8/15 顔合わせは、顔面注意
小夏にはあらかじめ、注意をしていた。この世界の顔面偏差値は凶器である、と。しかしやはり平坦な顔の国日本出身女子高生。防御は難しかったらしい。
昨日の夜、最低限話しておきたいことは伝えた。隙を見て補足は必要だろうが、まあそれは何とかなると思っている。よって明けた本日。朝食後に応接間に私たちは集合し、ランスリー邸の主だった人物と顔を合わせることとなったのである。
部屋に集まったのは私と小夏はもちろん、エルに領主代理であるセルバート様、メリィにアリィ、執事長に侍女長、そのほか手の空いている侍女さんやメイドさん庭師やシェフ、護衛の筆頭などだ。さすがに使用人全員を集めるわけにもいかないので、そこは今後必要に応じてということになってしまうが致し方ない。
そして現在、部屋に足を踏み入れた瞬間固まった小夏はブリキの人形のように私を振り返った。
(目がつぶれそうな美少年とイケオジがいる……!)
そう小夏の目は語っていた。どうも彼女はイケメン耐性が高くはない。まあそれも仕方がないだろう。彼女が日本で芸能人であったとでもいうのならばともかく、ごく一般家庭の女子高生がそうそう常軌を逸した美形に遭遇することなどない。むしろ、私に「美女!」と叫んだ時のごとく「美少年とイケオジ!」と叫ばなかっただけ快挙ではないだろうか。
そもそも、貴族は顔面がやたらと整っている者が多いが、特にエルはその中でも『美少年』の名をほしいままにしている。そして同様に領主代理セルバート・アイゼン様もナイスガイなオジサマであって重ねた年齢がそのまま魅力となっている御仁である。そしてそのほか控えるメリィ・アリィを筆頭とした使用人さんたちもその所作の一糸乱れない美しさも相まって魅力あふれる者たちばかり。小夏は自己紹介をする前に三歩後ずさった。
「コナツ・ナガミネさんよ。エル。セルバート様、みんな、しばらくはここに滞在してもらうことになると思うから、助けてあげてね」
私がそっとその肩を支えて小夏を紹介すれば、小夏もおずおずと一礼する。
「ながみ、……コナツ・ナガミネです。あの、よろしくお願いします」
「――こちらこそ、よろしくお願いします。僕はエルシオ・ランスリー。シャロンの弟です。シャロンから少し、話は聞いています。不安も多いでしょうが、何かあれば遠慮せず頼って下さいね」
「コナツさん、ですね。私はセルバート・アイゼンと申します。現在ランスリー公爵領の領主代理として務めています」
「はいっ! お、お世話になります!」
ことさら優しく微笑んだエルに、紳士なセルバート様。答える小夏の声は裏返りかかっていた。その後私が紹介する形で、メリィたちの紹介も済ませたのだけれども小夏の頭に残っているかは怪しい。
まあ、この二年でググっと身長を伸ばしたエルは柔らかな黄土色の髪がさらさらと揺れる癒し系ながらも体が出来上がりつつある少年期と青年期の中間といった艶やかさを纏っているし、セルバート様はセルバート様でまさに『イケオジ』の鑑といいたい紳士な物腰の大人の男性である。耐性がなければ目がつぶれそうになるのも無理はない。もはやあれは暴力の域だと思う。
だがしかし、この二人はまだ序の口、というか、癒し系と紳士の組み合わせなのでまだ目に優しいセットであることを小夏はわかっているだろうか。昨日、一応伝えてはいるのだけれど。
この後小夏は確実に、きらきら系美青年の完成系としか言えない第二王子殿下と、野性的な魅力あふれる男前な王太子殿下、渋みが加わって深みを増したと評判の美形国王陛下、さらに衰え知らずの繊細な美貌の王妃殿下という、目に優しくない麗しの王室御一行に謁見することになる。
そのうえすぐに帰還できない以上はやはり私の友人たちにも紹介をする必要が出てくるのだが、その友人たちもまた、シルゥ様というロリ美少女、ソレイラというクール美女、リーナ様という癒し系美少女、リズ様というお姉さん系美女、シア様という凛々しい系美少女とそろい踏みで、アーノルド様もできる男然とした男前だし、ドレーク卿という爽やかイケメンまでいる上、完璧な美形と言って差し支えないエイヴァも出没する始末である。
……私も、ジルに会って間もないころはサングラスが欲しくて仕方がなかったことを思い出す。顔面偏差値とは時に凶器になるのだ。美人は三日で飽きるというが、何日経とうが目に痛い美形は目に痛い美形である。どいつもこいつもきらきらしている。
(え? イケメンレベル高すぎじゃないですか? あたしの目をつぶしに来てるんですか? 美女か美男しか存在しないとか、逆にあたしの平凡さが目立ってしまうという恐怖展開?!)
小夏は声には出さなかったが、すがるように私に向けられた顔にはしっかりと心情が書いてあった。だがしかし、こればかりは私にもどうにもできないのである。持って生まれた顔面を挿げ替えることはできない。あるいはエルたちに顔を隠してもらうという手もあるが……それ、なんて不審者。どういうことだと追及されること山のごとしである。
「……慣れるしか、ないのよ」
私がかけた言葉は、これからの生活に不安そうな少女に対する慰めのように、エルたちには聞こえたことだろう。
だがしかしその実態は美形どもを直視し会話をするという目に優しくない行為への激励である。
小夏は引きつった顔で、挨拶しかしていないというのに疲れ切ったように肩を落としていたのだった。




