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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/12 似て、非なるもの


 小夏の絶叫はすさまじかった。防音結界を張っていなければメリィたちが問答無用ですっ飛んできて小夏を捕縛しかねないぐらい常軌を逸した発狂だった。したたかに鼓膜がダメージを受けた。


 そこからまず小夏が人間の言葉を思い出すのに時間がかかった。ちょっと恐怖を覚える発狂だった。


 その後、始まったのは、人間に立ち返った小夏による小夏のための怒涛の『刈宮鮮花トリビア』じみた問答である。私が『刈宮鮮花』であったことを証明するためには仕方のなかったことであると理解はしているが、なぜ彼女はそんなことを知っているのかという些細な話からまさかのひっかけ問題まで多彩だった。いまだ小夏の腕の中に抱きしめられている斗海作の伝記にいったい何が書かれているのか恐ろしすぎて知りたくない。我が前世悪友殿は全くもって躊躇も容赦もお持ちではないことだけは私が一番よく知っているけれど。


 結論だけいうと小夏は私が『刈宮鮮花』だったということを納得した。最終的にこれ以上は輝けないだろうという瞳のきらめきと共に「あ、あ、あ、握手してくだひゃい!」と言われ、噛んだことに落ち込み、しかしきっちり握手をした小夏。そして流れるように「さささ、サインください!」と今度は噛まずに言えたことに満足そうにしながら彼女の『聖書(バイブル)』(私にとっては『魔書』)を差し出してきた小夏。ちょっといろいろ悟りに至った私は無心でサインをした……。


 なお、『刈宮鮮花トリビア』中に、エルが屋敷に帰還した気配がしたけれど、この部屋には近づいてこなかった。メリィかアリィあたりが話を通してくれたのだろう。なお、エイヴァの気配がしなかったことから察するに何をしでかすかわからないエイヴァ(不確定要素)はジルが王城に引き取ってくれたらしい。今世の我が悪友殿と義弟は実に賢明である。王城も王太子殿下ご卒業の式典準備に加え異世界人落下の一報にてんやわんやだろうが、当の異世界人である小夏といまだに空気の読めない人外がエンカウントすることに比べれば些細な問題である。


 そして引き続き夕食を挟んで現在、私と小夏はまだまだ面談続行中である。仕事の指示と今後の予定についてだけ軽くエルとセルバート様と話したが、まだ心の安静が必要なので私以外の面々と小夏が顔を合わせるのは明日以降、と言いくるめておいた。小夏がいかついおっさんとかではなかったことに感謝である。外見幼めなこともプラスに作用して、「いたいけな少女に無理をさせてはいけない」という説をゴリ押ししても不自然にならなかった。たぶん、うちの使用人さんたちがちょっとばかり過激派であることも関係しているけど。鉄面皮かつシルゥ様至上主義であるソレイラすらも無表情にドン引きさせたのが我らが最強の使用人さんたちなのである。


「ああ、うん。そうだね、ちょっとまだ、刺激が強いかもね……」


 そういったエルの瞳は笑っていたけど果てしなく遠いどこかを見ていた。


 ともかく。


 そんな経緯を経て明日までの猶予をもぎ取った私は必要最低限の知識の共有をすべく、再び小夏と向き合っているのである。


「――さて、小夏。これからとっても大切なことを説明しなければならないのだけれど、大丈夫かしら? 疲れていると思うけれど、明日からはここまで二人きりで話す機会はなかなかないと思うから、もう少し頑張って頂戴ね」

「はい! 大丈夫です、シャーロット様!」


 小夏は元気よく返事をした。敬礼付きだった。とりあえず敬礼はやめさせた。ちなみに、彼女は私が『刈宮鮮花』であることが確定した瞬間から『シャーロットさん』ではなく『シャーロット様』と呼び方を改めた。こちらの世界の身分社会上その呼び方で何ら問題はないんだけれども、スムーズな『シャーロット様』呼びにたどり着くまでに『刈宮様』と呼び掛けては口を押さえて言い直すという過程を経た。信者ェ……。


 話を戻そう。


「……まず、この世界は『現実』だということは認識しているわね?」

「はい! これだけ見せつけられれば、さすがのあたしでも夢とは思わないです」

「そうね。これは夢ではない。『現実』よ。……そのうえで、私があなたに知っておいてほしいことは、『ここが私が生前読んだある小説に酷似した世界である』ということよ」

「…………えっと、そろそろ驚かなくなってきたんですけど、『本の中の世界に入っちゃった』みたいな現象ってことですか……?」

「似て非なるものね。さっきも確認したけれど、この世界は『現実』だわ。人は生きているし、死ぬ。殴られれば痛いし、病気にもなる。だから、その小説にこの世界は『酷似している』けれど『本の中の予定調和』はないわ」

「……?」


 小夏は微妙に困った顔のまま、首をかしげた。まあたしかに、わかりづらいだろう。おそらくそもそも『明日セカ』を彼女は知らないだろうし。とくに有名小説でも大長編でもなかったからね。


 だから私は、夕食後に自室によって、机の奥底から引っ張り出してきた懐かしいものを彼女に渡した。


「……ノート?」


 小夏はそれを受け取って、目を瞬く。けれど促す私に従ってページをめくった瞬間、瞠目した。


「……それは、私がこの世界で『覚醒』し、『ここが小説の世界に似ている』と認識した時に書いたものよ。日本語で、その『小説』の中にあった流れをメモしていたの」


 そう、それは、特に活躍の場もなかったがゆえに懇々と私の机の奥底で保管され続けていた、九歳の私が記した『明日セカメモノート』である。






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