださった『神の恵み』がいわゆる『人間の持ち得る魔力』であるとされている。ここで『魔力が多い=神の寵愛を受けている』という考え方が成り立つわけだ。一方で神話をごく簡単に語ると、創造されたばかりの混沌たる世界を『神』が平定し、『恵』をもたらしたとされている。


 つまり『神』は慈悲深くも『魔力』を人間に分け与え助けた存在であり、かつ『混沌』を憂い、『安寧』や『和』を愛するという教義が主軸なのである。


 さて、ではここで聖王様の話に戻ろう。聖王ゼアラミス様は本当に、敬虔な青教徒なのだ。『安寧』と『和』を願い、争いを好まぬ温厚で篤実な人柄の賢人である。――そんなイメージは世間一般ではおおむねそうであれ、『魔術大国』メイソード王国に対する彼の言動の突拍子のなさにはそぐわないだろうと思われる。よその国の筆頭公爵家相手に爆弾発言をかますなど一歩間違えばそれこそ国際問題に発展する可能性大なのだ。


 だがしかし、実は言えば聖王様のこの爆弾発言こそ(・・)が、国際問題回避のためのものであるのだ。


 どういうことだ。と普通は思うだろう。さっきと言っていることが逆だろうとも。けれどここで重要なのは、『青教』の教徒たちも一枚岩ではない、ということだ。例えばメイソード王国内の貴族内に『穏健派』『中立派』『好戦派』の派閥が存在するように、かの教会の教徒の中にも派閥が存在する。


 それは大きく分ければ二つだ。『尊重派』と『統一派』と呼ばれる。主軸となる教義、『神の求める和』をどのように解釈するかで大きく意見が分かれているのだ。やはり世界には戦争まではいかないまでも小競り合いをしている国もあるし多少のいさかいは大小さまざまある。そして世界で一番信仰されているというだけあって、メイソード王国はもちろん各国に青教会はあるが、信仰が厚いかと言われればそれは人によってさまざまあって、特にメイソード王国周辺は『魔術』そのものを重視する傾向が強い。


 その状況を踏まえ、個々の国々が独立していても大過なく『平和』であればいい、荒事は避け地道に教義を説くべしと考えるのが『尊重派』。逆に意志が統一されず不穏の種もあることを憂えて、完全なる意志すなわち信仰を統一し、世界をひとつに『平定』するためには一時的に武器を手に取るもやむなしと考えるのが『統一派』と呼ばれている。


 で、長々と説明したが、ぶっちゃけると今代の聖王様は『尊重派』なのである。争いごとはやめときましょうよ、というスタンス。


 ……ではあるのだが、言った通り派閥も分かれて一枚岩ではない青教、その総本山である聖リュゼラーガ国、そこで長年国主を務める『尊重派』聖王ゼアラミス様。……となると、どうしても、『統一派』の人間に不満がたまるのである。ではどうするか? 不満を少しでも抑えるには『統一派』の意見を無視しているわけじゃないんですよっていうアピールも必要になってくる。


 そしてここで重要視されるのが我らがメイソード王国なのだ。


 『魔術大国』メイソード王国。『秘魔の森』の番人という見方も強いけれど、青教徒の中にはメイソード王国は『神の寵愛』を受けた国だと特別視する意見もある。メイソード王国で魔力を持って生まれる人間は半数以上。つまり二人に一人だ。対してそのほかの国では平均して五人に一人。歴然とした格差である。……魔術研究者の意見としては『秘魔の森』に接しているがゆえに『森』が秘めている魔力の影響を受けているというのが定説なのだけど。実際、空気中の魔力濃度が『森』に近い領地ほど高いし、平民でも魔力を持っている人が多かったりしているしね。


 あとはやっぱり『ランスリー公爵家』という存在がでかい。歴代当主のアホみたいな魔力の大きさは他に類を見ないのだ。しかも突然変異じゃなくて代々続いているという事実。聖国としては喉から手が出るほどに『ランスリー家の人間』というのは魅力的なのである。


 でも一方でメイソード王国、ひいては歴代ランスリー家を含め王国貴族は『魔術』そのものを重視するがゆえに教会の影響力が弱い土地でもある。何がちがうのかっていうと、簡単に言えばかつて『魔力』を持っていても『魔術』を行使できなかったエルは実家に冷遇されていた、といえばわかるだろうか。『魔力を魔術として使えてこそ』というのが根強いのである。地理的に聖国とは世界の反対側であるということも大きいだろうけど。


 さて、そんな事情もあり、メイソード王国の状況は恩知らずだ、ちゃんと考えを改めて神に感謝し、かつランスリー家は聖国にこそあるべきだ、という意見が青教にはあってだね。『統一派』は特に一部暴走しそうなのも見受けられる。


 だからこその聖王様のパフォーマンスである。ランスリー家、勧誘してるよ! ほらほら! みたいな。でも強引だったかな、断られちゃうんだよね……でも熱が入っちゃうのは仕方ないよね! みたいな。


 聖国の人々にも聖王様のメイソード王国、ひいてはランスリー家への熱っぽい勧誘行動は伝わってるんだよね。でもさすがにそれはちょっとあれじゃね? やばくね? 一歩間違えたら敵対しね? っていう言動もあえて(・・・)包み隠さず伝えられてるんだよね。でも普段は超いい国主で敬虔な教徒。敬虔な教徒だからこその暴走であるという解釈になるようにしてるという計算高さが見え隠れする恐ろしさもあるけれど。


 まあつまり、聖王様のちょっとあれな言動にはそういう国内外のバランスをとるという意味があるのだ。もちろん青教徒として聖王様ご本人も『魔力=神の寵愛』としているからランスリー家が聖国に来たらいいなとは思っているのだろう。会った時には熱心に真摯に教義を説かれた。でも彼は争いを起こす気はないので断られることが織り込み済み。


 ちなみにその事実をメイソード王国上層部とランスリー家は知っている。つまり今この部屋にいる面々はご存じなのである。


 こちらとしても青教を敵に回すのはよろしくない。国内にも青教徒はいるのだ。そもそもランスリー家の魔力の高さははっきり言って異常の域なわけで、それが現在程度の扱いで済んでいるのはひとえにここが『魔術大国』メイソード王国だからである。他国に行けばこんな過剰戦力、いろんな意味で争いの火種になる未来しか見えない。そんなのは願い下げなのだ、双方。


 なので結論は利害の一致。あちらはあちらで思惑を持ち、こちらももちらで拒否はしないが許容もしないつかずはなれずという姿勢でお互いに適度な距離をとっているというのが真実である。このやり取りが許される程度には両国の間柄は良好ですよという対外的アピールも込みだったりする。ランスリー家は他国になびきませんという信頼関係ももちろん嘘ではないが、それ以上に王家・ランスリー家・聖王様の間で暗黙の了解が成り立っているのである。トップシークレットだけどな!











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