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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/18 西の聖国


 そもそも、歴史上に『加護もち』とされるものがいなかったのかといえばそうでもない。嘘か真かは時をさかのぼりでもしなければわかりようもないが、『聖人』や『剣聖』、あるいは『神官』などで『神の加護』を持っていたとされる歴史上の偉人の記録は残っている。わがメイソード王国で言うならば、最も有名なのは初代国王がそうであったとされている。


「そうなると……『聖国』あたりがうるさいでしょうな……」


 やや煩わしそうに眉をひそめたのは宰相様である。慢性の胃痛もちである彼は既に謁見の間で大きなダメージを負った胃にまたしても負担がかかったのかなだめるように己の腹をさすっている。意味深な目配せを受けたので、うなずいておく。胃薬の配達ですね、わかります。


「あそこか……ランスリー家にもうるさかったが……『加護もち』とくれば黙ってはいないだろうな」

「『保護』を建前に過激な行動に出ることも考えられますな」


 国王様の言葉を肯ったのは騎士団長様だ。彼らが一様にちょっと面倒くさそうな顔をしているのは話に出た『聖国』と通称される国の君主の奇行に問題がある。


 ――『聖国』について語る前に、この世界の国々について簡単に話そう。


 この世界は『森』を中心に円を描くような配置になっていて右上だけがえぐれている、という形状に多くの国が存在しているのだが……有名な国はいくつかある。


 一つは言わずと知れたわがメイソード王国。『森』と隣接することもあるが、その保有する魔術使いの多さや質の高さから、国土などはさして広くはないが『森の番人』という意味もあって有名である。だがしかし東方で最も名高い国といえば我が国とも関係の深いヴァルキア帝国だろう。『帝国』というだけありその国土面積は広く、国力も高い。鉱山も多く保有しているため経済的な影響力も大きな国だ。そして北……というよりは北東だが、そこに位置する小国による連合も魔術と組み合わせた高い帆船技術や海産物で有名で、海洋国家連合として高名だ。海賊も多いのが玉に瑕だろうが、その分連合が所有する海軍も強さに定評がある。翻って南は肥沃な土地を生かした農産物や林業、美しい細工物で有名なエイディワム共和国が突出しているといえるだろう。そうして、ここまでくればわかるだろうが西方、メイソード王国とは『森』と海峡を挟んで向こう側の大陸に位置する国……ここで出てくるのが件の聖国――聖リュゼラーガ国である。


 春に行われる『神祭り』、というものがあると話したと思う。数年前シルゥ様が空から舞い降りてくるという珍事件が巻き起こったあれだ。あれはこの世界で最も信仰されている神様を祀るものなわけだが、つまりは信仰があるのであれば信者もいて、必然教会なども存在する。メイソード王国では『魔術』の存在が強いのであまり目立たない……というか、メイソード王国を中心に東の国々は『魔術』自体を重視する感覚が強いのだが、そういった国ばかりでないのは当然だ。――まあつまるところ『聖リュゼラーガ国』とはそんな神をまつる信教国家であり、教会の総本山なのだ。


 そして小夏は暫定『神の加護』もちである。そうすると浮上する問題はいろいろと想定されてくるが……一番は聖国の国主・聖王ゼアラミス様がとっても暴走する気がする、というものだ。


 聖王ゼアラミス。長く聖国に君臨する徳の高い人物……というのが基本的な認識だ。だがしかしこの世界の権力者はすべからくぶっ飛んでいるのではないだろうかという疑問はこの人物にも当てはまっているのである。


 私も初めてお会いした時すごくびっくりした。うちの国王様も大概マジキチ疑惑が絶えない男だが、かの聖王様もなかなか吹っ切れていらっしゃる。


 もうちょっというと、この聖王様だけではなく代々聖国の国主にはわがメイソード王国はちょいちょい困らされていた。何故なら『魔力』=『神からの贈り物』という考え方があるから。そしてうちは魔術大国。……あとはわかるな? そういうことだ。


 それでも何とか関係性のバランスをとってきたのだけれど、ゼアラミス聖王は、……うん、折れない心を持っていらっしゃった。国主として無能でもないし、信望篤い人物……らしいのだが残念ながらわがメイソード王国での認識は『すごく、押しの強い人』である。そしてその押しの強さで特にランスリー公爵家にご執心なのだ。


 わが父・アドルフ・ランスリーが存命だったころから『勧誘行為』に余念がなく、母ルイーズ・ランスリー公爵夫人が『聖女』とも呼ばれるほど光魔術に長けまくった人物であったことも拍車をかけて、いろいろと猛プッシュされていたらしい。夫妻の逝去に当たってしばらくはおとなしかったけれど私が学院に入学して頭角を現したあたりで再びグイグイ来始めた。


 何故だろう、この世界の国主は威厳よりもキャラの濃さが重要なのか……? もう少し神聖な、厳かな雰囲気は保たなくていいのか……? 見た目は素晴らしく雰囲気のある泰然としたおじい様なのだけど。どうしてもと押し切られて顔を合わせて、その場で慈愛に満ちたほほえみでもって言い放たれた言葉が「ぬしの魔力は正に神の贈り物……共に在ろうではないか」だった。


 つまり率直に言うと求婚らしきものをされた。厳密にいうと『うちの国にきて、一緒に神に仕えよう』ということだったようだが、それを実現しようとすると私が他国の令嬢である以上『結婚』という選択肢が浮上する。そして聖王様は独身でいらっしゃった……。


 なんて? とよっぽど聞き返したかったけど根性で丁重にお断りした。なお、聖王様の発言と共におつきの人が絶望した! みたいな顔をして、私が丁重にお断りした瞬間に安堵しきっていたのも印象的だった。どこの国にも苦労性はいるんだなと思った。そして同時にうちの国王様も形容しがたい表情をしていたけれど、公式の場で顔面が崩壊寸前になった国王様を見たのは後にも先にもあれきりだと思う。


 ……ちなみにかのお方は独身時代のわが父にも似たようなことを言い放ったらしい。求婚ではないが、懇々と教義を説き、勧誘したらしい。よその国の筆頭公爵家の一人息子相手に強心臓である。母・ルイーズとの結婚後も慈父みたいなほほえみを崩さずに二人まとめてウェルカムと言い放ったというから強すぎる。なんて折れない心をお持ちなんだ。


 ……まあ、つまり、この世界の信仰では『魔力』は『神の贈り物』とされており、魔力が強いことは神に愛されているということになるらしい。そして聖王様は『神の寵愛深し(=魔力膨大)』とみる人物にのみ、押しが強い。それが我が国でスルーされているのは、ここまで如実なのは珍しいけれども、それでも聖国とメイソード王国の関係性は代々そんな感じで、今代の聖王・ゼアラミス様も引き際は素晴らしく潔いからだろう。押しは強いが。なんかもはや季節の挨拶じみていて流されているともいえる。いずれにせよ、王家とランスリー家の確固たる信頼関係があって成り立っているのではあるけれど。


 さて、これらを前提に小夏に与えられている『神の加護』について考えれば……小夏の存在を知った瞬間、確実に、聖王様はあの押しの強さでぐいぐい来るのだろう。






















 ーーが、しかし実はここまでは、聖国及び聖王様に関する『表向き』の認識であるので、もう少し問題は複雑だ。






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