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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/14 だからあなたを敬慕する(小夏視点)


「それって、」


 カラカラののどでかすれた声しか出ない。けれど早く、答えを聞きたかった。シャーロット様はじらさず、うなずく。


「ええ、小夏が『あちら』から『こちら』に来たように、誰かが『こちら』から『あちら』へ干渉した……あるいは、『あちら』の誰かが『こちら』を知っていた。干渉あるいは知ることができたってことなのよ、その『小説』の存在は」


 ひゅっと、息をのむ。心臓がバクバクと早鐘を撃っている。それは、だって、つまり。


「あたし、帰れるかもって、こと……?」


 期待にはやるあたしに、けれどシャーロット様は冷静だった。


「――結論を出すのは早計ね。本来、世界を越えて移動するにはとてつもないエネルギーが必要なのよ。こちらは人外も存在する世界だからね。私の予想通りなら本当に人外が関与していると思うし……」

「じゃあ、『人間』のあたしには、何も……」


 早々に期待を叩き潰された気がして、あたしは血の気が引いた。めまいがしそうなほど。けれどシャーロット様はそんなあたしを間髪入れずに否定する。


「いいえ。私の仲間にも人外はいるわ。『魔王』とかね? つまり、私が言っておきたかったのは、『あちら』と『こちら』は決して一方通行ではないということ。だから、帰還の可能性はある」


 美しい宝石のような紫色の瞳が、まっすぐあたしを、あたしだけを見据えていた。


「シャーロット、様……」

「混乱させてばかりで申し訳ないわね。でも、私は『事実』を曲げて伝えたくはないの」


 彼女に、嘘は見えなかった。


 厳しい人なのだと思う。この状況で、一気にここまで現実を見せて、期待させて。でも、やっぱり、優しい人なのだ。


 だって、何もわからないのが、一番怖い。


 それでも、やはりまだ飲み込み切れずにいるあたしの頭を撫でて、シャーロット様は笑った。


「大丈夫よ。あなたはあきらめる必要は一つもない。あなたには、この私がついているのよ。私は最初からこの小説の存在を知っていたし、その流れを壊すこともした。……そしておそらくはいつか、小夏のように迷い込む異世界人がいるであろうこともわかっていたわ。……この小説の『主人公』は『トリップヒロイン』だもの」


 だから、と彼女はあたしのほほを両手で包むようにして、覗き込む。


「だから、私はずっと、もし『異世界人』がやってきてしまった時に備えて、その『帰還方法』を、研究していたわ」

「―――っ!」


 あたしは声にならない声を上げた。シャーロット様は一つ一つ、言い含めるように告げる。


「さっきも言ったけれど、世界を飛び越えるには莫大なエネルギーが必要なの。それでも、私の研究では厳密に設定された条件下でのみ、成功が見える。……決して簡単ではないわ。まだ条件もそろっていないし、簡単に試すことも出来ない。下手をすれば『こちら』も『あちら』もまとめてお陀仏、ってことも考えられる。それぐらい危険よ。――それでも、私はやると言ったら、やる女よ」


 優しい、その人は。心底憧れた女性が生まれ変わった姿である、彼女は。自信にあふれて、かけらの悲観もなく、――どうしようもなく、惹かれた。


「しゃーろ、っと、さまぁ……」


 声も顔も見られたものじゃないと思うけど、それでも離されない手に、安堵した。『絶対』は、きっとない。それは『帰れる』ということにも、『帰れない』ということにも。そんな不安定な状態だけど、ここにはほかの誰でもない、シャーロット様がいる。それだけで、こんなに安堵した。


 だって、あたしは平凡な女子高生だけど。何のとりえもない受験生だったんだけど。特筆すべき点なんて刈宮様への敬慕くらいで。


 ……刈宮様に、憧れている。彼女を、尊敬している。敬愛しているといってもいい。それでも、それは偶像だった。彼女の存在をあたしがきちんと知った時、すでに彼女は故人だったから。


 けれど今、目の前にいるシャーロット様は『刈宮様』で、まばゆいほどに輝く、確かに生きている現実の少女だ。


 あきらめない。あきらめなくていい。帰りたい。そう思っていていい。

 そこでようやく、肩の力を抜けた、気がした。


 ――そしてそこからはランスリー家の皆さんの名前とか、王子様の名前とか、身分社会だから頑張って敬語つかわなきゃいけないとか、そんな話をひとしきりして、限界がきて眠っちゃったんだけども。


 確かにその中で、シャーロット様は言った、


「この世界、というか、貴族社会はとっても、なんていうか、顔面偏差値が異常なのよね。がんばるのよ」


 そう、確かに忠告をしてくれた。女神のごとき美女であるシャーロット様が言うのであれば相当だろうともちろんあたしは覚悟をした。……した、つもりだった。


 だがしかし一晩明けて現在、あたしは覚悟をしてなお眼がつぶれそうです!


 シャーロット様が弟さん……エルシオ・ランスリー様に合わせてくれるっていうからついて行ったら、扉の向こうに目もくらむような美形がいたよ!







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