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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/16 誤爆


 どうしてこうなったのだろう。


 私はここ数日で何度目かの遠い目をして考えていた。


 ――現在地は王城。目の前には国王陛下と王太子殿下、ジルに宰相様、騎士団長様もそろっている。ちなみに王城魔術師の統括はジルが担っているので、必然代表もジルである。必要最低限に人数を絞ったのはひとえにこちらへの配慮だろう。


 そんな彼らに相対するのは私とエル、そして私たちの間に挟まれて引きつり切った顔をして居る小夏である。すでに小夏が目を覚ましてから数日がたっている。事が事だけに、迅速に情報伝達は行われ、小夏が目を覚まして翌日、エルたちとの顔合わせを終えたその日の午後には王城召喚の伝令がやってきた。個人間転移魔道具は魔力の登録をしていないと使用ができないので、通常の領地間大型転移門を使用してできる限り急いで足を運んで現在の状況に至る。


 王都につくまでは小夏も、異世界情緒あふれる街並みや魔術初体験に歓声を上げたり驚嘆したりと比較的元気だったのだけれど、王城に近づくにつれだんだんと顔色が白くなってきたのは仕方がないだろう。何しろ城には常駐の騎士もいるし、そもそも迎えに騎士がやってきたし。


「え、え、あたし、無事に帰れますよね……?」


 不安そうに何度も尋ねる小夏を私とエルでなだめすかしてここまでやってきたのである。そうして謁見の間、限られた人数の中ようよう国王陛下たちとの謁見と相成ったわけだが……まあ私たちが先に入室、首を垂れて待っていたら賢王の皮をかぶった国王・アレクシオ・メイソード様達がご登場。そして定型句「面を上げよ」が発声されたのだからもちろん顔を上げるわけだ。


 そうして、居並ぶ王族と目を合わせて三秒、彼女は叫んだ。



「またしても美形!」



 たぶん、彼女の美形耐性が限界を訴えていたのだと思う。小夏、基本正直だし。空気が読めないわけじゃないんだけど。うん、美形が飽和状態ってそれなりにきつい。


 だがしかしその声は、心からの叫びであったがゆえにそこそこ広さのあった謁見の間に響いた。何かを言いかけていたらしいがさすがの国王様やジル達も一瞬ぽかんとしていた。私とエルもまさかここで小夏の美形への限界が来るとは予測していなかったので、ポカンとした。宰相様と騎士団長様に至っては「ちょっと何を叫ばれのかわかりませんね、異世界語かな……?」とでも考えていそうな呆け具合である。広間には微妙な沈黙が満ちた。十秒くらい。小夏はやらかした! と真っ青になって自分の口を自分の手でふさいでいたけど手遅れにもほどがあるよね。


 どうフォローしたものか。私とエルの脳内を駆け巡ったのは多分同じ意図の思案だったと思う。いかに何事もなかったかのようにごまかすべきか。まあ国王様は国王様なので多分何とかなるだろうとも思っていたけれど。……思っていたけれど!


「ぶっ……」


 満ちる沈黙の中、聞こえたのは小さく噴き出す声。誰かと思った。国王だった。二度見した。やっぱり国王だった。小夏を含め、その場の全員が国王を見て、いったんそらし、もう一回国王を見ていた。


 しかし国王は肩を震わせて笑っていた。私は半眼になった。


「ちょ、ま、……ランスリーのが連れてくるやつとは、どれも全く……くくく、き、規格外だな……! ぶはっ! ふ、く、ふふふ、」


 お前に言われたくはない。


 軽く呼吸困難に見舞われている国王に私は思った。異世界からの迷い人によるまさかの発言で怒るでもなく困るでもなく、スルーすらせずに、遠慮もくそもない爆笑なんぞするからあなたは何年経ってもマジキチ疑惑が絶えないのだと。


 謁見の間には、国王の笑いしか響かない微妙な空気が広がった。ジルとラルファイス殿下がどうしようもないものを見る目で国王を見ている。宰相様と騎士団長様は頭を抱えてため息をついている。「どうして陛下は何年たってもこんな感じなのだろうか」と呟いて慰めあい、無意識だろうか、その手は胃を抑えていた。そうして、私とエルは困惑と羞恥で赤いのか青いのかよくわからない顔色になってこちらを見る小夏にゆっくりと首を振ったのだった。


 たとえば。国王のあの爆笑が、小夏の緊張を吹き飛ばすためだったり、不敬罪なんてそんなものに問うつもりはないというパフォーマンスであったというのであれば素直に尊敬をしただろう。実際、空気は「なんだこの異世界人」から「なんだこの国王」にとって代わり、残念なものを見る目線を独占しているのは国王陛下その人である。気まずい沈黙の空気を変えた、それは確かにそうだ。


 だがしかしそれを踏まえても国王のこれはただの笑い上戸である。なぜならば笑いすぎだ。まだ笑っている。むしろ呼吸困難を起こしている。いったい何が彼の笑いの琴線をそこまで刺激してしまったのだろうか。彼の本性を知る身内しかいないがゆえの暴挙であった。


 もはや入室した時にはそれなりにあったはずの緊張感も異世界人と相まみえることへの興味関心もどこかへ吹き飛び、宰相と私は「本当に、うちの陛下がちょっと常識がなくて申し訳ない」「いえ、こちらも突然叫んでしまい、緊張でおかしなことを口走ってしまったようで」と、さながら問題児の保護者と疲れ切った教師のような謝罪合戦である。そんな私たちの周囲ではジル達が生暖かい目で室内を見守り、エルが涙目の小夏に説明している。「大丈夫だよ、陛下は怖い人ではないんだ。ちょっと変わってるけど」。だいぶ変わっているのでは? との疑問が小夏の顔には浮かんでいたが幸い今度こそ声には出さなかった。彼女は学習できる少女なのである。そんな私たちのBGMは未だに国王の爆笑だけど。……お前はそろそろ黙れよ。






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