8/17 会議は粛々と
それから気を取り直して自己紹介と形式的な挨拶をした。実にするっと終わって国王様が爆笑を治めるまでにかかった時間の方が多分長かった。ちなみにどうやって国王様を正気付けたかといえば、周囲に断ってそっと近づき、たった一言。
「お前、いい加減にしろよ」
そうささやきかけただけだ。国王は一瞬にして真顔になった。私の声は国王様以外には聞こえなかったので、室内の面々は何が起こったのかと困惑する者と、まあそうなるよねと察して余りあるものとに分かれたけれどもいつまでたっても爆笑している国王が悪いことは満場一致の意見であった。「お前、どうして脅す時笑顔になんの? その笑顔トラウマになりそうなんだけど」とはのちの国王様の発言だけれどもそもそも私に笑顔で脅されるような行為をしなければいい話なのである。
ともあれ、いまさら威厳を取り繕ったところで小夏の中で国王様の印象は『笑い上戸の人』である。その印象のまま、現在彼女は謁見を終え、王城魔術師の一人に連れられて魔力測定に赴いている。私はまあ、見れば彼女が魔力を持っていることはわかるのだが、やはり正確な数値や属性を把握しておくに越したことはないのだ。メリィも付き添っているのでめったなことは起こらないだろう。
ちなみに謁見から魔力測定の流れは召喚状が届いた時点で通知されていたし、私も小夏に魔力があること自体は伝えていたのでスムーズなものだった。自分に魔力があるということを知らされたときにはやはり驚いていたけれど。
「えっ。マジですか。あたしもマジョッコになっちゃった的なあれなの!? やばい、異世界すごいですね! 杖とか使う感じですか!?」
きらきらしていた彼女の中では、たぶん某英国魔法学校のイメージなのだろうけれども、私が彼女の目の前で魔術を使ってみせた時点で杖を持っていなかったことは印象に残っていなかったのだろうか。まあたぶんそれどころではなかったのかもしれない。どっちかというとRPGの魔法使いをイメージしてもらった方がこの世界の『魔術』は認識に齟齬がないと思う。
なんであれ、そういった経緯で現在小夏と私たちは別行動中である。私やエルが同行しないことに不安そうな様子を見せたし、付き添ってあげたいのはやまやまなのだがいかんせんこちらも今後の対策会議など予定が詰まっている。それは小夏自身も理解していて、駄々をこねることなく了承してくれた。……前世、読んだことのある異世界転移や異世界転生もので『電波系』や『勘違い系』が時折登場したが、小夏には常識があるというかおおむね普通の女の子で本当に良かったと思う。『普通』と言い切るにはちょいちょい『刈宮信者』が過ぎるけれどもそこは目をつぶろう。
というか『電波系』や『勘違い系』でぐいぐい行くあの登場人物たちの心は多分、強すぎる。突如異世界に来た、あるいは死んで異世界に来た、しかも創作物の中の世界だ! おっけーハーレムしようぜ! とは普通ならない気がする。もうちょっと何かほかに思うことはないのか……? いや、混乱の挙句の現実逃避という名の暴走なのだろうか。いずれにせよだからこそ作中第三者から『電波系』だの『勘違い系』だのと評されるのだろうが。
話がそれた。ともかくも、自分の立場を理解している小夏は、メリィが付き添っていることもあり素直に魔力測定に向かったわけである。
一方の私たちといえば、対策会議ということで謁見の間から移動し円卓を囲んでいる。そうしてランスリー側からはここ数日で得た『長峰小夏』に関する情報共有を行った。
「……なるほど。間諜や刺客の可能性はないということですね。……本当に異世界から来た、というわけですか……彼女の話は興味深いですね」
「彼女の本来住んでいた世界では『魔術』もなく『魔物』もいない……代わりに『科学』が発展した世界だという話です」
話を主に進めていくのは王城の『魔術師』代表でもあるジルと、ランスリー家代表となるエルである。二人は小夏の第一発見者でもあるため、自然な成り行きだろう。しかし一通りの情報を共有したところで、国王様が私に目を向けた。
「彼女の『あれ』は……『加護』か? 言語が違うのに通じているようだ、というのもあったな」
「……やはりそう思われますか。私も初めて目にしましたが……魔術、魔力よりも一段上の気配を確かに纏っておりますわ」
私の答えに周囲は一気に気を引き締めた。やはり、という顔をしているのは魔術に造詣の深いエルやジルである。国王様がエルではなく私に尋ねたのも、この中で最も魔術にたけているのは『シャーロット・ランスリー』であることはだれもが納得のことだからだろう。たとえ私が学生でありいち令嬢であったとしても、魔術において『ランスリーの紫』を唯一受け継ぐ『私』の右に出る者は、現在この国にはいない。
それでも、私が下手に断言をしなかったのは言ったとおり、『加護』というものを実際に見たのは初めてであるからだ。まあ、見たのが初めてだろうとも私はそもそも自称神を知っているので「ああ自称神の気配だな」と分かるけれども、まさかそれをここでカミングアウトするわけにはいかない。私はそんなアホではないのだ。
ただまあ、国王様やエルにジルといった『わかる人』には、小夏の纏う『それ』がただの魔術ではないということはわかる。特に彼らはエイヴァという人外に普段から接するからこそ、余計に如実に察せるのだろう。エイヴァのそれすら凌駕する異質さが。それが聖なる気配に満ちていれば『神の加護』という推測につながるのも道理なのだ。




