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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/2 あなたには『それ』が見えている


「――あら、あなたたち、うがちすぎる思考は単純なことを見逃しますわよ? この子、たぶん『ただの不審者』じゃありませんもの」


 私は、脱線しつつもうなりを上げて回転した己の思考回路を微塵も悟らせないよう、余裕気に笑った。


「……どういうこと?」


 眉をひそめたエルが問う。その隣、警戒を解かないジルも片眉を上げて私に先を促す。ディーネとノーミーも私の発言に、まずは不穏さを引っ込めてくれた。まあエイヴァはパチリと瞬きつつ、さして興味はなさそうなままだったが、それ以外の反応は上々である。ほくそえみ、私は彼らの視線を誘導するように頭上を見上げた。


「ほら、あそこを御覧なさいませ」

「……空? 何もありませんが……、っ!」


 ハッと、目を見開いたのはジルがおそらく最も早かっただろう。じらす意味もないと私はうなずく。


「ええ、魔術の痕跡がありませんわ。どれだけの手練れだろうと、人間一人移動させて、かけらもそのあとが残らないなんてありえませんのに。……この()がいうのですから、おわかりでしょう?」

「つまり、その子は……『魔術以外でここに現れた』ってこと、だよね」

「ええ、そうよ、エル。そもそも、彼女が何らかの意図をもってここに現れたとするなら、おかしいところが多すぎるのですわ」

「まあ、そうですね。彼女の服装、髪色、出現場所に出現方法、疑ってくれとばかりなのにいまだに目を覚まさないところ……意識がないまま殺されてもおかしくはないでしょうに」


 ジルも警戒は怠らないまでも、思考の幅を広げ始めた。ディーネたちは影の中、沈黙を保っている。

 そこで、私は意味深に視線を『彼』に流した。


「そうですわね。まあ、強いてこれが誰かの一計だとして――私にも悟らせないほど完璧に魔術の形跡を隠蔽できて、こんなにも意味不明なことをやってのける輩なんて一人しか思い当たりませんけれど……ね?」

「「「「……」」」」


 じっ、と。つられるようにジル達の視線も、『彼』に注がれた。その『彼』はこの場で唯一実に暢気そうに私たちの話が終わるのを今か今かと待っていて、さながらお預けを食らった犬のような様であったが、さすがに全員からの視線には気づかざるを得ない。


「……えっ」


 ――そう、『彼』ことエイヴァは、興味なさげに『森』に入りたそうにそわそわしてたところに突如注目を浴びてぎょっと目をむき飛び上がった。「えっ。えっ? 我、何もしていないぞ? 我、イイ子で待っているのだぞ?」と実に困惑して私を見てエルを見てジルを見るあたりここ数年の教育が効果を発揮しているなと実感する。昔は何一つ気にしないで単独『森』に突撃をかまそうとして全員で取り押さえなければならなかったところなのに。


 だがしかしそんな成長もジル達の疑心をあおった今は二の次なのである。


「ええ、確かにエイヴァは今、イイ子で待っていましたが……だからと言って突拍子のないドッキリを仕込んで、きれいに忘却しているという可能性も捨てきれませんね」

「ぬっ!?」

「エイヴァ君ですもんね。ときどきまったく意味のない行動をして僕らを脱力させますもんね……。シャロンもやろうと思えばできるかもですが……シャロンは女の子にやさしいですし、無駄なことはしないからやらないでしょう」

「ぬぬっ!?」

「無駄に細部に凝ったりしそうですわよね、エイヴァ。いまだ冷めないゴリラへの愛は目を見張るものがありますもの、思い立ったらどこまでも突き詰めたりすることもありそうですわ」

「ぬぬぅっ!?」

「お嬢、うちらが吐かせます」

「お嬢、ウチらなら捕獲、慣れてます」

「窃盗常習犯、つぶしましょう」

「学ばない泥棒、ぶちのめしましょう」

「「いつでも行けます、お嬢」」

「なんとっ!?」


 ちょいちょい、容疑者認定につき焦りのにじんだ相の手が入るけれど、そんな声は総無視である。特に、日々エイヴァと激闘を繰り広げる『影』たる双子の気合の入りようは尋常ではない。むしろ殺る気が倍増した。エイヴァは一体どれだけ彼女たちのヘイトを積み上げているのだろう。何度でも懲りずに台所で窃盗を繰り返すエイヴァが全面的に悪いけれど。どうしてそこは成長しないのか。いっそ成長する気がないのだろうか。いや、ランスリー邸以外では盗みを働かなくなったようなのである意味ディーネたちと戯れること自体が楽しいからやめないのか……?


 いずれにせよ日頃の行いのおかげでエイヴァへの疑念はとどまるところを知らない。微妙に理由がなくもない濡れ衣がエイヴァを襲っている。まあ私が仕向けたんだけれども。もはやこの場の空気は『謎の少女への不審者疑惑』<『エイヴァへの疑念』である。


 そうして、追い詰められた、エイヴァは。



「我、知らぬ! その娘など知らぬぅ! ……大体、その娘、『外』のものではないか! 我、そんなことやらぬ!」



 私が待っていた言葉を、叫んだ。







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