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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/13 ある日目覚めたら(小夏視点)


 あたしの名前は長峰小夏。実に平々凡々な生活を送っていた日本の高校三年生だ。まあ受験が近くてピリピリしていて、寝不足だっていうのにあたしを朝から大声でたたき起こしつつも人が食べているものがおいしそうに見えるとか言いながらあたしの食べようとしたあんパンを横取りしてくるお母さんがいる、食に関して若干貪欲な血筋かもしれない女子高生なのだ。


 ――そんなあたしはある日目が覚めたら異世界にいました。


 おっけー、夢だね! と答えをたたき出したあたしはフツーだと思う。


 いやだって異世界とか。どんなファンタジー? 魔法があって、貴族がいて、ドレスきてて、剣も持ってて、魔物なんかもいて、王子もいるって? これはまさかあたし、ついに受験のストレスで幻覚と幻聴にさいなまれているのではなんて思っちゃったよね。


 しかも目の前には女神様みたいな美女。寝起きドッキリが過ぎて錯乱した結果、あたしはだいぶおかしなことを口走った気もする。というかこれがもしガチ誘拐だったらあたし超危険だったよね……? 美女……シャーロット様はずいぶんと辛抱強く根気よくあたしの話に付き合ってくれたんだなあって一晩よく眠ってちょっと冷静になったら思った。


 朝起きたら全部夢だったりしないかなーとふっかふかの布団の中で無駄な抵抗もしたけども。布団がフカフカな時点で夢じゃなかった。だってうちのせんべい布団にあるまじきフカフカさだった。


 まあ昨日一番の衝撃は、シャーロット様が刈宮鮮花様その人だったってことなんだけど。

しばらく人間やめてる奇声しか口から出なかった。シャーロット様はそれでもあたしが落ち着くのを待って、あたしの長々した問答にもこたえてくれて、マジ女神様だった。


 ……たぶん、あたしが、シャーロット様が刈宮様なんだって信じられたのは、その優しさとかどんなバカみたいな質問にも答えてくれる誠実さとか、……ここが日本じゃないって、ここが異世界なんだって、そういうのを教えてくれた時と同じように一つ一つ答えてくれたってこと、そういうのもあるんだけど、やっぱり彼女が他の追随を許さないオーラを持った美女だったからだと思う。


 なぜって、刈宮様も、オーラもち美女だったからだ。……そりゃ、あたしは実際にお会いしたことはないけれど、でも。教科書とか伝記とか、たまにテレビで今でも公開される映像とかで『刈宮様』のお顔は知っていた。美女だった。シャーロット様が非の打ちどころのない正統派美女だというのなら、刈宮様は少しきつめの顔立ちに茶目っ気のある笑みを浮かべたザ・デキる系美女だった。そんな刈宮様の隣に寄り添う杉原様はこれまた方向性の異なる清楚系美人だったんだけどその清楚系美人が口を開けば毒舌というギャップもすさまじかった……らしい。ともかく、あたしは刈宮様のお姿は映像とか写真でしか知らないけど、それでもにじみ出る風格をお持ちだったのが『世界の憧れ・刈宮鮮花様』なのだ。


 自信に満ちたシャーロット様の姿に、あたしの憧れの人が重なったら、そっか、って納得してしまった。納得出来ちゃった。


 ……『想定外のことを頭ごなしに否定するのは早計ね。現実は予想外なものよ。否定したいならその根拠を見つけないと』って、杉原様の著書『空に還る』の中で刈宮様も言ってた。その言葉を思い出したから、あたしの錯乱はあの程度で済んだのかなあって思う。まあ当の刈宮様がシャーロット様で目の前におわす美女なんだけれども。


 ――昨夜は、シャーロット様といろんな話をした。今も貸してもらってシャーロット様謹製『明日セカメモノート』はあたしのカバンの中に保管されているけど、そのノートの中身をところどころかいつまみつつ、これからかかわることになるであろう人たちのことや、今後のことも教えてもらった。


 ていうか、それを渡されたときは、読んだことのある異世界トリップものやゲーム転生ものなんかのセオリー通りの前世知識でチート! とか、破滅回避! みたいなのだと思ったから、そのためにあたしに『小説』のことを把握してほしいのかなーとか考えてた。


 でも、だ。


「ざっくり物語を説明すると、この『小説』はこの世界のありえた未来の一つ、という解釈になるわ。ストーリーとしては国王様の弟と魔王的存在が手を組んで、国を滅ぼそうぜと画策していたたくらみを主人公とその仲間たちが打ち破ってハッピーエンドという王道ファンタジー。ちなみに小説の中の『シャーロット・ランスリー』の役割は魔術戦闘ね。キャラ的には幸薄系チートの根暗ちゃんだったけど」


 幸薄系チート、とは……? と思ったけれどもノートの中の『シャーロット・ランスリー』の項目を流し読んでなるほど、と思うと同時に目の前のシャーロット様を二度見したよね。幸薄系のかけらも感じない。チートしかわからない……。


 そのチート系美女は美しく微笑んでおっしゃった。


「大丈夫よ、この私が『思い出している』のに何もしないわけがないでしょう? その小説の中で起こるはずだった事件は跡形もなく破壊したから問題ないわ。魔王? あれは、倒した敵が仲間になる法則で、紆余曲折はあったけれど、現在年齢詐称をしつつ一緒に学校に通ってるわよ。性格は残念だけど」


 そこで某有名少年バトル漫画の法則が適用される不思議。国を壊そうとした魔王を滅ぼさず封印もせず仲間になって年齢詐称しながら学生ライフを一緒に送るってどんな紆余曲折を経てそうなったんですか、シャーロット様……。と思いつつ、ふと気づいた。


「……あれ、ていうかじゃあ、もう『小説』は関係ないってことなんじゃ……?」

「そうね。だから、私があなたに見せたかったのは、小説の中身そのものではないわ。……でも、それは私が記憶を取り戻さなければ高確率で訪れていた未来である、ということを知ってほしかったの。……もちろんその未来は既に瓦解している。つまり、それが『小説の中の予定調和はない』ということ。それに『強制力』はない。――でも、確かにその小説はこの世界のありえた未来を示していた。……それがどういうことか、わかる?」


 じっとあたしを見つめる彼女に、あたしは愕然として、シャーロット様を見つめ返した。






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